文山立(読み)フミヤマダチ

デジタル大辞泉 「文山立」の意味・読み・例文・類語

ふみやまだち【文山立/文山賊】

狂言二人山賊が果たし合いをすることになるが、書き置きを記すうち妻子の嘆くさまを思い浮かべて泣きだし、結局仲直りする。

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改訂新版 世界大百科事典 「文山立」の意味・わかりやすい解説

文山立 (ふみやまだち)

狂言の曲名雑狂言大蔵和泉両流にある。ただし和泉流では《文山賊》と記す。2人の山賊が,ねらった旅人を逃がしてしまったことから仲間割れし,果し合いになるが,見物人のいないところで死ぬのは犬死にも同然,書置きをして死のうと争いを中止して,矢立を取り出して遺書を書く。1人が文言をいい,1人がそれを書き記していくうち,内容が妻子の将来に及ぶと,2人とも感きわまって泣き出してしまう。そして互いにがまんすればすむことだと仲直りし,めでたく連れ立って家路をたどる。登場は山賊2人で,一方がシテ。遺書の文章に苦心するあたりは,中世に流行した往来物念頭におかれたものらしく,山賊との取合せが対照の妙となる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「文山立」の意味・わかりやすい解説

文山立
ふみやまだち

狂言の曲名。雑狂言。和泉(いずみ)流では「文山賊」と表記する。山賊2人が旅人(舞台には登場しない)を追って出てくる。シテの山賊が「やれやれ」といったのを、もう1人が逃がしてやれの意味に取り違え、今日もまた不首尾。いつもうまくいかないのは互いに相手のせいだと口論になり、果たし合いを始める。取っ組み合ううちに、このけなげな姿をだれにも知られずに死んだら犬死と同じだから、せめて妻子に書置きを残そうということになる。書き上げた文面は、事のてんまつからいつしか家族への想(おも)いの口説きとなり、2人は泣き出す。しょせんは2人の胸にしまっておけばすむことと仲直りし、連れ立って帰る。生命の値段が安かった時代、「犬死せでぞ帰りける」と高らかにうたうところに、この狂言の真骨頂がある。

[油谷光雄]

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