有機農業(読み)ゆうきのうぎょう

精選版 日本国語大辞典 「有機農業」の意味・読み・例文・類語

ゆうき‐のうぎょう イウキノウゲフ【有機農業】

〘名〙 無機物である化学肥料や農薬の使用をできるだけ避け、おもに堆肥(たいひ)、厩肥(きゅうひ)などを用いた農業。

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デジタル大辞泉 「有機農業」の意味・読み・例文・類語

ゆうき‐のうぎょう〔イウキノウゲフ〕【有機農業】

有機栽培で行う農業。安全で味のよい農産物の生産をめざす。

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改訂新版 世界大百科事典 「有機農業」の意味・わかりやすい解説

有機農業 (ゆうきのうぎょう)

第2次大戦後の日本農業は,いわゆる〈近代化〉農業として,化学肥料や農薬の大量使用を基本においた化学農法により推し進められてきた。しかしこのような農法は,農民には急性・慢性の農薬中毒を多発させるとともに,消費者にも残留農薬についての深刻な不安感を与えることとなった。またそれは,天敵を含む各種の生物,微生物をつぎつぎと死滅させ,河川や海洋を汚染して著しい環境破壊をもたらした。さらに,土壌の物理耐性,化学的・生物的条件の劣悪化による地力の減退,低下が進行した。このような化学農法による〈近代化〉農業は,やがて人間生存の危機に及ぶという深刻な反省を踏まえ,農薬,化学肥料をまったく使わないか,あるいは極力その使用を抑えて,堆厩肥など有機物の投入による土づくりを重視し,土壌生態系の保持と安全で健康な食糧の生産とをめざす有機農法が提唱されるようになった。有機農法とは,この言葉を創始した日本有機農業研究会によれば,〈環境破壊を伴わず,地力を維持培養しつつ,健康で味のよい食物を生産する農法〉であり,こうした農法で営まれる農業が有機農業である。有機農業と総称されていても,完全無農薬,無化学肥料のいわゆる〈自然農法〉から,農薬,化学肥料を補完的に使用する省農薬ないし低農薬・省化学肥料農法までその幅は広く,名称にもさまざまなものがある。

 有機農業は,生産においても市場においても支配的な〈近代化〉農業に抗して生まれたものであるから,その普及は,〈近代化〉農業の弊害を自覚した消費者の共同購入組織と生産者との,市場を媒介としない直接的連帯による有機農業運動を起点として進められてきた。有機農業運動はおおむね1970年前後から組織的となり,とくに71年の日本有機農業研究会の結成を契機として,全国各地に生産者と消費者の提携組織が続々と生まれ,かなりの広がりを示している。このような運動の拡大は,安全な食べ物を求める消費者の根強いニーズに支えられたものである。運動の進展とともに,生活協同組合の大部分が,多かれ少なかれ有機農産物を取り扱うようになり,また農業協同組合においても,そうした動きがしだいに増えてきている。有機農業運動は,安全な食品を求め作ることから出発しつつ,必然的に,石油文明に浸った現代社会の人間の生き方そのものを問い直す運動に結びつき,食品添加物排除,学校給食改善,食糧自給運動,合成洗剤追放,自然保護,エネルギー自給,開発反対,反原子力発電・反核等々,幅広いエコロジー運動,市民運動とのかかわりのなかで展開している。有機農業運動が広がる一方,農薬,添加物に対する不安や〈健康食品ブーム〉などとも相まって,有機農産物は,自然食品店や多くのスーパーマーケット,デパートなどでもある程度販売されるようになり,その取扱いはしだいに増大しつつある。

 有機農法は化学農法に比べて生産性が低く,病虫害や雑草に悩まされ,本格的な農業には適しないとの批判がある。これに対する有機農法の側の見解は次のようなものである。有機農法への転換後一定の期間を経過すると,地力が増進し収量が安定するとともに,味もすぐれたものとなる。とくに冷害年には,一般田に比べ有機農業田のほうが被害がはるかに少ないことが実証されている。病虫害については,基本的には土づくりにより,また天敵などの利用によって対抗が可能である。有機農業では除草労働に手間を要するが,堆肥などのマルチ農法,共栄作物(2種類の互いに影響を与えあう作物。雑草の繁殖を抑える)やカブトエビ(水田の雑草を除く)の利用など,直接除草以外の方法がくふうされており,その手間はかなり省かれている。しかし,より有効な除草機器の開発が望まれる。また生産力を上げ価格面でも化学農法に太刀打ちできるようにすることが有機農業にとっての課題である。有機農業に対しては,ヨーロッパやアメリカでも熱心な取組みがみられる。とくにアメリカでは,農務省が有機農業に関する本格的な調査報告を発表し(1980),有機農業の促進を目的とした法案が下院で可決されている(1984)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「有機農業」の意味・わかりやすい解説

