書付(読み)かきつけ

精選版 日本国語大辞典 「書付」の意味・読み・例文・類語

かき‐つけ【書付】

〘名〙
① 文字などを書きしるすこと。また、その書きしるした文字や文書
※栄花(1028‐92頃)衣の珠「花籠や、折櫃物など、殿上人などにの給はせたれば、皆かきつけをしつつ参らせたり」
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石停留所「婆さんの其時の言葉を〈略〉参考の為わざわざ書(カ)き付(ツケ)にして机の抽出に入れて置いた」
江戸時代将軍老中など上からの命令を伝えた公文書。おかきつけ。また、下からの伺い、意見書、報告書など。
財政経済史料‐一・財政・諸費・諸役所定額費・弘化元年(1844)二月「御勝手向御主法被仰出候以来、向々より申上候書付御下御座候に付、夫々評議申上候」
証拠になるようなことを書いた紙片勘定書証文の類。
※浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)長者経「お独びとり顔に書付張付けたい」
④ 江戸時代、吉原の台の物屋から、毎日遊女屋へ配る料理の献立表。遊女らはこれによって自分の好むものを注文する。
※洒落本・傾城買四十八手(1790)やすひ手「ときに是ばかりじゃあさへねへ書付(カキツケ)をとりにやりやな」
⑤ (金額が書き付けてあるところから) 金包み。
※歌舞伎・百千鳥鳴門白浪(1797)二「ト金包みを抛る、皆皆取上げて見て、『この書付は』『今宵の符牒ぢゃ』」

かき‐つ・ける【書付】

〘他カ下一〙 かきつ・く 〘他カ下二〙
① ちょっとした事柄を書いておく。かいつく。
万葉(8C後)七・一三四四「ま鳥棲むうなての森の菅(すが)の根を衣(きぬ)に書付(かきつけ)着せむ子もがも」
源氏(1001‐14頃)花宴「『世に知らぬ心ちこそすれ有明の月のゆくへをそらにまがへて』とかきつけ給ひておき給へり」
② 書きなれている。「書きつけない筆で署名する」

かい‐つ・く【書付】

〘他カ下二〙 (「かきつく(書付)」の変化した語) =かきつける(書付)
大和(947‐957頃)一六三「菊召しければ奉りけるついでに『植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそちらめ根さへ枯れめや』とかいつけて奉りける」

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デジタル大辞泉 「書付」の意味・読み・例文・類語

かき‐つけ【書(き)付(け)】

心覚え・記録などのために書きしるしたもの。
金銭貸借などを証明する書類。勘定書。証文。「書き付けが証拠になる」
江戸時代、将軍老中の命令を伝えた公文書。
[類語]メモ雑記ひと筆一筆覚え書き手控え備忘録

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改訂新版 世界大百科事典 「書付」の意味・わかりやすい解説

書付 (かきつけ)

文字などを少し書き記したものを広く書付と称したが,江戸時代には幕府や大名家で上からの下達・申渡しや下からの伺い・意見を記した公式文書に〈御書付〉の呼称が用いられた。とくに江戸幕府が大名らに指令を下す場合,初期には老中奉書をもってなされたが,元禄時代ごろになると,より簡便な様式を有する老中御書付がこれに代わっていった。老中御書付は奉書紙を横半截した切紙の形をもち,伝達内容のみが記され差出・宛所の記載も省略されており(宛所の必要なものは文書の袖に記される),老中よりの口頭伝達を文字化した覚書としての性格をもっていた。幕府の触(ふれ)や達(たつし)はこの形式の文書をもってなされるのが一般的となっていった。時代の安定化にともない,老中奉書のような大仰な様式のものは不必要と考えられると同時に,行政内容の高度化する時代状況に敏速に対応すべく生み出されるようになったものと思われる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の書付の言及

【御触書集成】より

…御触書は老中,若年寄の合議体である御用部屋で方針を定め,奥右筆組頭が調査,起案し,将軍の裁可によって制定法となる。表右筆は書付(かきつけ)と称するその写しを作成し,支配の筋に応じて諸方面に配布した。大名には大目付が殿中で渡し,あるいは留守居を老中宅に召して手交した。…

【貞享書上】より

…江戸中期,幕府が諸家に書き上げさせた系譜。貞享書付,貞享諸家書付,諸家書付,書付ともいう。40余袋が長持2棹にあり,《元治増補御書籍目録御家部》には146巻5通3帖115冊とあるが現存しない。…

【達】より

…したがって一般的な法規よりも,一回限りの具体的処分や,部内の訓令・通達というべきものが多かった。諸役から発せられた達のうちでは,老中の達がもっとも重要であり,これは将軍の裁可を経たのち,書付(かきつけ)と呼ばれる書面にして名あて人へ交付された。老中が城中で直接手交する場合もあったが,大名あてであれば留守居(るすい)を老中宅へ召じて伝達することもあり,また幕府諸役あてであれば同朋頭(どうぼうがしら)を通じて渡すこともあった。…

※「書付」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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