成層圏循環(読み)せいそうけんじゅんかん

改訂新版 世界大百科事典 「成層圏循環」の意味・わかりやすい解説

成層圏循環 (せいそうけんじゅんかん)

普通,成層圏における大規模な大気の流れを指す。成層圏の大規模な大気運動は,対流圏と同様,鉛直速度に比べ水平速度が大きい。すなわち,水平面内の運動が卓越している。成層圏では冬型循環と夏型循環が特徴的な循環である。冬型から夏型へ,あるいは夏型から冬型への移行は急激に行われる。その移行時期も年による違いがあり,冬型循環の特徴が崩れるのは通常2月下旬から4月上旬にかけて,秋になって冬型循環に入るのは10月上旬から中旬にかけてである。北半球冬季における平均的な水平循環の大きな特徴は,北極付近に中心をもつ低気圧アレウトアリューシャン列島上空に中心をもつ高気圧が高緯度に存在することである。前者極夜渦後者アリューシャン高気圧という。極夜渦を形成する偏西風帯の中にはジェット気流が存在し,極夜渦とアリューシャン高気圧の間では特に風速が強い。このジェット気流は,高度60km付近にみられる極夜ジェット気流の軸をとりまく風速の強い領域が下層に伸びたものである。夏季の水平循環の特徴は,北極に高気圧の中心があって,これをとりまいてほぼ緯度線に平行に東風が吹いていることである。冬型循環が1波数分布を示すのに対し,夏型循環ではほとんどじょう乱が認められない。これは成層圏のじょう乱は対流圏からの伝搬によるもので,冬季は波数の小さいじょう乱ほど伝搬しやすいが,夏季にはじょう乱が対流圏から成層圏へ伝わりにくくなるためである。南半球では南極が,南半球の冬季には低気圧の中心,南半球の夏季には高気圧の中心になる。この結果,冬には西風,夏には東風が卓越するのは北半球と似ているが,夏も冬もじょう乱が非常に小さく,流れがほぼ緯度線に平行になっているので,冬の循環は北半球と大きく異なっている。冬季間,突然昇温に伴って極夜渦が崩壊し夏型循環に近づいた後,あるいは一時夏型循環に変わった後にふたたび冬型循環に戻る変化は,成層圏独特のドラスティックな現象である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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