デジタル大辞泉
「故」の意味・読み・例文・類語
かれ【▽故】
[接]《代名詞「か」に動詞「あり」の已然形「あれ」の付いた「かあれ」の音変化。「かあれば」の意から》
1 前述の事柄を受けて、当然の結果としてあとの事柄が起きることを表す。ゆえに。だから。
「あづまはやと詔云り給ひき。―、その国を号けてあづまと謂ふ」〈記・中〉
2 段落などの初めにおいて、事柄を説き起こすことを表す。さて。それで。
「大国主神…并せて五つの名あり。―、此の大国主神の兄弟八十神坐しき」〈記・上〉
から【▽故/▽柄】
1 目的・目標を表す。ため。
「我が―に泣きし心を忘らえぬかも」〈万・四三五六〉
2 原因・理由を表す。ため。ゆえ。
「あにもあらぬ己が身の―人の子の言も尽くさじ我も寄りなむ」〈万・三七九九〉
3 複合語の形で用いる。
㋐血縁関係にあること。「や―」「はら―」
「問ひ放くるう―はら―なき国に」〈万・四六〇〉
㋑そのものに本来備わっている性格・性質。本性。
「国―か見れども飽かぬ神―かここだ貴き」〈万・二二〇〉
こ【故】
[接頭]
1 姓名・官職名などに付いて、その人がすでに死亡したことを表す。「故山田一郎氏」
2 官位や地位を表す語に付いて、それがもとのものであることを表す。前の。「故中宮の大夫」
え〔ゑ〕【▽故】
《「ゆえ」の音変化》ゆえ。わけ。理由。
「思ふ―に逢ふものならば暫しくも妹が目離れて吾居らめやも」〈万・三七三一〉
け【▽故】
原因、理由を表す語。ゆえ。ため。
「泣く泣くよばひ給ふ事、千度ばかり申し給ふ―にやあらむ、やうやう雷鳴止みぬ」〈竹取〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
ゆえ ゆゑ【故】
〘名〙
[一] 深い理由や原因。また、由来。
① 物事の確かな理由・原因。わけ。子細。
※
万葉(8C後)一四・三四二一「
伊香保嶺に雷
(かみ)な鳴りそね我が上には由恵
(ユヱ)はなけども児らによりてそ」
※
源氏(1001‐14頃)
夕顔「この扇の尋ぬべきゆへありて見ゆるを、猶このはたりの心知れらん者を召して問へ」
② 非常に趣のある様子。すばらしい風情。また、良い趣味。情趣。
※源氏(1001‐14頃)
帚木「人もたちまさり、心ばせまことにゆへありと見えぬべく」
③ 人の
素姓や身分、物の成り立ちなどの、すぐれて
由緒のあること。
※宇治拾遺(1221頃)一〇「男はもとよりゆへありける人の末なりければ、口惜しからぬさまにて侍りけり」
④ 縁故のあること。ゆかり。
※
今昔(1120頃か)三〇「若し旧き男にて有し人の故などにてもや御
(おはし)ますらむと思つれば」
⑤ さしさわり。故障。
※万葉(8C後)一三・三二八八「さなかづら いや遠長く 我が思へる 君によりては 言の故(ゆゑ)も 無くありこそと」
[二] 体言や活用語の連体形などに付けて用いる形式名詞。
① 理由を示す。…のため。
※
古事記(712)中・
歌謡「櫟井の 丸邇坂
(わにさ)の土
(に)を 端土
(はつに)は 膚赤らけみ 底土
(しはに)は に黒き由恵
(ユヱ) 三栗
(みつぐり)の その中つ土を 頭衝
(かぶつ)く 真火には当てず 眉画き 濃に画き垂れ 逢はしし女」
※源氏(1001‐14頃)
桐壺「ただこの人のゆへにて、あまたさるまじき人の恨みを負ひし果て果ては」
② 前の事柄に対して、結果としての後の事柄が反対性・意外性を持つ場合、逆接的意味に解される。…だのに。…であるが。
※万葉(8C後)七・一三七〇「はなはだも降らぬ雨故(ゆゑ)にはたつみいたくな行きそ人の知るべく」
[語誌](1)
事物に本質的に備わっている原因をいう。これに対して、
類義語「よし(由)」は、要因を事物のうちに求めることに
重点があり、
両者は本来、意味を異にする語と思われる。しかし、すでに上代から「ゆえよし」という語形が存し、また古辞書類でも同一字にユヱ・ヨシ両訓が認められることなどから、古くから両者の意味は近接していたと思われる。
(2)中古の和文では(一)②・③の意で用いられるようになるが、これは「ゆえあり」という文脈的意味を取り込んだもので、人物や事物の風情が、そのもののすばらしい本質に由来する、つまり「ゆえあり」と感じられる状態をさして用いられたもので、同様の意味は「よしあり」にも見られる。
かれ【故】
〘接続〙 (「か(斯)」に動詞「あり」の已然形「あれ」の付いた「かあれ」から転じたもの)
① 先行の事柄の当然の結果として、後行の事柄が起こることを示す。こういうわけで。ゆえに。かかれば。
※古事記(712)上「『〈略〉還り降りて改め言へ』とのりたまひき。故(かれ)爾(ここ)に反り降りまして、更に其の天の御柱を先の如く往き廻(めぐ)りたまひき」
② 段落などの初めにおいて、事柄を説き起こすことを示す。さて。そこで。ここに。
※古事記(712)上「故(かれ)、避追(やら)はえて、出雲の国の肥上の河上に在る鳥髪の地(ところ)に降りましき」
こ【故】
[1] 〘名〙 昔からのなじみ。古い知り合い。〔周礼‐秋官・小司寇〕
[2] 〘接頭〙
① 官位、姓名などの上に付けて、その人がすでに死亡していることを表わす。なき。
※土左(935頃)承平五年二月九日「故ありはらのなりひらの中将の」 〔沈約‐碑題〕
② 官位や地位を表わす語の上に付けて、それがもとのものであることを表わす。もと。前の。さきの。
※栄花(1028‐92頃)暮待つ星「大夫には故中宮の大夫」
え ゑ【故】
〘名〙 (「ゆえ」の変化したもの) ゆえ。理由。
※万葉(8C後)一五・三七三一「思ふ恵(ヱ)に逢ふものならば暫(しまし)くも妹が目離(か)れて吾(あれ)居らめやも」
け【故】
〘名〙 理由を示す語。ゆえ。ため。せい。
※竹取(9C末‐10C初)「千度ばかり申し給ふけにやあらん。やうやうかみ鳴り止みぬ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報