旅券(読み)りょけん(英語表記)passport

翻訳|passport

精選版 日本国語大辞典 「旅券」の意味・読み・例文・類語

りょ‐けん【旅券】

〘名〙
② 外国に旅行・滞在する際、本国が旅行者の国籍・身分などを証明し、相手国または自国領事にその保護を依頼する文書。日本では外交旅券公用旅券一般旅券の三種があり、出入国に必要。パスポート旅行券旅行免状。〔条約改正論(1889)〕

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デジタル大辞泉 「旅券」の意味・読み・例文・類語

りょ‐けん【旅券】

外国に旅行したり滞在したりするときに、その本国が本人の国籍や身分を証明し、相手国に便宜や保護を依頼する文書。国内では外務大臣、国外では領事が発行する。パスポート。→ビザ

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改訂新版 世界大百科事典 「旅券」の意味・わかりやすい解説

旅券 (りょけん)
passport

旅券とは,個人が外国を旅行する際に所持する公文書であって,所持人の国籍および身分を証明し,外国官憲または自国領事の保護と便宜の供与を受けるために不可欠のものである。旅券の種類として,(1)外交使節団の長,外交職員,全権代表,同代理およびそれらの配偶者や家族に発給される外交旅券,(2)その他の国家の用務のため外国に渡航する者,その配偶者や家族に発給される公用旅券,および,(3)一般私人が国外に旅行する際発給される一般旅券がある。日本の旅券法(1951公布)では,一般旅券の申請は,国内においては都道府県に,また国外においては領事館に出頭して行わなければならない(旅券法3条)。これらの旅券は,1回出国して帰国すれば失効する通常旅券シングル旅券)と一定期間(日本では5または10年間)有効で何回でも出国・帰国できる数次往復旅券(マルティプル旅券)の2種類に分けることができる。

 その他,指揮者のいる団体旅行者に一括して与えられる団体旅券,無国籍者や本国の旅券を取得できない外国人に所在国が与える外国人旅券の制度をもつ国もある。権限ある国際機関や所在国が難民に発給する旅券や難民旅行証明書(例えば,国際連盟時代に難民高等弁務官ナンセンの発案で難民所在国が発給した身分証明書はナンセン旅券と呼ばれた),さらに領事の発行した渡航証明書などが,広義の旅券として日本で認められている。

 日本の〈出入国管理及び難民認定法〉(出入国管理)は,乗員手帳を持つ船員などを除き〈外国人は,有効な旅券を所持しなければ本邦に入ってはならない〉(3条1項)と規定する。なお,旅券の所持だけで,当然に入国できるわけではなく,入国しようとする国の領事からビザ(査証)をあらかじめ得ておかなければならない(〈ビザ〉の項参照)。

 日本の旅券法は,1970年の改正までは渡航先を原則として国名で記載していたが,渡航先を地域名で包括記載することができるようになり,現在では,特に記載されない限りすべての国および地域に渡航することができる。89年の改正によって,旅券法は抜本改正され,手続きの簡略化・合理化の措置が講じられた(1990年4月1日より施行)。外国人を入国させる国は,その者の所持する旅券に自国名が記載されていなくても入国を許可できる。

 ヨーロッパ諸国間においては,旅券の提示を必要としないで国内で用いられている公の身分証明書により国境通過を認めるヨーロッパ居住条約が既に1955年に結ばれ,ベルギールクセンブルクのように旅券や身分証明書の提示の必要なく国境通過を認めてきた国家もある。ヨーロッパ連合(EU)諸国の域内においては,93年1月1日より実施されたマーストリヒト条約によって,EU諸国民の自由移動が規定されているが,1985年の共通国境における検問の漸進的廃止に関するシェンゲン協定と90年にベネルクス3ヵ国とドイツ,フランスの計5ヵ国間でシェンゲン協定を具体化したシェンゲン補足(第2)条約が結ばれ,95年3月26日から,スペイン,ポルトガルを加えた7ヵ国間で補足条約が発効した。その結果として,EU域内の国民の出入国管理(パスポート・コントロール)が廃止され,域外諸国民に対する共通ビザの発給,犯罪防止のため各国の警察に情報システムを設置することなどが規定されている。しかし,イギリスおよびアイルランドは,犯罪者の入国を恐れて,条約への参加の意思を示していない。シェンゲン協定・条約によって,域外諸国民に対する国境の管理はむしろ厳しくなった面もある。EU理事会の命令(directive)によるのではなく,条約によるこの方式は,各国に参加するか否かの決定権を残し,またEU裁判所の管轄権も及ばないという点で,域外諸国民に対する出入国管理に関するEU諸国の共通政策が,現状では存在しないことを示している。
執筆者:

