投槍器(読み)とうそうき

改訂新版 世界大百科事典 「投槍器」の意味・わかりやすい解説

投槍器 (とうそうき)

槍を投げる際に,より大きな力を加えるために使用される補助用具。握りの部分,細長い本体部と,槍の末端部をのせ,その石突をあてる部分をもつ棒状ないし板状部分からなる器具。これを用いて,投げる槍に手で投げるよりずっと効果的な力を与える。鹿角製のものは,フランスの後期旧石器時代マドレーヌ文化期の第Ⅳないし第Ⅴ期から発見され,マス・ダジール洞窟発見のものは末端にライチョウ彫刻をもち,ブリュニケル洞窟のものは馬の彫刻が刻まれている。民族例にも数多くの類似物を見ることができる。オーストラリア中央部のアランダ族,同北部のイングラ族でも,槍投板が使用され,アランダ族のそれは握りの部分に打製石器がつけられ,その重量で板を安定させている。また,エスキモーのアマサリク族やイグルリク族も,アザラシ狩猟に使用する投銛に同種の器具を用いた。
執筆者: オーストラリアやメラネシア原住民,エスキモー,カリフォルニアフロリダインディアンの間で使われていたが,分布は広くない。かつては古代メキシコでも用いられたという。その形状は種族によってさまざまであるが,だいたいは50~100cmくらいの木具で,槍をのせて片手で投げる。これはエスキモーのように小船に乗って,片手で櫂(かい)を操り片手で猟をする者には便利である。きわめて原始的な用具で,他の便利な武器の発達によってすたれたものと考えられる。図の東グリーンランドにおけるエスキモーの投槍器は長さ55cmの木製具で,その尾端に骨製の突起があり,これで槍の石突き(骨製)を留める。また前部の穴とくぼみは指で握りやすくするためのものである。槍の全長は160cm,先端鉄製,中央部の三つ叉(また)は骨製,柄は木製である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「投槍器」の意味・わかりやすい解説

投槍器
とうそうき

投げ槍(やり)の推進力と射程を増大させるために用いる戦闘・狩猟用の補助用具。一端にかえりを設けた棒状の木や獣骨の上に槍をのせ、他端近くを槍とともに握って放つ。ヨーロッパの後期旧石器時代、ツンドラの平原でトナカイ狩猟をしたマドレーヌ人の投槍器は装飾のみごとさで著名である。非常に原始的な道具であるうえ、分布範囲の広さなど考古学的証拠から、弓矢よりも早く考案されたと推定される。世界の諸民族の間では、エスキモーおよびイヌイット、カリフォルニアのネイティブ・アメリカン、メラネシアの一部の民族、オーストラリア・アボリジニーで報告されている。グリーンランドのエスキモーおよびイヌイットの投槍器は、把握を容易にするための溝が刻まれている。竹製のものはニューギニアで知られ、中央部から末端近くまで削り取ることで、かえりをつくり、握り近くに槍を休めるために動物や人間をあしらった木製の装置を備えている。縄の一端を指にくくり付け、他端につくった緩めの輪を槍の柄にはめ、放つ道具がニュー・ヘブリデス島から報告されているが、これも一種の投槍器と考えられる。

[関 雄二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「投槍器」の意味・わかりやすい解説

投槍器
とうそうき
spear-thrower

狩猟採集民が主として用いる利器の一種。武器としても使われた。木製または竹製の投槍器はオーストラリアやミクロネシアの先住民によって用いられ,かつては古代メキシコ,南アメリカなどでも使われていた。同種の変型は,エスキモーや北アメリカ北西沿岸のインディアンによって漁獲用に使われている(→北アメリカインディアン)。エスキモーのものは小舟に乗って櫂を操りながら片手で使うため,軽くやや小型である。一端に結び目のあるひもを使った投槍器は,ひもの結び目を槍に巻きつけ,他の一端を人差指に巻いて振り回しながら使い,槍は回りながら飛ぶ。オセアニア全般で用いられていたが,古代ギリシア,古代ローマ,北アフリカなどでは武器としても用いられた。東アフリカには,一端がふくらんだ木製の柄に穴を開け,槍を入れて,中の槍だけを飛ばす投槍器もある。

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世界大百科事典(旧版)内の投槍器の言及

【旧石器時代】より

…骨や角を削ったり彫ったりして作られた道具には,槍先,銛先,錐,太い針,めどのある縫針,釣針,へら,短剣,石ランプ,石器をはめこむ柄または軸,ハンマーなどが知られている。その中でも鹿の角を削って彫刻を施した投槍器は,狩猟生活にとって画期的な発明であった。それは約30cmの長さに切られたトナカイの角で作られ,一端には投槍の基部をひっかけるための〈かぎ〉が作り出されている。…

【槍∥鎗∥鑓】より

…見通しのきかない森林中で,ピグミーがゾウやスイギュウのような大型獣を投槍で仕とめるような場合を除いて,ふつう,槍は捕らえたり近くまで追いつめたりした獲物にとどめをさすための,二次的な武器として使用される。比較的大型の陸上動物が狩猟されるにもかかわらず弓矢が知られていなかった地域,たとえばオーストラリアのほとんどの地域では投槍器(とうそうき)が発明され,推進力と正確度を補っている。 陸上の動物に対して用いられるものを槍と称しているが,水中の動物に対して用いられるものは(やす)と呼ばれる。…

※「投槍器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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