成朝(読み)せいちょう

改訂新版 世界大百科事典 「成朝」の意味・わかりやすい解説

成朝 (せいちょう)

鎌倉時代初期の仏師生没年不詳。12世紀後半の奈良仏師慶派)の正系の出身で,祖父は七条仏所の康助,父は康朝治承5年6月(1181年)からの南都興福寺の復興造営にあたって京都仏師院尊,明円らと主要堂塔の造像担当を競ったが,食堂造仏にあたったにすぎず,その後85年(文治1)鎌倉幕府の招きで関東に下り源頼朝発願の鎌倉勝長寿院の造像をおこなっているが,この時も幕府に興福寺造像に関する訴状を提出している。これも中金堂弥勒浄土像だけを製作したにとどまり,この賞として法橋に叙せられている(1194)。成朝の生涯は京都仏師との対決のうちに終わったと思われるが,彼の鎌倉下向は,その後の慶派仏師,とくに運慶鎌倉武士団との結びつきを考えるうえで重要な事実である。正系仏師ながら後継者のなかったのは,かなり若い時期に没したからと思われる。作品も確実なものはないが,1184年(元暦1)ごろ完成したと思われる興福寺西金堂の本尊だったと伝える同寺の木造仏頭を彼の遺作とする説もある。
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朝日日本歴史人物事典 「成朝」の解説

成朝

生年:生没年不詳
平安末・鎌倉初期の仏師。康助の孫で康朝の子と伝えられる。奈良仏師の正系をひくが,没後その血筋は途絶え,傍系の康慶,運慶父子に受け継がれる。治承4(1180)年の平氏による南都焼討ち後,翌年6月から興福寺の復興造営に当たり,京都の仏師を率いる明円(円派)や院尊(院派)と主要堂宇の造仏担当をめぐって争うが,若年のためか,食堂の造仏のみにとどまる。その後,文治1(1185)年に鎌倉幕府の招きで関東に下り,源頼朝発願の勝長寿院本尊阿弥陀如来像や二階堂永福寺丈六阿弥陀如来像の制作に当たった。この成朝の鎌倉下向は,その後の慶派,特に運慶と鎌倉武士との関係を考える上で重要とみなされる。建久5(1194)年9月には,興福寺中金堂弥勒浄土の造仏により法橋に叙せられた。なお,文治5年ごろ完成の興福寺西金堂本尊に比定される木造仏頭は成朝の作の可能性が高い。<参考文献>水野敬三郎「興福寺木造仏頭について」(『MUSEUM』108号)

(浅井和春)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「成朝」の意味・わかりやすい解説

成朝
せいちょう

生没年不詳。鎌倉初期の仏師。12世紀後半、奈良仏師の正系を継ぐ康朝(こうちょう)を父に生まれる。1181年(治承5)奈良・興福寺の復興に関して京都仏師の院尊、明円(みょうえん)らと争って敗れ、食堂(じきどう)の造仏にのみ携わったあと、85年(文治1)鎌倉幕府の招きで関東に下り、勝長寿院の造像を行った。その後幕府に興福寺造像に関する訴状を提出したが、これも中金堂弥勒(みろく)浄土像だけを制作したにとどまったものの、この賞として法橋(ほっきょう)に叙せられた。正系仏師でありながら作品も確実なものはなく、後継者もないのは、若年で没したためとも推測されるが、1184年(元暦1)ごろの完成とされ、興福寺西金堂の本尊であったと伝えられる同寺の木造仏頭は彼の作だとする説もある。彼の鎌倉下向は、後の奈良仏師、慶派(京都の七条仏所)の運慶と鎌倉との結び付きを考えるうえで重要である。

[佐藤昭夫]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「成朝」の解説

成朝 せいちょう

?-? 平安後期-鎌倉時代の仏師。
康朝(こうちょう)の子。定朝(じょうちょう)直系の奈良仏師。治承5年(1181)興福寺復興造営の際,造仏担当をめぐり京都仏師の院尊らに敗れ,食堂(じきどう)の造仏にのみかかわる。文治元年鎌倉幕府にまねかれ,勝長寿院の仏像などを制作。建久5年(1194)興福寺中金堂弥勒(みろく)浄土像の制作により法橋(ほっきょう)となる。

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世界大百科事典(旧版)内の成朝の言及

【興福寺仏師職】より

…平安中期の11世紀前半に活躍した定朝によって職業仏師としての地位が確立して以後,奈良や京都などの大寺院には仏師がおり,仏所が置かれた。興福寺では定朝の子孫覚助,頼助,康助らが大事業のたびに大仏師に任ぜられたが,鎌倉時代初頭に彼らの系統に属する成朝(せいちよう)の代になって,寺院の職制(組織)として大仏師職が確立され,社会的にも認められることとなる。興福寺大仏師職はもっとも早い大仏師職の例で,1186年(文治2)に成朝が任ぜられていると称した記録(《吾妻鏡》)が初見である。…

※「成朝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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