松の緑(読み)マツノミドリ

デジタル大辞泉 「松の緑」の意味・読み・例文・類語

まつのみどり【松の緑】

長唄杵屋六翁(4世六三郎)が、娘の改名披露の祝賀曲として作曲。天保11~安政2年(1840~1855)の成立素踊りとしても用いられる。
うた沢仮名垣魯文作詞、哥沢土佐太夫作曲。芝派だけの祝儀曲。「松寿千年」とも。

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精選版 日本国語大辞典 「松の緑」の意味・読み・例文・類語

まつのみどり【松の緑】

[一] 長唄。作詞者不明。杵屋六翁(四世六三郎)作曲。安政年間(一八五四‐六〇)、六翁の娘せいが杵屋六を名のった記念として作られた。娘を若松に見立てて、禿(かむろ)が松の位の大夫にあがるように祝い祈った小曲。お祝儀曲で独吟物の代表作
[二] うた沢。仮名垣魯文作詞。哥沢土佐太夫作曲。芝派のお祝儀曲。

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改訂新版 世界大百科事典 「松の緑」の意味・わかりやすい解説

松の緑 (まつのみどり)

(1)長唄の曲名。杵屋(きねや)六翁(4世杵屋六三郎)作曲。六翁の末娘せいが杵屋六を襲名したときの記念の祝賀曲。作詞者は不明であるが,加藤千蔭和歌〈今年より千たびむかふる春ごとになほも深めに松のみどりか〉を引用し,これを廓気分におきかえて優雅に綴っている。みどりは禿(かむろ)の名によくあるので,娘をこれに見立て,禿の初々(ういうい)しさを述べ,将来は松の位の太夫になるべき風格を備えていると歌って,娘の前途を祝福している。本調子。松風風韻をきかせた前弾に始まり,薗八節の味をとり入れた巧みな節づけで,短いながら歌の面白味が十分に発揮できる独吟ものの代表曲。素踊曲としてもよく用いられる。なお,この作品は安政年間(1854-60)の作とされているが,六翁は1855年11月に没しているので,没の1~2年前に作られたことになる。(2)うた沢の曲名。《松寿千年》ともいう。本調子。仮名垣魯文作詞。哥沢(うたざわ)土佐太夫の作曲で,芝派に限る祝儀曲。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「松の緑」の意味・わかりやすい解説

松の緑
まつのみどり

長唄(ながうた)の曲名。4世杵屋(きねや)六三郎(後の六翁(ろくおう))作曲。安政(あんせい)期(1854~60)の作品といわれ、六翁の娘の名披露目(なぴろめ)の会に唄われた。娘を松の若葉の初々しさに例え、将来は禿(かむろ)から太夫(たゆう)になるべき風格を備えるようにと詠み、娘の前途を祝した内容。全体に短い作品のため、長唄の入門曲とされ、下座(げざ)の稽古(けいこ)唄などにもよく使われるが、唄と三味線の兼ね合いがむずかしく、具体的な旋律進行も少なく、声の音域も高いので、曲の趣(おもむき)を表現するには熟練を必要とする。なおうた沢の御祝儀曲にも、仮名垣魯文(かながきろぶん)作詞、哥沢(うたざわ)土佐太夫作曲の同名曲がある。

[茂手木潔子]

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百科事典マイペディア 「松の緑」の意味・わかりやすい解説

松の緑【まつのみどり】

長唄の曲名。作詞者不詳,4世杵屋六三郎(後の初世杵屋六翁)作曲。作曲年代は不明。天保年間(1830年―1844年)説と安政年間(1854年―1860年)説とがある。作曲者が晩年に自分の末娘の改名披露のために作った曲。娘を松になぞらえ,禿(かむろ)が松の位の太夫に昇進するような,将来の発展を祝福した曲。小品だが代表的な独吟曲の一つで,初心者のための手ほどき曲にもされている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「松の緑」の意味・わかりやすい解説

松の緑
まつのみどり

長唄曲名。作曲者杵屋六翁 (4世杵屋六三郎 ) 。安政年間 (1854~60) 頃の作曲と思われる。六翁の娘せいが杵屋ろくを襲名したときの披露曲。全曲本調子。郭気分と遊女の姿を歌った短い曲ではあるが,粋な節回しを十分に聞かせる曲である。

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