放牧(読み)ほうぼく

精選版 日本国語大辞典 「放牧」の意味・読み・例文・類語

ほう‐ぼく ハウ‥【放牧】

〘名〙 牛・馬・羊などを放し飼いにすること。ほうもく。
三代格‐八・寛平八年(896)四月一三日「従雖耕、而不放牧之地
※シベリヤ物語(1950‐54)〈長谷川四郎〉ナスンボ「平原に放牧された馬ばかりで」 〔後漢書‐光武紀下〕

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デジタル大辞泉 「放牧」の意味・読み・例文・類語

ほう‐ぼく〔ハウ‐〕【放牧】

[名](スル)馬・牛などの家畜を放し飼いにすること。「羊を放牧する」
[類語]放し飼い野飼い遊牧牧畜牧羊

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「放牧」の意味・わかりやすい解説

放牧
ほうぼく

家畜を草地に放し飼いにして生草を自由に摂取させる飼育法をいう。十分運動でき、新鮮な外気と日光に接しうるので家畜の健康にもよい。とくに子畜の育成には不可欠である。また直接生草が利用されるので養分の損失がなく、多頭飼育の場合は労力の省力化ができるので有利な飼育法である。放牧の対象となるのは主として肉牛乳牛ウマヒツジヤギなどの草食家畜である。放牧シーズンは草生期間である春から秋にかけてが適期で、普通はこの期間のみの季節放牧が行われる。放牧方式は多様で、放牧地を大きい一牧区のまま放牧シーズン中継続利用する連続放牧、放牧地をいくつかの小牧区に分けて順次変えて利用することによって草地を一定期間休息させて草生回復を図る輪換放牧があり、後者は牧野を荒廃させない合理的な方法である。これをさらに集約化して1日または半日だけ放牧させる広さの小牧区を多数設けて、家畜が触れると電気ショックを与える電気牧柵(ぼくさく)を順次移動させて家畜集団を小牧区内に追い込んで囲み、採食跡地の再生草の二度食いを避ける帯(おび)状放牧という放牧法もある。少頭飼養では草地に繋留(けいりゅう)して一定範囲の牧草のみを利用させる繋牧が行われることもある。

 特殊な方式としては、植林地の下刈り労力の節減のため林内放牧したり、草種に対する選択採食性の差を利用して肉牛とヒツジとをいっしょに放牧する混合放牧がある。暖地で冬期放牧も可能な広大な牧野では年間通じて周年放牧が行われる。放牧地には牧柵、給水場、給塩場、庇陰(ひいん)林などが必要である。

[西田恂子]

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改訂新版 世界大百科事典 「放牧」の意味・わかりやすい解説

放牧 (ほうぼく)
grazing

家畜を草地に放飼いにすること。放牧は草を刈り取って給与するのと違って,直接家畜が利用するため,養分損耗が少なく経済的である。家畜は放牧の間,自由に採食,運動,休息することができ,また新鮮な大気に触れて陽光を十分に浴びるので新陳代謝も盛んとなり,健康のためによい結果を生む。ウシ,ウマ,ヒツジなどの草食性家畜の育成期にはとくに欠くことのできない飼養管理方式である。放牧する草地には自然草地を利用する場合と,改良草地に放牧する場合がある。自然草地に放牧したときは,家畜の選択採食がはげしいから,草地管理を十分に行わないと不食草や灌木が侵入し,草地の荒廃を招くことになる。牧草を栽培した改良草地では,集約的な管理利用がなされるので全面採食の傾向が強く,選択採食による植生遷移より踏圧による影響のほうが大きい。

 粗放な放牧方式としては一年中放牧しておく周年放牧(東北地方の牧(まきうし)はこの好例)があり,反対に集約的な放牧法としては,改良草地を小区画に分けて放牧する場所を順次移動していく輪換放牧がある。育成畜などの場合は,一定期間昼夜の別なく継続して放牧する昼夜放牧が行われるが,乳用家畜などでは搾乳をする必要があるので,1日のうちある時間帯を限って放牧地に放す時間制限放牧が用いられる。放牧場に家畜を綱でつないで行動範囲を制限する方法を繫牧(けいぼく)といい,種雄牛などで多く採用されている。
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百科事典マイペディア 「放牧」の意味・わかりやすい解説

