朝鮮土地調査事業(読み)ちょうせんとちちょうさじぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「朝鮮土地調査事業」の意味・わかりやすい解説

朝鮮土地調査事業 (ちょうせんとちちょうさじぎょう)

朝鮮の植民地化初期に行われた土地の所有権,価格,地形地貌などの調査・測量事業朝鮮総督府は,日韓併合(1910)直前からの土地調査事業をうけつぎ,併合直後に臨時土地調査局官制,1912年に高等土地調査委員会官制・土地調査令を公布して本格的に調査事業を行った。18年11月に全事業が完了し,調査筆数は1901万余筆,費用は2456万円に達した。その結果,林野(調査事業は22年完了)を除いてすべての土地の所有権が確定し,課税地も表のように52%増大した。土地所有者が,臨時土地調査局長に申告し(国有地通告),同局長が地方土地調査委員会の諮問を経て土地の所有者・境界を査定する方式がとられた。ところが当時土地所有関係に流動的要素があり,煩雑な申告作業に加えて地方有力者・地主などが同委員会の有力メンバーとなっていたので,土地所有権・占有権が否定される農民が少なくなかった。公式に示された紛争地は全調査筆数の0.5%,約10万筆で,そのほとんどが所有権にかかわっており,また併合直前からの駅屯土(李朝時代の宿駅付属の田土)調査事業によって強引に国有地化されたこともあって,紛争筆地の65%は国有地をめぐるものであった。事業完了の18年末現在,全国442万町歩のうち国有地が27万町歩,日本人所有地が24万町歩であった。

 この事業の結果,総督府財政の基礎が確立し国有地が創出される一方,事実上の農民的土地所有を否定されたり土地を収奪された農民が小作人に転落して地主的土地所有が再編・強化され,また土地商品化が進められるなかで国有地払下げの恩恵もうけるなど日本人地主の進出容易となった。最大の日本人地主であった東洋拓殖株式会社は,この国有地を基本に所有地拡大をはかっていった。事業完了の数ヵ月後に朝鮮最大の民族運動である三・一独立運動が勃発したが,農村部でもっとも激しくかつ長期に展開したことは,事業の性格をよく示している。
地主[朝鮮]
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「朝鮮土地調査事業」の意味・わかりやすい解説

朝鮮土地調査事業
ちょうせんとちちょうさじぎょう

日本の朝鮮植民地支配の時期、朝鮮総督府が土地所有権の保護、生産力増進の名目の下に行った事業。1910年(明治43)9月から18年(大正7)11月までの間に総経費2400万円の巨費を投じて、土地所有権、土地価格、地形などの調査を行い、日本国家や地主らによる土地略奪、地税収奪などを保証した。日本は1910年8月の韓国併合の翌9月、臨時土地調査局を設置、12年8月高等土地調査委員会官制、土地調査令を公布して、1910年以前からすでに進められていた日本人資本家、地主らによる土地略奪政策を一歩進め、本格的な「土地調査事業」を開始した。この事業は土地の綿密ないわゆる細部測量を実施し、土地所有権の確認については一定期間内の申告制が採用され、その結果480余万町(一町=100アール弱)の土地、187万余人の所有権者が確認された。しかしこの調査によって、多くの韓国政府・王室所有(駅屯土・宮庄土)を含む公田100万余町が日本の国有地に編入され、また複雑な申告制によって農民の土地占有権、耕作権が不法にも否定され土地を喪失したりした。またこの調査は地税賦課の基礎を確立して総督府財政維持の基礎作業となった。この事業はいわゆる「近代的土地制度の樹立」というより、半封建的生産関係の再編成として、日本の朝鮮植民地支配、資本主義的搾取関係を強化したものといえよう。

[朴 慶 植]

『朴慶植著『日本帝国主義の朝鮮支配』上下(1973・青木書店)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「朝鮮土地調査事業」の解説

朝鮮土地調査事業
ちょうせんとちちょうさじぎょう

朝鮮総督府が植民地統治体制確立の目的で実施した土地所有権・土地価格の調査・確定,地形・地貌の調査・測量などの事業。1910年(明治43)の韓国併合直前から開始され,12年(大正元)の土地調査令公布によって本格的実施となり,18年に終了。土地所有権調査では,土地所有者による申告主義,地主の意向を反映しやすい確定手続きなどのため,農民の土地占有権が否定され,地主的土地所有が強化されるとともに国有地が増大した。課税対象地の把握が進んだため地税収入が増加し,総督府財政の基礎が固められた。全国的な測量作業による地図作成も,統治の基盤づくりの意味をもった。

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世界大百科事典(旧版)内の朝鮮土地調査事業の言及

【地主】より

…こうした動きを阻止し,地主制を農業における主要な生産関係として定着させたのが,日本による植民地農政であった。1910年代に行われた〈朝鮮土地調査事業〉によって,地主の排他的土地所有権が法認された反面,従来農民が獲得していた諸権利は否定された(小作権の物権性の否定,永小作権の否定など)。また農民経営の不可欠の構成要素であった農村家内工業も,日本などの機械制製品の侵入によって壊滅的な打撃を受け(綿製品など),地主制が急速に拡大していくのである。…

※「朝鮮土地調査事業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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