打込(読み)うちこむ

精選版 日本国語大辞典 「打込」の意味・読み・例文・類語

うち‐こ・む【打込】

[1] 〘他マ五(四)〙
① 相手の体に、刀を切り入れる。また、剣道、ボクシングで、相手に打ってかかる。
※保元(1220頃か)中「内冑へ切前(きっさき)上りに打ちこみければ」
② たたいたり、突いたりして物を中へ入れる。
※虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初)「地へ三尺打こまふほどに」
※思ひ出す事など(1911)〈夏目漱石〉五「秋の江に打(ウ)ち込(コ)む杭の響かな」
③ (「うち」が接頭語化した場合が多い) 勢いよく投げ入れる。ほうり込む。
※天理本狂言・節分(室町末‐近世初)「ふくはうち、おにはそとと云て、うちこみ入や」
※咄本・鯛の味噌津(1779)ばくちうち「神棚から引づりおろし、どぶへ打込」
④ 弾丸などを打って敵の軍や陣などへ入れる。また、球技で相手の陣へ球を打ち入れる。
※近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉五「火矢を打込(ウチコ)んで」
⑤ ある事に金をつぎこむ。
(イ) ばくちを打ったり、海難で打荷(うちに)をしたりして財産を使ってしまう。
※虎明本狂言・博奕十王(室町末‐近世初)「こがねのふだ〈略〉ことごとくうちこむほどに」
(ロ) (「うち」は接頭語) 物事に金をたくさん使う。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)一「まあ四五千両ほど打こんで執行(しゅぎゃう)めされ」
⑥ (「うち」は接頭語) 深く心を寄せる。自分の気持を注ぎ込む。
(イ) ある人を恋い慕って夢中になる。ほれこむ。
※玉塵抄(1563)二四「荘公のてかけの女房にうちこうで」
(ロ) 物事に熱中する。全力を集中する。
※非凡なる凡人(1903)〈国木田独歩〉下「身も魂も〈略〉仕事に打込(ウチコ)んで居る」
⑦ (「うち」は接頭語) 相手の急所を突いて言い負かす。やりこめる。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂「まそつとよい事を申せと打こめば」
⑧ (①の比喩的用法) 頭や心に強く入れる。
※死(1898)〈国木田独歩〉六「これが印象を頭に打(ウ)ち込(コ)むだ」
⑨ (「うち」は接頭語) 能楽で、手を前方へ出すと同時に袖を手の外側から内側へ巻きつける型をする。
※申楽談儀(1430)定まれる事「両の袖を打こみて、左右へさっさっと棄つる也」
⑩ 能楽、歌舞伎などで、太鼓や鼓などの演奏を入れる。
※歌舞伎・小袖曾我薊色縫(十六夜清心)(1859)大詰「これへ岩戸神楽を打込み」
⑪ 打つことをじゅうぶんに行なう。また、野球などでさんざんに相手を打つ。
※東京の孤独(1959)〈井上友一郎〉ある浮沈「エース桶川をも打ち込んで」
⑫ 囲碁で相手の陣へ石をおろす。また、相手に何番か続けて勝つ。
※断橋(1911)〈岩野泡鳴〉八「川崎はなほ死に物ぐるひの石を打ち込みながら」
⑬ キーボードなどで、コンピュータにデータを入力する。
[2] 〘自マ五(四)〙
① 順序なく入り交じる。ごちゃごちゃと集まる。
愚管抄(1220)六「後に三百余騎はうちこみてありけり」
② 馬が乗り手を落とそうとして首を両脚の間に入れて進む。
日葡辞書(1603‐04)「ウマ〈略〉ウマガ vchicomu(ウチコム)、または、vchicôde(ウチコウデ) ユク
③ (波が)押し寄せる。水がどっとはいってくる。
※歌舞伎・青砥稿花紅彩画白浪五人男)(1862)四幕「打ち込む浪にしっぽりと」