日本の前近代の通行証については〈過所〉〈関所手形〉に詳述されているので参照されたい。

西ヨーロッパにおける旅券の前身としては,中世ドイツのゲライツブリーフGeleitsbriefをあげることができよう。これは商人,外国人,巡礼者などの旅の安全を保障する証書で,随行料を支払えば武装した随行者(ゲライト)の保護を受けることができた。その発給は元来は国王大権に属していたが,12~13世紀ころからは領主が掌握した。このほかに,国王や領主が外国商人や異教徒などの特定集団に交付した保護状シュッツブリーフSchutzbriefも旅券の役割を果たした。商人ブルジョアジーの後押しによって国王が領主に対し優位に立つようになると,外国における旅の安全は国家間の条約によって保障されるようになる。例えば,1536年オスマン帝国がフランスに与えた特権〈異教徒在留民保護制度(カピチュレーション)〉のもとで,フランス人の商人や聖地巡礼者は帝国内における自由な商業活動と安全な旅を保障された。

 英語パスポートpassportはフランス語のpasser(〈通過する〉の意)とport(〈港〉の意)との合成語で,今日的な〈旅券〉としての用法は16世紀にさかのぼる。ただしこの時代には,国内旅行においてもパスポートの携帯を義務づけられた人々がいた。典型的なものとしては浮浪者や乞食に交付したパスポートがあり,道中での物乞い許可を含む場合もあった。パスポート携帯は浮浪者や乞食に対する取締り策の一環であったから,正式なものを持たぬ者は市(いち)などで偽造パスポートを入手したりもした。国内旅行での旅券携帯義務は,近代においてもみられた。革命前のフランスでは特定の人々のみが義務づけられていたが,革命後は適用範囲が拡大された。パリでは警視庁が,地方では市町村の長が旅券を交付し,その際申請者のほかに2名の証人を必要とする場合もあった。旅券発給は原則として有料であったが,貧民には無料で与えられ,19世紀前半,旅券はなお浮浪者などの〈危険な階級〉の取締りという性格を有していた。フランス国内で旅券が不要とされたのは1870年代初めであった。一方,国外における旅券携帯も,普仏戦争時を除き19世紀後半からイギリス,ベルギー,スイス各国とフランスとの間で徐々に廃止された。この趨勢は西ヨーロッパに共通するものであったが,第1次大戦を契機として旅券制度が復活し,入国審査の前提となるビザの取得を義務づける制度も発達した。しかし近年,出入国の手続は簡略化されつつある。
執筆者:

中国では古来国内旅行にも身分証明書を必要とした。旅行者を取り締まるため陸上交通では関,水上交通では津を置いた。漢代では旅行者の身分を証明する文書は一般に伝と呼ばれたが,そのうち木簡に書いたものを棨(けい)といい,本人の居住する郷の嗇夫(しよくふ)という官が前科のない旨を証明し,県の長吏が副署し,津関においてとどめないように依頼する形式であった。公用旅行者には上司より発給し,近距離の関の出入りには符を用いた。漢の棨が過ぐる所の津関にあてた文章であったので〈過所〉という名称が生まれ,唐の旅券の名称となった。その形式は日本の公式令から推定できるが,滋賀県園城寺(三井寺)には智証大師円珍が留唐中の855年(大中9)に官憲から交付された過所があり,国宝に指定され,唐の過所を見ることができる。宋代中期以後では〈公憑(こうひよう)〉〈引拠〉という名のものが,清では官吏旗人に〈路引〉,一般人に〈口票〉が交付された。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「旅券」の意味・わかりやすい解説

旅券
りょけん
passport

政府が、自国民の国籍や身分を証明し、外国政府に保護と扶助を要請する公文書。国際的に通用する世界共通の身分証明書で、パスポートともよばれる。海外渡航の際に、渡航先の査証(ビザ)とともに旅券が必要である。日本では外務省が発行し、一般旅券、公用旅券、外交旅券、緊急旅券の4種類がある。一般旅券の有効期間は5年(紺色)と10年(赤色)から選択できるが、18歳未満の者は5年のみ。期限内であれば何度でも出入国できる数次往復旅券(マルティプル旅券)である。1989年(平成1)の旅券法(昭和26年法律第267号)改正以前は、1回のみ使用できた一次旅券(シングル旅券)も申請できたが、現在は使われていない(旅券法上の制度は残存)。残存有効期限が一定期間(3~6か月)を切ると、中国、韓国、インドネシアなど多くの国では出入国できなくなる。難民条約・難民議定書に基づき、難民に交付する難民旅行証明書(法務省発行)もある。旅券の大きさは国際民間航空機関(ICAO(イカオ))の勧告を受け、1992年にISO規格に準じたB7サイズになった。2006年(平成18)から、氏名、生年月日、外務大臣の署名、顔写真などの電子データを記録したICチップ内蔵のIC旅券を発行している。都道府県窓口に戸籍謄(抄)本、住民票、写真、身元確認できる運転免許証などとともに申請する。発行手数料は10年間有効で1万6000円、12歳以上の5年間有効で1万1000円、12歳未満の5年間有効で6000円。日本の有効旅券数は2021年(令和3)末時点で約2440万。日本の旅券は、査証なしで渡航できる国数を示すパスポート指数で、2022年1月時点で192か国と世界1位である。

