揚陸艦艇(読み)ヨウリクカンテイ(英語表記)amphibious warfare ship

デジタル大辞泉 「揚陸艦艇」の意味・読み・例文・類語

ようりく‐かんてい〔ヤウリク‐〕【揚陸艦艇】

上陸作戦時、兵士や車両などを海岸に揚げるために設計・建造された艦艇。揚陸艇

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「揚陸艦艇」の意味・わかりやすい解説

揚陸艦艇
ようりくかんてい
amphibious warfare ship

上陸作戦で陸戦部隊の人員兵器、車両、機材、物資などを、海岸地域に揚陸するための専用艦艇の総称。上陸用艦艇、水陸両用戦艦艇ともいう。揚陸艦艇のうち、満載排水量500トン以下のものを揚陸艇、揚陸艇より大型のものを揚陸艦とよぶ。第二次世界大戦前に日本陸軍が小型揚陸艇とその母艦となる揚陸艦を装備、使用したのに刺激され、第二次世界大戦初期にイギリス、アメリカが研究を始め、1942年から戦車揚陸艦艇、ドック型揚陸艦、中・小型の各種揚陸艇などを大量建造し、北アフリカ、ヨーロッパ、太平洋での諸上陸作戦で大規模に使用した。ヘリコプター揚陸方式の艦を除き、今日の各種揚陸艦艇の原型は、おおむね第二次世界大戦中に完成している。戦後、ヘリコプターによる揚陸方式の実用化などにより、その機能は多様化するとともに、満載排水量が4万トンを超す艦も出現し、揚陸艦艇は現代の海軍において重要な艦種となっている。

 現在の主要な揚陸艦艇は、アメリカ海軍の艦種類別記号に従い、次のように大別される。

(1)海岸に擱坐(かくざ)接岸(のりあげる)して揚陸するもの 艦首に揚陸用の門扉と踏み板をもつ。満載排水量500トン以下の揚陸艇は、航洋性がなく、おもに沖合いの艦から海岸への揚陸に使われ、上陸用舟艇ともいい、汎用(はんよう)揚陸艇(LCU)、機動揚陸艇(LCM)、人員揚陸艇(LCPL)、車両人員揚陸艇(LCVP)などがある。また1980年代中ごろから、エアクッションにより海面を滑走して陸上にあがるエアクッション型揚陸艇(LCAC)や強襲揚陸艇(AALC)が、実用化され始めた。なお、揚陸艇より大型の揚陸艦には、戦車揚陸艦(LST)がある。エアクッション型以外の擱坐接岸型揚陸艦艇は、1950年代後半以降の揚陸戦様式の変化により、現在ではおおむね揚陸戦には供用されず、主として輸送任務に用いられている。

(2)上陸地点の沖合いからほかの輸送手段により揚陸するもの 搭載している揚陸艇をクレーンなどで海面に降ろし揚陸する貨物揚陸艦(LKA)・揚陸輸送艦(LPA)、艦に設けたドックから揚陸艇を発進させるドック型揚陸艦(LSD)、さらに人員、車両、機材などの搭載量を増したドック型揚陸輸送艦(LPD)、ヘリコプターで揚陸を行う航空母艦型式の強襲揚陸艦(LPH)、LPHとLPDの機能を兼備し一つの艦で均整のとれた兵力を揚陸する強襲揚陸艦(汎用)(LHA)、V/STOL(ブイストール)機(垂直・短距離離着陸機)を併載し軽空母的機能も備えた強襲揚陸艦(多目的)(LHD)などがある。現代の揚陸戦では航空母艦型式の各種強襲揚陸艦とドック型揚陸艦、揚陸輸送艦が主用されている。

(3)直接、上陸作戦の指揮・統制を行うもの 強力な指揮通信能力を備えた揚陸指揮艦(LCC)がある。

(4)特殊作戦に用いる特殊戦支援艇 中型特殊チーム支援艇(MSSC)、小型特殊チーム支援艇(LSSC)、小型特殊戦支援艇(SWLC)、中型特殊戦支援艇(SWCM)、潜水員支援艇(SDV)などがある。

 なお、第二次世界大戦中および戦後の一時期、上陸地点を火力制圧する専用艦がつくられたが、現在は他の水上艦艇や航空機がこの任務にあたるため、使われていない。

[阿部安雄]

