改訂新版 世界大百科事典 「晒」の意味・わかりやすい解説
晒 (さらし)
邦楽の曲名。狭義には,地歌・箏曲の特定の曲,および鳴物(なりもの)の曲名。広義には原曲である地歌三味線曲の布ざらしを描写した器楽的な旋律を取り入れた邦楽曲,または布ざらしの振りを伴う舞踊曲のすべての俗称または総称。(1)地歌・箏曲 貞享(1684-88)以前に北沢勾当が,宇治川の布ざらしを歌った小編の小歌をつないで,間奏を入れた長歌を原曲とし,これを《古(こ)さらし》という。これに対して,深草検校が,その間奏部の器楽性を発展させたものを《新さらし》といったが,のちには,単に《さらし》といえば,この深草の手事物あるいはそれを箏曲化したものをいうようになった。これに対して,三味線の変奏度を増したものも,さまざまに作られ,京都では《早ざらし》といい,江戸の山田流でも三味線秘曲の《新ざらし》が伝えられ,さらにこれにやはり変奏度の強い箏の手を付けることも行われた。現在では,三味線,箏とも即興的な変奏を加えたものが,中能島欣一などによって集成的に編曲されている。《さらし》の旋律を取り入れた地歌,箏曲には,《玉川》《春日詣(かすがもうで)》《六玉川(むたまがわ)》(原曲富本)などがあり,ほかに,現代曲としては,中能島欣一《さらし幻想曲》,宮城道雄《さらし風手事》をはじめ,さまざまな類曲がある。(2)その他の邦楽曲,舞踊曲 《さらし》を取り入れたものには,長唄《晒三番(さんば)》《越後獅子》《晒女》(初演常磐津掛合),《二人晒(みようとざらし)》《多摩川》,常磐津《三人生酔》《五色晒》,富本および清元《六玉川》などがあり,これらの曲の描写的な間奏部および布ざらしの伴奏部を《さらしの合方》という。(3)鳴物では,荒事(あらごと)に用いられる太鼓,大太鼓,能管による囃子をいう。幕切れ近くの立回りや幕切れに用いられることが多いが,ほかに上記の舞踊曲の《さらしの合方》につく《大小入りさらし》や,それから転じた《三弦入りさらし》もある。
執筆者:平野 健次
晒 (さらし)
江戸時代の刑罰。受刑者を路傍に引き据え,みせしめ(見懲(みごらし))として衆目に晒し恥辱の制裁を与えたもの。幕府の法では柱に縛してむしろに座せしめる通常の晒と,土中に埋めた箱に着座させ首だけを地上に出す穴晒(あなさらし)とがあった。前者は穴晒に対して陸晒(おかさらし)と呼び,女犯(によぼん)の所化(しよけ)僧,心中(相対死(あいたいじに))未遂の男女両人に科したことでよく知られる。女犯の僧は寺法による処分に,心中の男女は非人手下(てか)の刑に先だって晒されるのであるが,他の罪種にも磔(はりつけ)などの刑に付加して用いられた。期間は3日で,毎夕七つ時(午後4時ごろ)になれば牢屋へ帰す。一方,穴晒は主殺しにのみ適用された鋸挽(のこぎりびき)刑の一部であり,2日晒したのち磔に処した。鋸と竹鋸が左右に置かれ,本来往来の者に首を挽かせた形式をとどめている。陸晒,穴晒とも江戸では日本橋南詰東側,高札場の向いに設けられた晒場で執行した。同様の刑は諸藩法にも定められ,さらには村法上の制裁や私刑としても存在した。
執筆者:加藤 英明
晒 (さらし)
→晒木綿
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報