 旅券は紀元前14世紀のアマルナ文書にすでに登場し、ローマ帝国時代には旅行者の人身保護規定が整い、18世紀のヨーロッパで平時の国境通過にあたり旅券を提示する制度が採用された。1985年には当時のEC(現、EU)加盟国および周辺国(スイス、ノルウェー、アイスランドなど)を旅券や審査なしで自由に往来できるシェンゲン協定(規則)が締結された。日本では、江戸幕府が1866年(慶応2)にA4判よりやや大きな身分証を初めて発行し、1878年(明治11)の海外旅券規則で法的に位置づけられた。根拠法である旅券法(昭和26年法律第267号)は、グローバル化や技術革新に伴い、たびたび改正されている。

[矢野 武 2022年5月20日]

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百科事典マイペディア 「旅券」の意味・わかりやすい解説

旅券【りょけん】

パスポート。国民が外国に旅行するとき,その国民の本国が,外国官憲に対して,本人の国籍,身分,旅行目的などを証明する公文書。本国政府の海外渡航許可書でもあり,旅券査証免除の取決めのない国家間の旅行には,ほかに査証(ビザ)を必要とする。日本では旅券法(1951年)に規定され,公用旅券と一般旅券とがあり,一般旅券は,旅券の名義人が帰国するまで有効の通常旅券と,発行日から5年間有効の数次往復用旅券の2種類があったが,1990年数次旅券に一本化され,申請手続も簡略化された。1995年からは有効期限が10年間に延長されたが,5年間有効の旅券も残り,いずれか選べることになった(ただし20歳未満は5年間有効のみ)。改正旅券法の公布(2005年6月)にともない,日本では生体認証技術を応用したIC旅券が2006年3月から導入された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旅券」の意味・わかりやすい解説

旅券
りょけん
passport

一国の官庁が,外国に旅行し,滞在しようとする自国民に対して交付する公文書。パスポート。旅券の交付を受けた国民の国籍,身分などを証明し,旅行先または滞在先の官憲に対し,その旅券所持者に対して便益と必要な保護を与えるよう依頼するものである。一般旅券,公用旅券の別がある。日本の場合,国内においては都道府県知事を経由して外務大臣が,国外においては領事官が申請に基づいて発行する。発行される一般旅券は 1995年から原則として有効期間が 10年,5年の数次往復用の2種がある。 (→査証 )  

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知恵蔵 「旅券」の解説

旅券

外国旅行をする人の身分・国籍を証明し、便宜供与と保護を求めるのが旅券。その有効期限が1995年から、それまでの5年から10年に延長された。「5年間」の旅券も残し、どちらかを選べる。ただし、20歳未満の人は「容ぼうの変化が著しい」という理由から、5年間のみ。また、親の旅券に併記しておけばよかった15歳未満の子供も自分の旅券が必要になった。査証は、渡航先の国が出す入国許可証。相互免除協定がある国を除き、ビザがないと入国できない。種類は、目的別に観光、商用、通過、留学などがあり、滞在許可期間が決まっている。

(平栗大地 朝日新聞記者 / 松村北斗 朝日新聞記者 / 2007年)

旅券

パスポート」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の旅券の言及

【出入国管理】より


[現行制度]
 同法は,本邦に入国し,または本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理について規定することを目的とする(1条)ので,国民と外国人双方の出入国が対象となる。出国する日本国民は,有効な旅券を所持し,旅券に出国の証印をうけなければならず(60条),帰国する者は,有効な旅券を所持し,帰国の証印をうけなければならない(61条)。外国人は,本邦に入国するには有効な旅券または乗員手帳の所持が必要で,上陸のためには在留資格該当性(外交官,公務を帯びる者,観光客等,事業活動・研究・教育・技能修得・芸術・スポーツ・宗教・報道等に従事する者等としての活動のいずれかに該当すること)が要求される(7条,別表第1,第2)。…

※「旅券」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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