放牧【ほうぼく】

家畜を畜舎内で飼わず,草地に放飼いする方式。日本ではおもにウシで行われる。草刈の労力が省けるとともに,家畜が自分の好む養分の多い草を採食するので,乳量の増加や濃厚飼料の節約に効果がある。ほかに適度の運動と日光浴により家畜の健康によいなどの利点がある。しかし,草地がいたみやすいこと,鼓脹症にかかりやすいなどの欠点があるので適正な管理が必要。周年放牧と輪換放牧がある。→牧畑牧草
→関連項目牧畜

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普及版 字通 「放牧」の読み・字形・画数・意味

【放牧】ほう(はう)ぼく

放し飼いする。〔後漢書、烏桓伝〕烏桓は本(もと)東胡なり。~水に隨ひて放牧し、居に常處無し。穹廬(きゆうろ)(天幕の住居)を以て舍と爲し、東に開きて日に向ふ。らひ、酪(らく)を飮み、毛毳(まうぜい)(にこげ)を以て衣と爲す。

字通「放」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「放牧」の意味・わかりやすい解説

放牧
ほうぼく
grazing

家畜を畜舎飼いではなくて牧場,牧野に放って飼育する方法。畜舎飼いより労力は節約され,かつ自然の新鮮な空気,豊富な日光,牧草に恵まれ,十分な運動ができるので均整のとれた体躯と,外界に対する抵抗力を養う効果が大きい。アルプス山地,北米のグレートプレーンズや山間盆地のグレートベースン,南米のアルゼンチンのパンパス,オーストラリア内陸の大鑽井盆地,ニュージーランドなどでは,牛,羊の大規模な放牧が行われている。日本では北海道,東北,九州地方の原野に馬,中国地方の高原には牛の放牧がみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の放牧の言及

【ウシ(牛)】より

…体重400~600kg。強健で放牧に適す。(6)ブラーマン種Brahmanアメリカ南部でインド牛のカンクレージ種,オンゴール種,ギル種などを交雑してつくった熱帯地方に適する肉用種。…

【ウマ(馬)】より

…子つきの雌馬などは厩舎(きゆうしや)近くの柵内に自由に放し運動させる。放牧はウマにとってもっとも自然に採食,運動が行えるので,事情の許すかぎり行うとよい。放牧のやり方には舎飼いと併用する半舎飼いがふつうだが,昼夜連続放牧や周年放牧もある。…

【飼料作物】より

…たとえばトウモロコシやオオムギ,ライムギ,ダイズ,サツマイモなどの子実やいもは,人類にとって重要な食糧であり,一般には食用作物として扱われるが,これらの子実やいも,茎葉を餌として与えるために栽培される場合は飼料作物として扱われる。飼料作物は,茎葉または地下部や子実など利用できるところはすべて餌として与えるが,茎葉を中心とした家畜への与え方には,放牧,青刈り,乾草(ほしぐさ),サイレージなどがある。 放牧は,草地に家畜を放し,牧草を自由に食べさせることで,広い面積を利用して粗放な畜産経営を行う場合に適した方式で,また家畜の健康にもよいとされる。…

【農業】より

…収穫は穂首刈りが麦についても行われ,脱穀は穂焼きを行っている。家畜も放牧であるが,作付けをする圃場と放牧地との関係は明確でない。この放牧場が作物作付畑と交替する形をつくっているのが隠岐の牧畑である。…

【牧】より

…近世に存在した隠岐の牧畑などは,このような過程で生まれた耕牧輪転の特殊な牧であるが,一般には村および民衆の利用する規模のより小さい牧が多くなる。そして民衆が共同で牛を放牧する大牧場(おおまきば)のほかに,より小規模の個人牧場としての小牧場(こまきば)も出現してくる。 これに対し幕府諸藩もそれぞれ公の牧を設け,牛馬の飼育に努めた。…

【牧畑】より

…もともと牧の畑という意味で,牧の一部を開墾して農耕地とし,耕作に利用しない期間は放牧地として村民の共同放牧にゆだねる畑地をいう。同じ土地がときには作物の作付けに,ときには牛や馬の放牧に利用され,農耕と放牧とが交替で転換する粗放的な土地利用法は,かつては対馬,種子島,屋久島などでも粗放畑作である焼畑段階の一異型として不完全ながら行われていた。…

※「放牧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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