戦旗(読み)せんき

精選版 日本国語大辞典 「戦旗」の意味・読み・例文・類語

せん‐き【戦旗】

[1] 〘名〙 戦争に用いる旗。戦争の時、軍隊が立てる旗。
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「戦旗を靡びかせ軍勢を張り」
[2] 文芸雑誌。昭和三年(一九二八)五月から六年一二月まで刊行全日本無産者芸術連盟ナップ)の機関紙労農芸術家連盟機関誌文芸戦線」とともにプロレタリア文学中心で、激しい弾圧を受けた。「蟹工船」「太陽のない街」などを掲載。

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デジタル大辞泉 「戦旗」の意味・読み・例文・類語

せんき【戦旗】[書名]

文芸雑誌。昭和3年(1928)5月創刊、昭和6年(1931)12月廃刊。全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関誌。小林多喜二徳永直らの作品を掲載し、プロレタリア文学運動の中心となった。

せん‐き【戦旗】

戦争のときに用いる旗。
[補説]書名別項。→戦旗

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改訂新版 世界大百科事典 「戦旗」の意味・わかりやすい解説

戦旗 (せんき)

昭和初年のプロレタリア文学の代表的な雑誌の一つ。1928年(昭和3)5月創刊,31年12月廃刊。全41冊。28年3月の三・一五事件に抗するため,蔵原惟人らの前衛芸術家同盟中野重治らのプロレタリア芸術連盟がその月のうちに合同し,結成したナップ(全日本無産者芸術連盟)の機関誌。それまでの蔵原らの機関誌《前衛》と中野らの機関誌《プロレタリア芸術》との合体であり,《文芸戦線》の社会民主主義的傾向に対して,共産主義芸術運動の展開をめざした。上げ潮だった革命運動に芸術面から進んで呼応し,理論上でも作品上でも運動組織上でも独自な展開と高揚をつくりだして,プロレタリア芸術運動の中心となった。評論では蔵原の《プロレタリア・リアリズムへの道》など,小説では小林多喜二《一九二八年三月十五日》《蟹工船》,徳永直《太陽のない街》などが掲載された。合法的な宣伝啓蒙の場をもたなかった共産党のためにその場を提供する形になっていたため,発行部数もはじめの7000から2年後には一時2万6000に達した。やがて政治的宣伝,啓蒙を主とするようになり,ナップは芸術運動機関誌として別に《ナップ》を30年9月に創刊した。末期にはナップから《戦旗》を切り離し,革命運動内の一グループが握るなどのことがあった。
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百科事典マイペディア 「戦旗」の意味・わかりやすい解説

戦旗【せんき】

1928年5月,ナップ(全日本無産者芸術連盟)の機関誌として創刊されたマルクス主義の文学・芸術雑誌。《文芸戦線》の社会民主主義的傾向に対抗。小林多喜二の《蟹工船》や徳永直の《太陽のない街》などを掲載,蔵原惟人中野重治三好十郎らが活躍した。1930年新しく《ナップ》が創刊されると大衆的啓蒙雑誌となり,コップ結成とともに1931年12月廃刊。
→関連項目小林多喜二壺井繁治

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「戦旗」の意味・わかりやすい解説

戦旗
せんき

文芸雑誌。1928年(昭和3)3月日本共産党支持の日本プロレタリア芸術連盟と前衛芸術家同盟が合同し結成した全日本無産者芸術連盟(略称ナップ)の機関誌として5月創刊。12月連盟が全日本無産者芸術団体協議会(ナップ)に改組され、新設の戦旗社が刊行。しだいにナップ機関誌から政治的啓蒙(けいもう)雑誌へと性格を変え、30年9月戦旗社はナップより独立。31年11月ナップが日本プロレタリア文化連盟(略称コップ)に発展的に解消するのに応じ、12月号で終刊。発禁処分などによる改訂版を除き全43冊。ほかに別冊付録『少年戦旗』『婦人戦旗』など。厳しい弾圧に抗し最盛期には2万3000部発行。小林多喜二(たきじ)『一九二八年三月十五日』、徳永直(すなお)『太陽のない街』をはじめ、中野重治(しげはる)、村山知義(ともよし)、蔵原惟人(これひと)らのナップを代表する作品や評論を掲載し、対抗した労農芸術家連盟の活動を圧倒し、この期のプロレタリア文学運動の活動を最大に反映した。復刻版(1976~77・戦旗復刻版刊行会)がある。

[祖父江昭二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「戦旗」の意味・わかりやすい解説

戦旗
せんき

文芸雑誌。 1928年5月~31年 12月。 41冊。プロレタリア文学運動の戦線統一を目指して結成されたナップ (全日本無産者芸術連盟) の機関誌として発足。蔵原惟人,中野重治,小林多喜二,徳永直,三好十郎,立野信之,佐多稲子,村山知義らが参加。小林の『一九二八年三月十五日』『蟹工船』,徳永の『太陽のない街』,中野の『春さきの風』『鉄の話』,村山の『暴力団記』,三好の『傷だらけのお秋』,立野の『軍隊病』その他の力作がここに発表され,相次ぐ発禁処分にもかかわらず号を重ねた。衛星誌として『少年戦旗』 (1929) ,『婦人戦旗』 (31) も創刊されたが,コップ (日本プロレタリア文化連盟) の結成とともに3誌ともに終刊,コップに引継がれた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「戦旗」の解説

戦旗
せんき

1928年(昭和3)5月創刊のプロレタリア文学雑誌。同年の日本共産党への弾圧(3・15事件)の直後に結成された全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関誌となる。小林多喜二「蟹工船」,徳永直(すなお)「太陽のない街」などの小説のほか,宮本百合子・鹿地亘(かじわたる)・壺井繁治らの詩や戯曲・評論が掲載され,プロレタリア芸術運動の中心になった。あいつぐ発禁処分の後,日本プロレタリア文化連盟(コップ)の結成で31年12月終刊。

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世界大百科事典(旧版)内の戦旗の言及

【少年戦旗】より

…1920年代後半からの日本の労農少年団(ピオネール)運動のなかで,子どもを〈プロレタリア意識〉で教化し,組織していくために発刊された。29年2月日本プロレタリア作家同盟創立総会での猪野省三の提案が直接の契機となり,同年5月,全日本無産者芸術連盟と作家同盟の共同機関誌《戦旗》の付録のかたちで創刊号が出された。内容は,プロレタリア童話・童謡のほか,科学読物,時事物,子どもの投書などもみられる。…

※「戦旗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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