木六駄(読み)きろくだ

精選版 日本国語大辞典 「木六駄」の意味・読み・例文・類語

きろくだ【木六駄】

狂言。各流。太郎冠者は、都にいる主人おじに木六駄、炭六駄、酒を届けるよう命じられ、十二匹の牛を追って行くが、峠の茶屋で、酒を飲んでしまい、あれこれといいわけをする。

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デジタル大辞泉 「木六駄」の意味・読み・例文・類語

きろくだ【木六駄】

狂言。太郎冠者たろうかじゃが、伯父の家に木と炭を六駄ずつ運ぶ途中で酒を飲み、酔った勢いで木の六駄を茶屋の亭主に与えてしまい、いい気持ちで伯父を訪ねてしかられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「木六駄」の意味・わかりやすい解説

木六駄 (きろくだ)

狂言の曲名。太郎冠者(かじや)狂言。ある冬の日,主人は木六駄(6頭の牛に積んだ薪(たきぎ))と炭六駄と酒樽を都の伯父に届けよと,太郎冠者に命ずる。太郎冠者は大雪の中を,12頭の牛を追いながら出かける。途中,峠の茶屋で一杯飲んで暖まろうと酒を所望するが,あいにく茶屋では酒が品切れである。つい一口と,進物用の酒樽に手をつけ,茶屋の亭主とくみかわすうちに飲みほしてしまう。太郎冠者は機嫌よく舞を舞ったりしたあげく,酔った勢いで木六駄を茶屋にやってしまい,炭六駄をのせた6頭の牛だけを引いて出立する。伯父の家につき,主人からの文面に相違して薪の荷がないことを問いただされると,太郎冠者は,最近自分は〈木六駄〉と改名したので〈木六駄に炭六駄のぼせ申し候じゃ〉と言いぬけるが,結局,噓が発覚して追い込まれる。登場人物は太郎冠者,主,茶屋,伯父の4人で,太郎冠者がシテ蓑笠をつけ,1本の追竹を持つだけで雪の坂道と12頭の牛を描き出す牛追いの演技,酔態で舞う《鶉舞(うずらまい)》の小舞など見どころに富み,狂言としては重厚な構成の中に庶民の生活感情も描かれた秀作。なお,大蔵流山本東次郎家の筋立ては,木六駄だけで炭六駄はないこと,太郎冠者は出立の時から酒を飲んでいること,小舞は《鶉舞》ではなく《あんの山》《雪山》であること,使いの遅いのを案じて伯父が茶屋まで迎えに出ること,言い抜けのせりふは〈御普請のお見舞いにこの木六駄進じ候〉となることなど,著しく異なる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「木六駄」の意味・わかりやすい解説

木六駄
きろくだ

狂言の曲名。太郎冠者(かじゃ)狂言。奥丹波(たんば)に住む主人は、都の伯父へ歳暮として牛につけた木六駄と炭六駄を持って上るよう、太郎冠者(シテ)に命じる。酒樽(さかだる)まで持たされた冠者は12頭の牛を追い、激しく雪の降る坂道を登って行く。やっと老の坂(おいのさか)の峠の茶屋に着くが、酒がないので土産(みやげ)の酒樽を開いて茶屋と酒宴を始め、「鶉舞(うずらまい)」を舞ったあと、酔うままに、木一駄は茶屋にやり、あと五駄は自分の小遣いにするため換金を頼み、炭六駄だけを都へ届ける。主人からの書状を見て不審がる伯父に、冠者は最近木六駄と改名したので、「木六駄に、炭六駄のぼせ申し候じゃ」とごまかそうとするが、結局嘘(うそ)がわかって追い込まれる。以上は和泉(いずみ)流の筋で、大蔵流では老の坂など地名を特定せず、ことに山本東次郎家の筋立ては非常に違っているが、いずれも、実際には登場しない多くの牛を追って雪の峠道を登って行く冠者の演技が見どころ。

[小林 責]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「木六駄」の意味・わかりやすい解説

木六駄
きろくだ

狂言の曲名。主人に命じられて,太郎冠者 (シテ) が丹波の奥から都の伯父のもとへ,歳暮に木6駄,炭6駄を届けることになり,主人の手紙を懐中に,左手に進物の酒樽を,右手に鞭を持って,荷を積んだ 12頭の牛を追いながら出かける。大雪のなかをようやく峠の茶屋にたどり着くが,茶屋に酒が切れていたため,進物の酒に口をつける。1杯のつもりが2杯,3杯となり,亭主にもふるまい,歌いかつ舞い,ついに樽を空にして,木6駄を茶屋に置いて,炭6駄だけを届ける。手紙を見て「木六駄に炭六駄のぼせ申し候」とあると詰問する伯父に,木六駄は改名した自分の名だといってごまかそうとするが,「手酒一樽」と書かれた文面を動かぬ証拠に押えられて逃げ出し,追込められる。 12頭の牛を追う様子を鞭1本で表現するのが見どころ。また酒に酔っての「鶉舞」もこの曲独特のもの。

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