『『世界の艦船第256号 特集 揚陸戦と揚陸艦艇』(1978・海人社)』『『世界の艦船第355号 特集 新しい揚陸作戦艦艇』(1985・海人社)』『『世界の艦船第414号 特集 強襲揚陸艦』(1989・海人社)』『『世界の艦船第569号 特集 最近の揚陸艦』(2000・海人社)』『『世界の艦船増刊第84集 世界の揚陸艦』(2009・海人社)』『J.P.LaddAssault from The Sea 1939-45 ; The Craft, The Landing, The Men(1976, David & Charles)』『Allied Landing Craft of World War Two(1985, Arms & Armour Press)』『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』


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改訂新版 世界大百科事典 「揚陸艦艇」の意味・わかりやすい解説

揚陸艦艇 (ようりくかんてい)
landing ship and craft

上陸用艦艇ともいい,第2次大戦後は両用戦艦艇あるいは揚陸戦艦艇とも呼ばれる。戦車,車両,兵員および各種器材を海岸に上陸させるための軍艦。揚陸艇を最初に装備したのは旧日本陸軍で,1927年,小発(小型発動機艇)と呼ぶ6.5トンの揚陸艇を開発,装備した。旧日本陸・海軍はこのほか,外洋を航行する能力(航洋性)や速力に劣る揚陸艇を運び速やかに着水させるための母船,みずから揚陸地点まで自力航行し海岸に乗り上げる(ビーチングと呼ぶ)揚陸艦も開発した。一方,イギリス,アメリカなども42年ころから量産を開始し,第2次大戦中頃より行われた大規模な揚陸作戦に使用した。

 第2次大戦後は,沖から大型ヘリコプターで物資を輸送するもの,艦に設置したドックから揚陸艦を発進させるもの,揚陸艦としての機能のほかに通信情報を強化したものなどさまざまな揚陸艦艇が出現している。今後とも揚陸艦艇の大型化,多機能化が進み,揚陸の手段も大型ヘリコプターやエアクッション船が重視されよう。以下に現代の揚陸艦の分類を示す。なお,文中の記号,種別名はアメリカ海軍のものである。

(1)揚陸艇landing craft 基準排水量500トン以下の船で上陸用舟艇とも呼ぶ。

(a)ビーチングし,船首から海岸に斜めの板(バウランプと呼ぶ)を降ろし揚陸させるもの。LCU(utility landing craft,大型汎用揚陸艇),LCM(mechanised landing craft,中型揚陸艇),LCVP(landing craft vehicle and personel,小型揚陸艇)がある。

(b)海面や陸上を滑走するエアクッション艇。AALC(amphibious assault landing craft,強襲揚陸艇)を開発中である。

(2)揚陸艦landing ship 揚陸艇より大型のものをいう。

(a)バウランプをもつものと,高速を出すのに普通の船型を採用したためビーチングできないものがある。LST(tank landing ship,戦車揚陸艦)がある。

(b)搭載する揚陸艇をクレーン等で着水させるもの。LKA(amphibious cargo ship,揚陸輸送艦)がある。LST,後出のLSD,LPDも同種の機能をもつ。

(c)艦艇を沈下させ,艦に設置したドックから揚陸艇を浮上・発進させるもの。LSD(dock landing ship,ドック揚陸艦),LPD(amphibious transport dock,ドック式輸送艦)がある。後出のLHAもこの機能をもつ。

(d)航空機用の発着艦甲板をもち,ヘリコプターや垂直離着陸機を運用するもの。LPH(amphibious assault ship(helicopter),強襲揚陸艦(ヘリコプター揚陸艦)),LHA(amphibious assault ship(general purpose),大型強襲揚陸艦)がある。LPD,LSDもヘリコプターの運用が可能。

(e)通信情報・戦闘情報を強化したもの。LCC(amphibious command ship,揚陸指揮艦)がある。
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百科事典マイペディア 「揚陸艦艇」の意味・わかりやすい解説

揚陸艦艇【ようりくかんてい】

兵員,器材を敵前上陸させる艦艇の総称。基準排水量500トン以下を揚陸艇あるいは上陸用舟艇といい,500トン以上のものを揚陸艦という。航洋性をもち,接岸擱座(かくざ)し艦首の扉を開いて揚陸するもの(LSTなど)と,海上で浮ドック式その他の方法で小型揚陸艇(上陸用舟艇)を浮揚,発進させるものとがある。LSTやドック型揚陸艦のほか,近年はヘリコプターによって兵員,機材などを内陸部まで送り込むヘリコプター揚陸艦,これらの機能をあわせた強襲揚陸艦があり,支援用に揚陸戦用軍隊輸送艦,揚陸戦用貨物運送艦,大規模な揚陸作戦の統一指揮を行う揚陸戦指揮艦など各種の大きさ,形式のものが出現している。
→関連項目軍艦警備艦巡洋艦

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