有機農業
ゆうきのうぎょう

アメリカで行われているorganic farmingを日本語化したもので、1971年(昭和46)に発足した日本有機農業研究会の活動によって広く知られるようになった。西欧諸国では生物農業または生態系農業とよばれている。日本ではオーガニック農業ともよばれている。有機農業は、化学肥料・農薬などの化学物質の使用を前提とする現代の化学農業への批判として生まれた。その一般的特色は、堆肥(たいひ)や厩肥(きゅうひ)などの有機質肥料によって地力を高め、病虫害に強い健康な作物を育てて、化学肥料や農薬を無用化しようとするところにある。

 ただし、農薬にかわる方法については、なお試行錯誤の段階にある。たとえば除草剤のかわりにカブトエビ、アイガモコイフナなどで除草したり、敷き藁(わら)や古紙などの被覆で雑草を押さえる方法などがある。殺虫剤、消毒剤にかわる防除技術としては、木炭、竹炭とその酢液の利用、天敵利用などが試みられているが、なお開発途上の段階にある。とはいえ、有機農業は、有機質や生物エネルギーの農場内循環に留意しながら農地の地力を養い、さらに適正な輪作、多品目栽培、生物学的防除などによって健康な作物の生育を図り、自然環境と調和した安全で味のよい農産物の生産を目ざして着実な成果をあげている。有機農業と類似のものに自然農法があるが、生態系や生命系を尊重し、農業の化学化を拒否して土づくりを重視する点では有機農業と基本的に同じである。

 有機農業はまた、単に一つの農法であるにとどまらず、一種の社会運動的な色彩を帯びるようになってきている。すなわち、風土に根ざした食生活の見直し(身土不二(しんどふじ)の思想)、食糧の地域内自給の運動、有機農産物の流通をめぐる生産者と消費者の提携(産消提携)、農村と都市との協力・結合、環境・エネルギー問題への積極的関与、工業化社会の価値体系の転換など、新しい文化の創造運動としても注目を浴びている。1999年(平成11)には日本有機農業学会が設立され、有機農業に関する科学的成果が期待されている。

 一般に有機農業は手間がかかり、規模拡大に限界があるために現代化学農業に比べてコスト節減が困難である。そのため有機農産物の価格は割高である。それにもかかわらず、ダイオキシン、環境ホルモン、遺伝子組換え食品などに不安をいだく消費者は、有機食品(オーガニックフーズ)への需要を年々高めている。

 そこからその品質を制度的に保証する必要が生じ、2000年6月に改正JAS法(「改正農林規格・品質表示法」。正式には「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部を改正する法律」)が施行され、有機食品の検査・認証制度が発足した。有機食品の品質基準はこれによって欧米なみに適正化され、消費者の選択に便宜を与えることになった。しかし、生産者にとっては、厳しい品質基準をクリアする必要から生じるコスト高のほかに産直に与える影響や輸入食品との競争など、多くの問題が予想される。

[坂本慶一]

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百科事典マイペディア 「有機農業」の意味・わかりやすい解説

有機農業【ゆうきのうぎょう】

1971年結成の日本有機農業研究会は〈環境破壊を伴わず,地力を維持培養しつつ,健康で味のよい食物を生産する農法〉を有機農法と称し,こうした農法で営まれる農業を有機農業という。化学物質を多用する近代農業に抗して生まれたもので,生産者と消費者が連帯して安全な食品を求め作ることから出発した有機農業運動は,食品添加物排除,食糧自給運動,自然保護,反原発など,幅広いエコロジー運動,市民運動とのかかわりの中で展開している。→オーガニック環境保全型農業アイガモ農法
→関連項目コンポスト

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知恵蔵 「有機農業」の解説

有機農業

農薬や化学肥料などの人工的な農業資材を使わずに、動植物の生命力に依拠する農法。食品の安全性や環境との調和などの理由で注目を集めている。1971年には、日本有機農業研究会が誕生した。80年代前後まで有機農産物の流通は限定的だったが、90年代に専門の配送会社やインターネット産直が広がり、今では量販店や外食産業にも普及している。有機農業を環境保全型の1つと見なす考え方があるが、持続的農業導入促進法による環境保全型農業の定義は化学肥料や農薬による環境負荷の軽減を目指すだけで、有機農業と本質的に違うという意見も根強い。2005年から有機農業推進議員連盟などの有機農業推進法の制定を求める声が強くなり、06年12月8日に成立した。さらに、同法が定める有機農業の推進に関する基本的な方針が07年4月27日に発表された。

(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2008年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有機農業」の意味・わかりやすい解説

有機農業
ゆうきのうぎょう

自然農法ともいう。近代農業が化学肥料と農薬を武器に省力型農法によって推進されているのに対し,土壌中の腐植などの有機物を栄養に作物をつくる本来の農業のあり方をいう。最初に体系づけたのはドイツの農学者 A. D.テーアで,堆肥づくりを奨励し有機栄養説を唱えた。その後,ドイツの化学者 J. F. リービヒは植物が無機物を光合成によって有機物に合成する仕組みを明らかにして無機栄養説を唱え,化学 (近代) 農法を確立したが,近年,化学薬剤の濫用による土壌の荒廃と残留農薬禍から,有機農業への回帰が脚光を浴びてきた。

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