書下(読み)かきくだす

精選版 日本国語大辞典 「書下」の意味・読み・例文・類語

かき‐くだ・す【書下】

〘他サ五(四)〙
① 順を追って上から下へ書いてゆく。
道草(1915)〈夏目漱石〉五五「暑苦しい程細かな字で書き下(クダ)された」
② 筆にまかせて書く。
明暗(1916)〈夏目漱石〉一二二「見舞に来るのを見合せて呉れといふ意味を、簡単に書き下(クダ)した手紙は一分掛るか掛らないうちに出来上った」
③ 文書を作成する。文書を執筆する。
※新任弁官抄(1158‐59頃)「職事書下躰。某年月日宣旨、如聞某事云々、蔵人頭左中弁姓名(奉)」
漢文を書き下し文にする。漢文を訓読してかなまじりの文に書き直す。

かき‐くだし【書下】

〘名〙
① 書きくだすこと。また、書きくだした文章。
※欧米曼陀羅雑記 へへののもへじ(1928)〈石川光春〉八四「朕深く之を嘉し有司に命じて云々せしむと云った風な漢文書下し調で認めてあり」
② 中世、武家様文書呼称の一つ。奉書形式でなく、差し出し者自身が署判する直状(じきじょう)形式のもので、年月日を書き、書き止め文言が「状如件」となる。一般的には守護以下の武士が、自己の管内に命令を伝えるために発給するものをさし、守護領国制の発展に従って、領国支配のための文書形式として、重要度を増した。書下状(かきくだしじょう)。書下文(かきくだしぶみ)。〔吾妻鏡‐寛元元年(1243)八月二六日〕

かき‐おろし【書下】

〘名〙 新しく書くこと。また、新しく書いた作品。既に雑誌新聞などに掲載した作品の再録に対して、初めから単行本として発表した論文小説の類や、直接上演された脚本をいう。
評判記・嗚久者評判記(1865)「いたづらのかきおろし、はやいうがちはしんざうならぬ、としま町の大出来」
※古川ロッパ日記‐昭和一一年(1936)六月四日「放送局の小林氏来り、十六日は書き卸しをといふ注文」

かき‐おろ・す【書下】

〘他サ五(四)〙 新しく論文、小説、戯曲などを書く。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三「草稿を書(カ)き卸(オロ)序開きとして」
煤煙(1909)〈森田草平〉一六「他人の書下した台帳で芝居を演ってゐるやうで」

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改訂新版 世界大百科事典 「書下」の意味・わかりやすい解説

書下 (かきくだし)

鎌倉時代以降,一般に侍臣が主人の命をうけ,あるいはあらかじめ与えられた職務権限に基づき,みずからの直状(じきじよう)(直書)の形式で部下に発給する文書。主人の命令の要旨を引用し,その旨を奉じたことを表す文言(奉書文言)をもつ侍臣の書札を奉書というのに対し,書下は主人の指示の有無にかかわらず侍臣の職務上の権限と責任において発するもので,奉書文言を含まない書札である。鎌倉時代の基本的な法律用語を説明した《沙汰未練書》には〈書下トハ執筆奉行奉書也〉とあるが,この場合の“奉書”とは主人(鎌倉将軍)の命を奉る側面を強調したものである。また12世紀ころ成立した《新任弁官抄》には,〈職事書下躰〉として口宣の雛形が示してあるが,この場合の“書下”とは侍臣(職事蔵人)の職務権限に基づいた発給文書という面を表現した用法であろう。書下の様式は,初行から事書で始まり,礼表現の伝達文言で結ぶ本文,本文次行に日付,日下(日付の下)に差出書(侍臣の署判),日付次行に宛所を書く,書状と同じ書札様文書である。しかし,その内容は,差出人の職務権限にかかわるものだけに,主人あるいは上級者の命令の施行,差出人本人から部下への職務命令,権利の付与・認定等の公的機能をもち,旧来は宣旨,下知状(げちじよう),下文(くだしぶみ),符,牒等の下文様文書や公式様(くしきよう)文書で発せらるべきものであった。そのため書下の日付は,年付の日付(書下年号)となるが,この点で書状との決定的な相違がある。書下の差出者は種々あるが,このうちとくに重要なのは,南北朝後期から室町時代にかけて盛んに用いられた守護書下である。守護は,幕府の命を伝達する遵行状(じゆんぎようじよう)にこれを用いたほか,その管国支配権に基づいて管国内の土地の給与・安堵,特権の付与・承認にもこれを用い,管国の領国化を進めたといわれる。ここにおいて書下は,差出人の専裁的な面を膨張させた文書に変化する。戦国大名,近世大名の発する判物(はんもつ)とは,この守護書下の系譜をひく文書ということができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「書下」の意味・わかりやすい解説

書下
かきくだし

武家様文書の一形式。書下文(ぶみ)ともいう。鎌倉幕府では、引付衆(ひきつけしゅう)に属す右筆(ゆうひつ)である執筆奉行(しっぴつぶぎょう)の奉書をいうが、ついで鎌倉・南北朝・室町期に、守護以下の武士が、自己の管轄下に、所領給与・安堵(あんど)、軍勢催促、施行、補任(ぶにん)、召喚などの通達を行う際に用いた直状(じきじょう)形式の文書をさした。したがって、発給者が差出者として文書に姿をみせており、文書の書止めは「仍状如件(よってじょうくだんのごとし)」「―之状如件(のじょうくだんのごとし)」となるのが一般的である。南北朝期から室町期にかけて守護の領国支配権の拡大に伴って、書下が増加し、その後戦国大名が登場すると、戦国大名は分国支配のために花押(かおう)を捺(お)したこの種の文書を盛んに発給するようになった。しかし、当時一般にこれらは書下とはよばれずに「判物(はんもつ)」とよばれた。

[久保田昌希]

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百科事典マイペディア 「書下」の意味・わかりやすい解説

書下【かきくだし】

中世の武家文書の一。武士が主人の命を受け,あるいは自らに与えられている職務権限に基づいて発給する,直状(じきじょう)形式の文書。主人の命を奉って発給する場合も,奉書文言を含まない。形式は書状と同様に書札様文書であるが,年付の日付(書下年号)である点が書状とは異なる。所領の給与・安堵,遵行状(じゅんぎょうじょう)・軍勢催促状などさまざまな場合に用いられた。
→関連項目預状感状古文書

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「書下」の意味・わかりやすい解説

書下
かきくだし

書下文 (かきくだしぶみ) ともいう。鎌倉,室町時代,将軍の命令を下達するのに,奉書様式の文書が用いられたが,一方,守護以下一般の武士の間では,発給者が差出者として文書にその姿を現す直状様式の文書が早くから出されており,特に南北朝時代後期から室町時代にかけてその例が急速に増加している。守護として領内の武士に対する所領給与や安堵を行う場合に直状 (→直書 ) が多く用いられたのである。直状で「…之状如件」という言葉で結ぶものを書下と呼んでいる。

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