杏葉(読み)ぎょうよう

精選版 日本国語大辞典 「杏葉」の意味・読み・例文・類語

ぎょう‐よう ギャウエフ【杏葉】

〘名〙 (形が杏(あんず)の葉に似ているところから)
馬具の飾り板。唐鞍(からくら)しりがいに並べて付ける金属または革製の装飾具。古墳時代の精巧な遺品がある。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② 腹巻や胴丸の類の肩上(わたがみ)につけ、鎌倉の末までは肩を、室町以後は高紐の部分を覆ったもの。
※本朝軍器考(1722)九「障子の板弦走の革などもなく栴檀板をば杏葉を以て代へたり」
③ 紋所の名。杏の葉を二つ向かい合わせた形のもの。抱き杏葉、丸に花杏葉、佐賀杏葉、花杏葉、柳川杏葉などの種類がある。ぎょよう。〔名語記(1275)〕

ぎょ‐よう ‥エフ【杏葉】

〘名〙 =ぎょうよう(杏葉)③〔書言字考節用集(1717)〕

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デジタル大辞泉 「杏葉」の意味・読み・例文・類語

ぎょう‐よう〔ギヤウエフ〕【×杏葉】

《形があんずの葉に似ているところから》
唐鞍からくら面繋おもがい胸繋むながい尻繋しりがいにつける金属製または革製の装飾。
胴丸腹巻などの肩上わたがみに、染め革でくるんでつけた鉄板。
紋所の名。杏の葉を二つ左右から抱き合わせた形のものなど。ぎょよう。

ぎょ‐よう〔‐エフ〕【×杏葉】

ぎょうよう(杏葉)3

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改訂新版 世界大百科事典 「杏葉」の意味・わかりやすい解説

杏葉 (ぎょうよう)

馬具の一部を構成する装飾物で,胸繫(むながい)と尻繫にさげる。面繫にも,また鞍褥(くらしき)の裾にさげることもある。杏葉は平安時代の名称で,葉形の意匠をもつ唐代の形を名称とともに受け入れたものである。形が杏あるいは銀杏の葉に似ていることに由来するという。杏葉の起源は西方にあり,南北朝時代に中国に伝えられたので,漢代の馬装には杏葉がない。日本の5世紀前半の古い馬具に杏葉を伴わないことも,これと関連がある。朝鮮半島や日本の古墳から出土する杏葉は,中国製かその模作品で,杏葉の形には,方形,円形,ハート形,鐘形,扁円剣菱形などがあり,つくりは鏡板(かがみいた)と同じで,セットとして製作されたものが多い。鈴付鏡板のセットになる鈴杏葉があり,鈴付きはかつて日本の発案になるものと考えられたことがあるが,和歌山市大谷古墳から出土した鈴付鏡板と鈴付杏葉の優品をみると,鈴杏葉の類も大陸製品の模倣にすぎない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杏葉」の意味・わかりやすい解説

杏葉
ぎょうよう

馬具もしくは甲冑(かっちゅう)の付属具。形状が杏(あんず)の葉に似るとして命名されたものと考えられる。馬具の杏葉は、古墳時代の鞍(くら)や後の唐鞍(からくら)の鞦(しりがい)につけた装飾具である。後期古墳や宗像(むなかた)大社沖ノ島祭祀(さいし)遺跡などから金銅透(こんどうすかし)彫りの精巧なものが出土している。甲冑付属の杏葉は、中世に徒立(かちだち)で戦った下卒が着た胴丸(どうまる)(右引合せ形式で当時は腹巻と呼称された)の肩上(わたがみ)に結び付けた肩先の防具である。軽い膨らみをもった独特の形の掌(てのひら)大の鉄板で、一般に上部を折り返し、表面に絵韋(えがわ)を張り、据文(すえもん)金物を打ち、周囲に覆輪をかけ、上部の穴に緒の設けがある。

 南北朝時代以降、胴丸が騎馬の武士に着用され、大袖(おおそで)がつくようになると、用途を変じ、胸前に垂下して高紐(たかひも)を覆う装具となり、しだいに形式化して小さくなった。杏葉の遺物は、鹿児島市鶴ヶ嶺(つるがね)神社に鎌倉時代の作と推定される鏡地(かがみじ)鶴松葉文の杏葉が伝来するほか、南北朝・室町時代の胴丸に多く付属している。また、北海道から鏡地の古風な杏葉の出土がある。江戸時代には甲冑形式の多様化と威儀化から、胴丸のほか復古調の腹巻・当世具足などにも用いられて形状を崩した。

[山岸素夫]

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普及版 字通 「杏葉」の読み・字形・画数・意味

【杏葉】きようよう(きやうえふ)

あんずの葉。鞍の模様などに施すことが多い。唐・白居易〔出使、途に在り~〕詩 風光見ず、桃の騎 塵土しく留む、杏の鞍

字通「杏」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「杏葉」の意味・わかりやすい解説

杏葉【ぎょうよう】

馬具の面繋(おもがい),胸繋(むながい),尻繋(しりがい)につける装飾具。皮または金属製で,名は形がアンズ(杏)またはイチョウ(銀杏)の葉に似ていることに由来する。中国の形式が朝鮮を経て日本に伝わったもので,古墳から多く出土している。
→関連項目馬具ルリスタン青銅器

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「杏葉」の意味・わかりやすい解説

杏葉
ぎょうよう

馬具の一種。上古時代の飾り馬,平安時代の唐鞍 (からくら) ,胸繋 (むながい。→三繋 ) ,尻繋などに下げる装飾物。日本の古墳時代のものには,鉄地金銅張り,銅製,金銅製,鉄地銀張りなどがある。心葉形,楕円形などがある。

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防府市歴史用語集 「杏葉」の解説

杏葉

 馬の背中につける鞍[くら]をつなぎとめるひもに取り付ける飾りです。杏子[あんず]または銀杏[いちょう]の葉の形に似ていることからこう呼ばれます。

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