拵・慰・喩・誘(読み)こしらえる

精選版 日本国語大辞典 「拵・慰・喩・誘」の意味・読み・例文・類語

こしら・える こしらへる【拵・慰・喩・誘】

〘他ア下一(ハ下一)〙 こしら・ふ 〘他ハ下二〙
[一] あれこれ言って聞かせ、こちらの意図通りに相手の気持を変化させる。
いろいろとなだめて気持を落ち着かせる。なだめすかす。なぐさめる。話して気持をとりなす。
書紀(720)允恭七年一二月(図書寮本訓)「天皇聞(きこ)しめして大きに驚(おとろ)いて朕過(あやま)ちたりと曰ひて、因りて皇后の意(みこころ)を慰(やすめ)(コシラヘ)たまふ」
② 話して納得させる。説明して同意させる。
御伽草子・あしびき(室町末)「侍従かはゆくおぼえて、さまざまこしらへ制止ければ」
方便をもって誘う。てだてを構えて教え導く。
※新訳華厳経音義私記(794)「誘誨 上音畏訓古之良布 下音化訓教也」
古本説話集(1130頃か)六〇「はからざるに、まどひにいりにしかば、我、はうべんにて、かくはこしらへたる也」
④ うまいことを言って、その気にさせる。適当なことを言って、だましたり、なだめたりする。いいつくろう。
※法華義疏長保四年点(1002)四「偽乗を以て物に与ふるが故に名づけて欺と為。此を用て他を誘(コシラフル)は之を称して誑と為」
※浮世草子・傾城禁短気(1711)二「第一芸子には、こしらへて客をはめるといふ方便(てだて)なく」
[二] 意図するところを満足させるために、方法、技術、工夫などの手段を尽くし完成させる。
① 人為的なてだてをめぐらして、うまくいくように工夫する。
源氏(1001‐14頃)若菜下「和琴は、かの大臣許こそ、かく折につけて、こしらへなびかしたる音など、心にまかせてかき立て給へるは」
心中で、物事の段取りを考える。計画する。たくらむ。仕組む。
※義経記(室町中か)八「十郎権頭〈略〉かねてこしらへたる事なれば、走りまはりて火をかけたり」
③ ある目的のために、あらかじめ用意しておく。準備する。
(イ) 工夫し、計画してしたくする。あれこれと考えてととのえる。
平家(13C前)一二「太刀のみのよきをも、征矢の尻のかねよきをも、鎌倉殿の御ためとこそこしらへもって候つれ共」
(ロ) 金銭を用に足りるようにととのえる。金銭の工面をする。金策する。
※俳諧・鷹筑波(1638)三「かねをこしらへ質やへぞゆく 心ざす別時の布施はいかばかり〈友治〉」
(ハ) 飲食物を用意する。料理する。
宇治拾遺(1221頃)九「則物ども持たせてきたりければ、食物どもなどおほかり。馬の草まで、こしらへ持ちてきたり」
(ニ) 女郎を呼ぶ手はずを整える。女郎を呼ぶ用意をする。
※洒落本・寸南破良意(1775)息子株「『たしかお初とやらサ、拵(コシラ)へてくんねへ』『わっちゃァ、まだ近付てなへが、夫(そ)んならマアきゐて、まいりやしょう』」
④ あれこれ工夫して、形あるものに造りあげる。製造する。
徒然草(1331頃)五一「さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかにゆひて参らせたりけるが、思ふやうに廻りて」
⑤ 構えを作る。構築する。建設する。組み立てる。
※延慶本平家(1309‐10)六本「平家は舟を二三重にこしらへたり」
⑥ 飾る。装飾する。よそおう。
(イ) 顔や身なりなどをよそおう。身じたくをする。身づくろう。
※御伽草子・鉢かづき(室町末)「よめ合(あはせ)のざしきへいでんとこしらへ給ふ」
(ロ) 役者扮装(ふんそう)をする。
歌舞伎傾城壬生大念仏(1702)上「『其出家の役を見事せふか』『成程致しませふ』『そんならこしらへよ』『畏りました』」
(ハ) 修復する。また、表面をとりつくろう。
※御伽草子・秋月物語(室町時代物語大成所収)(室町末)「跡見ぐるしからぬやうにこしらへ候へとて」
⑦ 友人、愛人などを得る。
※人情本・英対暖語(1838)三「男といふものは、〈略〉是非一人か二人情人(いろ)をこしらへずには居なひヨ」
[語誌](1)室町時代以降、多く「拵」の字が用いられているが、中国では、「据える」「挿む」等の意味しかなく、なぜこの字をあてたのかは明らかではない。
(2)室町時代ごろからヤ行下二段活用も見られる。→こしらゆ(拵)
(3)未然形、連用形の「こしらえ」が、変化して、「こしらい」となっている例も見られる。「花の咲たる花の木をうえて花の林をこしらひ、花ちれば又ほりすつと云」〔俳・隺芝〕、「自宅で甘い物はいくらも喰べやうけれど親のこしらいたは又別物」〔十三夜〈樋口一葉〉上〕など。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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