振り仮名(読み)ふりがな

改訂新版 世界大百科事典 「振り仮名」の意味・わかりやすい解説

振り仮名 (ふりがな)

漢字の読みを示すためにそのわきにつけた仮名。古くは〈傍訓〉とも〈つけ仮名〉ともいった。また印刷したものは,特に〈ルビ〉ともいい,文章の中の漢字すべてにつけたものを〈総ルビ〉,一部につけたものを〈パラルビ〉という。現在は児童読物やごく通俗の読物以外は一般に使わない。ただし,地名人名常用漢字表にない字にはつけることがある。平安時代以後,漢文訓読のとき訓のまぎらわしい漢字のわきに片仮名を添えたのがはじまりで,これを〈傍訓〉という。江戸時代の草双紙,読本(よみほん),洒落(しやれ)本,滑稽本などでは,なるべく多くの漢字につけ,これを〈つけ仮名〉といった。明治時代以後は,新聞・雑誌をはじめ一般向きの文章にはルビをつけるのが普通であった。活字にも,ルビつき活字と称する,振り仮名の固定したものが作られた。はじめは,固定した読みでも,読みにくく読みあやまりやすいものにつけたり(難有(ありがた)い,飛白(かすり),喋舌(しやべ)るなど),いくつかある読みのいずれであるかを明らかにするために使ったもので(身体(からだ),上部(うわべ)など),同字異語を区別するのに役だったが(自(おのずか)ら:自(みずか)ら,一寸(ちよつと):一寸(いつすん)など),これが乱用されて,漢字が示す言語と同じまたは類似のことがらを表す別の言語を示すのにも使うようになった(服装(なり),主導権(イニシアテイブ),菊五郎(ろくだいめ),継母はは)など)。1938年に作家の山本有三が,むずかしい漢字の使用をやめ,やさしいことばで文章を書くことなどのために,振り仮名を廃止すべきことを提唱,作品《戦争とふたりの婦人》でそれを実行し,世論の支持を得た。たまたま,第2次世界大戦中,物資節約のためにルビつき活字が使えなくなり,さらに戦後,当用漢字表の使用上の注意事項として〈ふりがなは原則として使わない〉とされてから振り仮名廃止が広く行われるようになった。しかし常用漢字表(1981)では,振り仮名について特に記していない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「振り仮名」の意味・わかりやすい解説

振り仮名
ふりがな

漢字の読みを示すために、その漢字の右側または左側、ときに両側につけた仮名。傍訓、付け仮名ともよび、印刷用語としては、ルビrubyともいう。文中の漢字すべてに振り仮名をつけることを総ルビ、一部だけに加えるのをパラルビとよぶ。現在の印刷物では通常、パラルビを平仮名で漢字の右傍(横書きの場合には上側)につける。振り仮名の起源は9世紀初頭(平安初期)に始まった漢文への訓点の記入にある。そこでは漢字の右側または左側に(注 ここでは漢字の後ろのかっこ内に表示している)万葉仮名、平仮名、片仮名で「何(イツクニ)、臥(イネテ)」〔成実論(じょうじつろん)天長5年〈828〉点〕、「遶(根宇)、象(佐宇)」〔央掘魔羅経(おうぐつまらきょう)平安初期点〕のように漢字の音や訓を示している。漢文の訓点の振り仮名(傍訓)はやがて漢字片仮名交じり文、漢字平仮名交じり文にも及び、「猛(タケ)キ者モ終ニ滅(ホロヒ)ヌ」〔延慶(えんきょう)本平家物語〕のようになった。

 江戸時代には草双紙(くさぞうし)、浮世草子、洒落(しゃれ)本、滑稽(こっけい)本など木版で刊行された大衆の読み物に振り仮名が多く使用され、その後も第二次世界大戦前まで、その用法は多様であった。

 これには(1)難読の漢字、固有名詞の読みを示すもの、のほか、(2)2通り以上の読みのうち一つを指定するもの〔自(おのずか)ら、人間(じんかん)など〕、(3)漢字2字以上に和語1語を対応させるもの〔慈愛(めぐみ)、焦燥(いらだつ)など〕、(4)漢語の意味に相当する外来語をあてるもの〔伝信機(てれがらふ)など〕、(5)漢語の右傍に読みを、左傍に意味を記すもの〔誠実(せいじつ)など〕、(6)漢語に別の漢語の読みをあてるもの〔客房(ざしき)など〕があった。現在は(1)(2)以外は使用されることが少ない。

[月本雅幸]

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百科事典マイペディア 「振り仮名」の意味・わかりやすい解説

振り仮名【ふりがな】

漢字の読みを示すためそのわきにつける仮名。日本語特有の文字現象。印刷したものは特にルビという。平安以後訓の紛らわしい漢字に片仮名を添え傍訓と称し,江戸時代には〈つけがな〉といった。明治以後も広く行われたが,第2次大戦後当用漢字表の実施とともに振り仮名は,児童読物など一部のものを除いて,あまり多用されなくなった。
→関連項目訓点

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