末金鏤(読み)マッキンル

デジタル大辞泉 「末金鏤」の意味・読み・例文・類語

まっきん‐る【末金×鏤】

奈良時代漆工芸技法の一。器物に漆を塗った上に金・銀のやすり粉をいて文様を表し、さらに漆を塗って研ぎ出す。のちの研ぎ出し蒔絵にあたるもので、遺品正倉院の「金銀鈿荘唐大刀きんぎんでんそうのからたち」がある。

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精選版 日本国語大辞典 「末金鏤」の意味・読み・例文・類語

まっきん‐る【末金鏤】

〘名〙 奈良時代の漆工芸の技法で、漆で文様を描いて鑢粉(やすりふん)を蒔き、その上に漆を塗って研ぎ出したもの。後の研出蒔絵に相当する。
正倉院文書‐天平勝宝八年(756)東大寺献物帳・六月二一日「金銅鈿荘唐大刀一口 刃長二尺六寸四分、〈略〉鞘上末金鏤作」

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改訂新版 世界大百科事典 「末金鏤」の意味・わかりやすい解説

末金鏤 (まっきんる)

〈末金鏤〉には金の粉末をふりかけるという語義があり,蒔絵(まきえ)の語源ともいわれる。《東大寺献物帳》に〈金銀鈿装大刀(中略)鞘上末金鏤作〉とあるのが唯一の文献で,この大刀は正倉院に現存する。その技法は研出(とぎだし)蒔絵の先覚をなすものとされ,従来唱えられた練書(ねりがき)(漆に金粉を練り入れて描く)説は一応否定されている。ここに用いられる蒔絵粉は金のみで,形状は米粒形,細長形など大小が混在し,砂金のような自然粉には見えず,10世紀の粉と大差ない。〈末金鏤大刀〉は蒔絵の日本創作説の有力な根拠とされるが,楽浪出土の漢代漆器の内に蒔絵が見いだされたという1948年の報告以後,中国からはいまだたしかな蒔絵遺品の発見がなく,結論は出ていない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「末金鏤」の意味・わかりやすい解説

末金鏤
まっきんる

漆工技法の一種。金の鑢粉 (やすりふん) を漆に混ぜて文様を描き,乾燥後透明漆を塗ってとぎ出したもの。正倉院の唐大刀に1点だけ奈良時代の作例がある。後世研出 (とぎだし) 蒔絵と同じ技法とする説がある。

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世界大百科事典(旧版)内の末金鏤の言及

【正倉院】より

…おもな遺品には金銀山水八卦背八角鏡,銀壺,銀薫炉,金銀花盤などがある。(2)漆工 漆に掃墨を入れた黒漆塗,蘇芳(すおう)で赤く染めた上に生漆を塗った赤漆(せきしつ),布裂を漆で塗りかためて成形した乾漆,皮を箱型に成形して漆でかためた漆皮(しつぴ),漆の上に金粉を蒔(ま)いて文様を表した末金鏤(まつきんる),金銀の薄板を文様に截(き)って胎の表面にはり,漆を塗ったあと文様を研いだり削ったりして出す平脱(へいだつ)(平文(ひようもん)),顔料で線描絵を施した密陀絵(みつだえ)などの技法が用いられた。遺品には漆胡瓶(しつこへい),金銀平脱皮箱,金銀平文琴,赤漆櫃,密陀絵盆などがある。…

【蒔絵】より

…一般には金銀粉地や,色粉(いろこ)(顔料)を蒔き付けたもの,螺鈿(らでん)や切金(きりかね)を組み合わせたものなどもその範疇に入る。〈蒔絵〉の語は《竹取物語》にみえるのが最古といわれ,語源は《国家珍宝帳》に記載される〈末金鏤(まつきんる)作〉から末金絵になったとする説や,金銀粉を蒔き付ける技法からきたとする説がある。
【材料,用具,技法】

[蒔絵粉]
 蒔絵の主材料は蒔絵粉だが,これには金銀のほか,青金(あおきん)(金と銀の合金),白鑞,まれに銅粉,白金粉などが用いられる。…

※「末金鏤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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