うち‐こみ【打込】

〘名〙
① たたいたり、突いたりして物を中へ入れること。
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「琴の図と『うつしよ』の四字を、銀で打込(ウチコミ)にした菊版半切の切放し」
② 人にほれこむこと。また、物事に熱中すること。
故旧忘れ得べき(1935‐36)〈高見順〉七「彼女の彼への並々ならぬ打込みも与って力があった」
③ 能楽の基本的な型。扇または手に持つ小道具頭上から腹部の前に下ろして正面をさすもの。
④ 文楽人形の型。戦いの様子を表わす動作で、刀などをかざしながら足拍子を踏むもの。
⑤ 能楽の囃子(はやし)手くばりの一つ。曲の中間で、それまで続けてきた囃子に一段落をつけるもの。主に、大鼓、小鼓だけで演奏する。
※檜垣型付(1665)「小皷は常の打込をうつ事本也」
⑥ 文楽の下座囃子。遠寄せの囃子を激しくたたみ込んではやすもの。
⑦ 歌舞伎の幕開き、幕切れなどで、大太鼓を勢いよく打つこと。
※絵本戯場年中鑑(1803)上「打込(ウチコミ)〈略〉是より二ばん目はじまり、左様に御らん下さり升(ませ)ふといふ時、打こむ太鼓なり」
⑧ 剣道、相撲などのけいこで、基本の動きを会得するために、続けざまに、相手にうってかかること。
⑨ 球技で、相手の陣へ球を強く打ち入れること。
⑩ 野球などで、くり返し球を打って練習すること。
⑪ (囲碁で)
(イ) 相手の陣へ石を打ち入れること。
(ロ) 何回か対局して一定の回数を相手に勝ち越すこと。手合割りを改める勝負。
⑫ 釣りで、さおを振ってねらった水面に針を入れること。
⑬ 清酒醸造の一工程。仕込んだ枝桶を、発酵の経過を見計らって順次親桶に合併すること。
※俳諧・続有礒海(1698)雑「打こみの酒の友来るしぐれ哉〈夕兆〉」
⑭ 紡織機械操作の一工程。経(たていと)の間に通した緯(よこいと)を筬(おさ)で打ち入れること。
⑮ (「うちごみ」とも) 順序なく入り交じること。→打ち込みの軍(いくさ)
(イ) 合戦などの際、順序不同に入り交じって馬に乗ること。
※太平記(14C後)一二「畿内近国の勢打込(うちコミ)に」
(ロ) 一つ所にさまざまな人が入り交じること。
※正秀宛芭蕉書簡‐元祿七年(1694)九月二五日「両門の連衆打込之会相勤候」
⑯ 水がどっと押し寄せること。
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉六「動揺以上に浪の打込みが甚しく」
⑰ 若い女のたもとなどに、手紙、名刺などを入れることをいう、不良仲間の隠語。
※浅草紅団(1929‐30)〈川端康成〉一五「『握り。障り。話し。プログラム。落ちますよ。打(ウ)ち込(コ)み。〈略〉』なぞ、彼等の昔ながらの『婦女誘惑術』」
⑱ キーボードなどでデータを入力すること。
[語誌]文献上は、⑮の中世の戦記物語類や武家作法書類にみられる例が古いものである。「うちこみのいくさ」という形でも同時期に見え、平時における騎馬の通行、行進についても用いられる。⑮の(イ)の「太平記」の例も、大塔宮護良親王の入京の盛儀を描写した場面で、合戦の場面ではない。

ぶっ‐こ・む【打込】

〘他マ五(四)〙 (「ぶちこむ(打込)」の変化した語)
① うちこむ。投げ入れる。たたきこむ。
※雑兵物語(1683頃)下「敵も味方も一度に鑓をぶっこんだ所で」
② 混ぜこむ。混ぜ入れる。
③ (刀などを腰に)さす。おびる。
※落語・無学者論(1894)〈禽語楼小さん〉「長物を一本打(ブ)っ込んで通ひ慣れたる土手八丁」

ぶっ‐こみ【打込】

〘名〙
① いろいろなものを入れること。また、そのように作ってあるもの。
※洒落本・真女意題(1781)「ふところより、ぶっ込のやうな紙袋を出し」
③ 無縁仏を葬ること。また、その共同墓地。

ぼっ‐こ・む【打込】

〘他マ五(四)〙
① 勢いよく投げ込む。また、激しく追い込む。ぶっこむ。
※虎寛本狂言・武悪(室町末‐近世初)「みぞ河へぼっこふで」
② むぞうさに差す。刀などをあらあらしく腰に差す。ぶちこむ。
※浄瑠璃・源平武将論(1662)五「太刀ほっかうで」

ぶち‐こ・む【打込】

〘他マ五(四)〙 (「ぶち」は接頭語) 勢いよく中に入れる。ほうり込む。また、無理に押しこめる。叩きこむ。
※雑兵物語(1683頃)下「此鉄炮を以てうったれば、仕合とみゃうたん柿へ先目当をぶちこんで」
※浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「前の勝をぶちこんで五百余りのしすごし」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の打込の言及

【人形浄瑠璃】より

…また,〈うしろぶり〉は,女の恨みごとや悲しみが頂点に達したときにする女形独特の美しい後ろ姿である。 立役の代表的な型としては,〈団七走り〉〈ギバ〉〈六方〉〈打込(うちこみ)〉〈石投げ〉などがある。〈団七走り〉は,武将が押し寄せる敵軍を偵察するため,松の大木に登ろうとして駆け行く型で,左右の手を大きく交互にふって走りだす。…

※「打込」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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