懸魚(読み)けんぎょ

精選版 日本国語大辞典 「懸魚」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぎょ【懸魚】

〘名〙 (「げんぎょ」とも)
① =げぎょ(懸魚)① 〔十巻本和名抄(934頃)〕
今昔(1120頃か)一三「一の僧房有り、微妙に造たり。破風・懸居・子・遣戸・蔀・天井、皆吉く造たり」
伊呂波字類抄鎌倉)「懸魚 クェムキョ」
日葡辞書(1603‐04)「Guenguio(ゲンギョ)
釣針にかかった魚。
※日葡辞書(1603‐04)「Qenguio(ケンギョ)

げ‐ぎょ【懸魚】

〘名〙 (「げんぎょ」の撥音「ん」の無表記から)
屋根の破風板につけ、棟木や桁の木口を隠す飾り。中央のものを本懸魚(おもげぎょ)左右の下のものをくだり懸魚、脇懸魚あるいは桁隠しなどという。板を各種の形にくりぬいて取り付ける。火災を嫌う意味で、水に関係の深い魚形から出たといわれるが、日本には魚形のものはなく、その形によって梅鉢懸魚猪目(いのめ)懸魚、鏑(かぶら)懸魚などがある。けんぎょ。げんぎょう。〔和漢三才図会(1712)〕
② 紋所の名。葉状部が剣の形をしたものと、桔梗(ききょう)花弁に似ているものの二種ある。六葉。けんぎょ。

かけ‐ざかな【懸魚】

〘名〙 =かけ(懸)の魚(うお)①〔俚言集覧(1797頃)〕

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デジタル大辞泉 「懸魚」の意味・読み・例文・類語

げ‐ぎょ【懸魚】

屋根の破風はふの中央および左右に下げて、棟木けたの先端を隠す装飾板。三花みつはなかぶら梅鉢の目などがある。けんぎょ。

かけ‐ざかな【懸(け)魚】

懸けのうお1」に同じ。

けん‐ぎょ【懸魚】

げぎょ(懸魚)

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改訂新版 世界大百科事典 「懸魚」の意味・わかりやすい解説

懸魚 (げぎょ)

屋根の妻において,棟木や母屋桁(もやげた),軒桁の木口を隠すために破風板(はふいた)の下に取り付けられた装飾用の材をいう。火災を嫌って水に関係の深い魚の形を付けたともいうが,日本では魚形のものは用いていない。ただ一つ東寺の慶賀門のものが魚の尾の形とみえないこともない。取り付ける場所により,棟木位置のものを単に懸魚または拝み懸魚,母屋桁や軒桁の位置に付けるものを桁隠しまたは降り懸魚といって区別することもある。また,唐破風(からはふ)の棟木位置に付けるものを兎の毛通し(うのけとおし)という。形によって,ふつう猪目(いのめ)懸魚,蔐(かぶら)懸魚,三花(みつばな)懸魚,梅鉢懸魚の4種に分けられる。猪目懸魚は最も古くからあり,猪目と呼ぶハート形のくり抜きが付く。蔐懸魚は輪郭は猪目懸魚に似るが,猪目がない。三花懸魚は蔐懸魚を3個組み合わせた形をしたもので,禅宗様に用いられた。梅鉢懸魚はほぼ六角形をした簡単なもので,書院や客殿,城郭に多く用いられた。いずれも中央上方に六葉と樽の口と呼ぶ飾りが付くが,元来はこれで棟木や桁の木口に打ち付けたものであろう。懸魚は時代がくだるとともに装飾性を増す傾向があって,左右にひれを付けるものが多くなり,近世には懸魚のかわりに鳥や竜の彫刻を付けるものもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「懸魚」の意味・わかりやすい解説

懸魚
げぎょ

日本建築で、妻の破風板(はふいた)の下にあって棟木(むなぎ)や桁(けた)の木口を隠す飾り板。簡単なものは五角形あるいは六角形の切(きり)懸魚で、ついで梅鉢(うめばち)懸魚となり住宅、門などに用いられる。社寺の建物では和様のものに猪目(いのめ)懸魚、禅宗様には(かぶら)懸魚、三花(みつはな)懸魚がつく。近世になると浮彫り、透彫りの彫刻を飾るものもある。破風板の途中で桁を隠す懸魚は降(くだり)懸魚あるいは桁隠(かくし)ともいう。また、唐破風の中央につくものを兎毛通(うのけとおし)という。

[工藤圭章]


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百科事典マイペディア 「懸魚」の意味・わかりやすい解説

懸魚【げぎょ】

屋根の妻におき破風(はふ)の下にたらし,棟木(むなぎ)や(けた)を隠す飾板。破風の拝み下のものを懸魚,左右の桁部分のものを桁隠という。五角形の梅鉢懸魚,猪目(いのめ)の形の猪目懸魚,三花懸魚等。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「懸魚」の意味・わかりやすい解説

懸魚
げぎょ

建築装飾の一つ。中国や日本の建築で,破風 (はふ) の下部内側またはその左右に六葉といわれる金属製や木製の栓で取付け,棟木や桁の先を隠すための飾り板。形により梅鉢懸魚,猪目 (いのめ) 懸魚,かぶら懸魚,三花懸魚などの種類がある。当初魚をつるしたような形であったのでこの名がある。

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普及版 字通 「懸魚」の読み・字形・画数・意味

【懸魚】けんぎよ

魚符。

字通「懸」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の懸魚の言及

【社寺建築構造】より

…妻飾には豕扠首(いのこさす),二重虹梁蟇股,虹梁大瓶束,狐格子などがある。破風は桁と棟木にかけられるが,それらの木口を隠すために,繰形(くりかた)で装飾を施した懸魚(げぎよ)がつけられる。
[壁]
 は真壁がほとんどで,大壁は江戸時代の土蔵造の経蔵や特殊な堂にしか見られない。…

※「懸魚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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