挿頭(読み)カザシ

デジタル大辞泉 「挿頭」の意味・読み・例文・類語

かざし【挿頭】

上代草木の花や枝などを髪に挿したこと。また、挿した花や枝。平安時代以後は、冠に挿すことにもいい、多く造花を用いた。幸いを願う呪術的行為が、のち飾りになったものという。→髻華うず
秋萩は盛り過ぐるをいたづらに―に挿さず帰りなむとや」〈・一五五九〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「挿頭」の意味・読み・例文・類語

かざし【挿頭】

〘名〙 (動詞「かざす(挿頭)」の連用形の名詞化)
① 髪や冠に、花や枝、造花などをさすこと。また、そのもの。もと、植物の生命力を身につけようとする感染呪術より生じ、のちに装飾となった。→髻華(うず)
万葉(8C後)五・八二〇「梅の花今盛りなり思ふどち加射之(カザシ)にしてな今盛りなり」
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「かさしの紅葉、いたう散りすきて」
境遇。また、血縁関係。「同じ挿頭(かざし)」の形でいう。
③ 江戸時代、国語学者、富士谷成章(ふじたになりあきら)の用いた、国語の単語分類用語の一つ。文の成分という立場から、国語の単語を「名(な)」「装(よそい)」「脚結(あゆい)」と合わせて四種に分類、広義の修飾語的な働きをするものを称した。代名詞副詞感動詞接続詞接頭語の類を含んでいる。
※かざし抄(1767)上「ことばにみつのくらゐをさだむ。ひとつにはかさし。二にはよそひ。みつにはあゆひなり。ものの名をば、このみつのうちにいれず」
[語誌]→「かざす(挿頭)」の語誌

かざ・す【挿頭】

〘他サ四〙
① 草木や花や枝葉を飾りとして髪または冠の巾子(こじ)の根に挿(さ)す。後世は造花も用いる。
※万葉(8C後)五・八三二「梅の花折りて加射世(カザセ)るもろ人はけふの間は楽しくあるべし」
古今(905‐914)秋下・二七〇「露ながらをりてかざさむ菊の花おいせぬ秋のひさしかるべく〈紀友則〉」
② 上に飾りつける。
※六家集本山家集(12C後)上「門ごとにたつる小松にかざされて宿てふ宿に春は来にけり」
※頼政集(1178‐80頃)上「作りたる桜をまぜ、くだ物の上にかざして」
[語誌](1)「かざす」行為には、植物を挿して身に付けることにより、自然の持つ霊力を自分に感染させる意味があったと思われる。「万葉集」では黄葉・梅・萩・瞿麦・桜・柳・藤・山吹などの草花が「かざし」の対象とされている。
(2)この語の他に、「かづら」「かづらく」も長い蔓のものを頭に着け、蔓草の感染呪術の意味を持つ。→かつら(鬘)かずらく(鬘)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「挿頭」の意味・わかりやすい解説

挿頭 (かざし)

神事や饗宴のときなど冠の巾子(こじ)にさす造花の飾りをいう。古く男女が自然植物の花や枝葉をめで,これを頭髪にさして飾りとした風習があったが,のち中国から伝わった冠の飾りにつけた髻華(うず)と習合して,ながく年中行事のうちの一部にこの風習が伝えられた。そのおもなものは大嘗会(だいじようえ),賀茂や石清水の臨時祭(使いや舞人,陪従など),政治的な行事では列見や定考(こうじよう)のとき,また踏歌節会(とうかのせちえ)のときなどで,さす花にはフジ,サクラ,ヤマブキ,リンドウ,キク,ササ,カツラなどがあった。これらは,さす人や行事によって種類がちがい,フジの花は大嘗会のとき天皇および祭使が,また列見のとき大臣などが巾子の左にさす。サクラの花は列見のとき納言,祭りの舞人などが巾子の右にさす。ヤマブキは列見の日に参議が,試楽の日に陪従がさし,8月の定考には大臣は白ギク,納言は黄ギク,参議はリンドウである。それ以下の人々は時の花を用いた。また踏歌節会には綿花(わたはな)を冠の額に立てる風習があった。挿頭は以上のように神事や饗宴のときに用いられる一つの飾物であるが,また賜物としても用いられている。仁明天皇四十算賀の賜物の中の一つに,沈香で山を造り,これに純金のツルの形を配し,そのくちばしに挿頭をくわえさせたことが《続日本後紀》にみえている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「挿頭」の意味・わかりやすい解説

挿頭【かざし】

神事や饗宴のとき,の巾子(こじ)にさす造花の飾り。古く草木の枝や花を髪にさしたのが起源で,絹糸や金属で作り平安時代盛んに用いられた。挿頭にはフジ,サクラ,ヤマブキ,リンドウ,キク,ササ,モモなどがあり,さす人や行事によって決まっていた。小忌(おみ)の人が巾子の前に立てる梅の立枝を特に心葉(こころば)という。
→関連項目東遊髻華

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の挿頭の言及

【簪】より

…古代においては,先のとがった1本の細い棒に呪力が宿ると信じられ,髪刺も,髪に1本の細い棒を挿すことによって魔を払うことができると考えられていた。一方,《日本書紀》や《万葉集》などにみえる挿頭(かざし)は,神事や朝廷の節会(せちえ)に公卿宮人の冠に花枝を挿すことが行われ,これが民間の祭事などにも流行し,一般の節会の習慣になっている。挿頭も語源としては髪刺と同じであると考えられる。…

※「挿頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android