手形抗弁(読み)テガタコウベン

デジタル大辞泉 「手形抗弁」の意味・読み・例文・類語

てがた‐こうべん〔‐カウベン〕【手形抗弁】

手形上の請求を受けた者が、その請求を拒否するために主張しうる事由

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精選版 日本国語大辞典 「手形抗弁」の意味・読み・例文・類語

てがた‐こうべん ‥カウベン【手形抗弁】

〘名〙 手形上の請求を受けた者が、支払いの拒否を正当に主張できる一切の事由。

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改訂新版 世界大百科事典 「手形抗弁」の意味・わかりやすい解説

手形抗弁 (てがたこうべん)

手形(小切手)金の請求を受けた債務者が,その請求者に対し支払を拒むために主張することができるすべての事由を手形抗弁という。これには,物的抗弁と人的抗弁とがある。

 物的抗弁は,手形という物自体に付着する抗弁であり,取得者の善意悪意を問わず,また被請求者と請求者とが手形授受の直接の当事者か否かを問わず,すべての請求者に対して主張しうる抗弁をいう。これには,手形債務負担能力がないこと,偽造・無権代理による手形行為であること,抗拒不能の状況下での署名であることなど,手形債務の成立を否定する抗弁と,手形上の記載から明らかな事由(手形要件欠缺けんけつ),満期未到来,手形の時効完成ほか)とがある。

 物的抗弁以外の事由はすべて人的抗弁であり,これは手形の所持人である人に付着する抗弁である。したがって,手形所持人が善意か悪意か,被請求者と請求者とが手形授受の直接の当事者か間接の当事者かにより抗弁の主張が許されたり許されなかったりする。手形の振出人と受取人,裏書人とその被裏書人などのように,手形授受の直接の当事者間では,およそ理由のある事由はすべて抗弁として主張できる。たとえばAが売買代金支払のため,請負工事代金の支払のため,金銭の貸付けを受けるためなどの目的でBに手形を振出交付したが,BがAに売買目的物を引き渡さず,工事を完成せず,貸付金を交付せずに満期にBがAに手形金の支払を求めてきても,AはBの契約不履行を理由に支払を拒むことができる。しかし,これらの事情の下にAよりBに交付された手形がBよりCに裏書譲渡された場合には,原則としてAはBの契約不履行を理由に第三者Cよりの手形金請求を拒むことは許されない。これを人的抗弁の切断ないし制限という。このように人的抗弁切断の法則を採用したのは,前者間の事情を知らない善意の第三者を保護することによって,第三者が安心して手形を取得できるようにし,手形の流通性を高めるためである。けれども第三者(前述のC)が債務者Aを害することを知りながら手形を取得したときは,AはBに対する抗弁をもってCにも対抗しうる。これを悪意の抗弁という。Cが手形をBより取得する際に,BのAに対する契約不履行を知りつつ,したがってAがCに対し手形金の支払をすれば損害を受けることになるのを知りつつ手形をBより取得したときは,AはBに対して主張しうる契約不履行の抗弁をもってCにも対抗し,Cの手形金請求を拒むことができる。実際上よく生ずるのは,手形に振出署名をし,特定の者に交付する予定で保管中の手形が盗取されまたは紛失するという事故である。このような場合には振出人の意思による交付はないが,盗人,拾得者がその手形を善意・無重過失の第三者に譲渡したときは,振出署名者は手形金の支払を免れないことになっている(交付欠缺の抗弁)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「手形抗弁」の意味・わかりやすい解説

手形抗弁
てがたこうべん

手形によって請求を受けた者が、その請求を拒絶するために主張するいっさいの事由。手形債務者の利益と手形所持人の利益との調和を図るために、抗弁事由を、いわゆる物的抗弁と人的抗弁とに分け、前者についてはすべての所持人に対し主張できるが、後者はいわゆる人的関係に基づく抗弁であって、直接の相手方に対しては主張できるが、その後の所持人に対しては裏書により抗弁が切断されるため、対抗できないものとしている(手形法17条・77条1項1号)。

 物的抗弁には、手形の方式の欠缺(けんけつ)、満期の未到来、時効の完成など、手形の記載より生ずる抗弁と、行為者の無能力、手形の偽造・変造、無権代理など、手形行為の有効な成立を否定する抗弁とがある。前者は、手形の記載上明瞭(めいりょう)な抗弁であるから、これをすべての手形所持人に対抗できる物的抗弁としても、手形取得者を害するおそれはないが、後者は、手形面の記載によってはわからない抗弁事由であり、これを物的抗弁にすることは手形取得者にとって不利ではあるが、とくに手形債務者の利益を考慮し、これを物的抗弁と認めている。物的抗弁以外の手形抗弁が人的抗弁であり、手形債務者と特定の所持人との間の特殊な法律関係より生ずる抗弁である。これには、原因関係たる売買が無効または取り消された場合のような実質関係に基づく抗弁、意思の欠缺または瑕疵(かし)(詐欺・強迫)など手形行為の成立に関する瑕疵による抗弁、手形外の特約(支払いの猶予契約など)に基づく抗弁などがある。このような人的抗弁についてその切断を認めたのは、この抗弁が手形のその後の取得者に対してまで対抗できるものとすると、人的抗弁の存在を知らない手形の譲受人の利益を害し、手形取引の円滑性を期しがたいからである。もっとも、手形所持人が悪意である場合には、これを保護する必要がないので、人的抗弁の切断を認めていない。これを悪意の抗弁という。

[戸田修三]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手形抗弁」の意味・わかりやすい解説

手形抗弁
てがたこうべん

手形 (小切手) 上の請求を受けた者がその請求を拒否するために主張できる事由。いかなる抗弁事由でもすべての所持人に対抗できるとすると,手形の流通性を阻害するので,手形抗弁は人的抗弁物的抗弁とに分けられる。

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