打越(読み)うちこし

精選版 日本国語大辞典 「打越」の意味・読み・例文・類語

うち‐こし【打越】

〘名〙
連歌俳諧で、付句より一句隔てた前の句。また、一句を隔てて句と句とが相対することをいう。打ち越し、前句、付句の三句を見渡したとき、前句と付句との関係が、この句と前句との関係と同趣におちいることをきらう。
連理秘抄(1349)「つつ・けり・かな・覧・して、打越を可嫌、他准之」
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)一「せめて打越(ウチコシ)なりとも給はらんと」
③ ある事物を一つ隔て越すこと。
※雑俳・柳筥(1783‐86)一「打こしのわるさは花から売色」
④ 建築で、一点から、ある点を越えて他の点まで測った長さ。〔日本建築辞彙(1906)〕
⑥ 馬の乗り方。馬の左から鐙(あぶみ)に足をかけ鞍(くら)を越してまたがること。転じて、馬の右側をいう。
⑦ 馬の右股に押した印(かね)うらのかね。
※岡本記(1544)「馬のかねは、〈略〉右のかたをばうらのかね、又うちこしとも申す也」
中世において、所領の境界を越えて横領すること。堺打越(さかいうちこし)
※朽木文書‐押・嘉元三年(1333)閏一二月一二日・関東下知状「次打越事、積論所分限打渡也」

うち‐こ・ゆ【打越】

〘他ヤ下二〙 (「うち」は接頭語)
① 越えていく。また、飛び越える。
万葉(8C後)六・九七一「白雲の 龍田(たつた)の山の 露霜に 色づく時に 打超(うちこえ)て 旅ゆく君は」
※咄本・はつ鰹(1781)序「川さき品川打越(ウチコ)へて」
② 敵の領地など、行きづらい場所勇気をふるって踏み込む。
太平記(14C後)三「国中打靡、剰他国へ打越んと企て候」

うち‐こ・す【打越】

〘自サ四〙
① (「うち」は接頭語) 越す。間にあるものを越える。
今昔(1120頃か)一九「船の高欄を打越して」
江戸時代上方奥羽との貨物取引のとき、江戸問屋の手を経ずに直接送ること。
諸問屋再興調‐六・安政二年(1855)二月一五日・江戸通町組小間物問屋丸合組紅花商人惣代願書写、町奉行所宛「上方・東海道筋御当地打越、関東近在・奥筋え之通荷物」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「打越」の意味・わかりやすい解説

打越
うちこし

江戸時代、大坂から商品荷物を江戸近国、奥羽方面に送り、また逆に奥羽・東国方面から大坂に送り荷するとき、江戸問屋を経由せずに直送することを打越といい、その荷物を江戸打越荷物、打越通荷物などといった。当時の商慣習では打越は厳禁であり、違反すると荷物の積み戻しが命じられた。ただし、十組問屋成立前から船舶・駄送で江戸を経ずに送り荷する旧慣のあるものは除外されている。この慣習が公認され制度化されたのは1726年(享保11)町奉行(まちぶぎょう)大岡忠相(ただすけ)のときであるという。幕府は同年、江戸住民の生活必需物資15品の問屋に仲間を結成させているから、打越禁止令は江戸問屋の独占保護による江戸の生活物資確保の政策の一環をなすものであった。禁令は、1841年(天保12)の株仲間解散により廃止されたが、51年(嘉永4)の再興令で復活した。しかし新興の在方商人が需要地に荷物を直送する状勢が進行するなかで禁令は形骸(けいがい)化した。横浜開港以後さらにこの風潮が強まると、幕府は60年(万延1)閏(うるう)3月、五品江戸廻送(かいそう)令を発して打越禁止の復活強化を図ったが、十分な効果を発揮しえないまま明治維新に至った。

[村井益男]

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