林紓(読み)リンジョ(英語表記)Lin Shu

デジタル大辞泉 「林紓」の意味・読み・例文・類語

りん‐じょ【林紓】

[1852~1924]中国、清末・民国翻訳家。福建省閩侯びんこう県の人。あざな琴南きんなん。号、畏廬いろ・冷紅生など。「椿姫その他欧米・日本の小説文語で翻訳。白話運動に反対した。リンシュー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「林紓」の意味・読み・例文・類語

りん‐じょ【林紓】

中国、清末の翻訳家。字は琴南福建省閩(びん)県の人。小デュマの「椿姫」を「巴黎茶花女遺事」として出版したのをはじめ、一七〇種余の欧米および日本の小説を古文に翻訳し、大いに流行した。また、文学革命機運に当たっては胡適らの白話運動に極度に反対した。(一八五二‐一九二四

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「林紓」の意味・わかりやすい解説

林紓
りんじょ
Lin Shu

[生]咸豊2 (1852).9.27.福建,福州
[没]1924.10.9.北京
中国,末から中華民国初の文学者,翻訳家。福建省閩侯県(びんこうけん)の人。字は琴南。筆名は冷紅生など。桐城派古文をよくし,光緒19(1893)年アレクサンドル・デュマの『椿姫』La Dame aux caméliasを『巴黎茶花女遺事』の題名で翻訳して一躍有名になった。以後ウィリアム・シェークスピア,オノレ・ド・バルザック,チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ,ヘンリック・ヨハン・イプセン徳冨蘆花など十余国の文学作品を古文で翻訳した。自身は原文を読めず,協力者が伝える大筋を古文に書き下ろした。作品の選択はまちまちで誤訳も多いが,ヨーロッパ近代文学を中国に紹介した功績は,思想界における厳復の功績に匹敵する。のち,文学革命において口語運動が興ると,反対派の急先鋒となった。詩文,小説,戯曲などの創作も多い。(→中国文学

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「林紓」の意味・わかりやすい解説

林紓 (りんじょ)
Lín Shū
生没年:1852-1924

中国,清末の文人,翻訳家。福建省閩侯(びんこう)の人。字は琴南,号は冷紅生,畏廬など。桐城派の古文を学び,京師大学堂(北京大学の前身教習に任じた。フランス帰りの王寿昌が口語訳した小デュマの《椿姫》を文語化し《巴黎茶花女遺事(パリちやかじよいじ)》として1899年(光緒25)刊行したのをきっかけに,ストーの《アンクル・トムの小屋》の訳《黒奴籲天録(こくどゆてんろく)》(1901)をはじめ,各国の小説170種余りを翻訳し,〈林訳小説〉として当時の社会と文壇に大きな影響を与えた。みずからは外国語を解せず,外国語のできる助手の口語訳をもとにしているため,翻訳する作品の選択は恣意的であるが,古文家が外国の小説を翻訳したということで,中国における小説の地位を高めたほか,海外の文学の紹介という啓蒙的な役割をも果たした。民国成立後,文学革命において口語運動を提唱した胡適などを非難したが,保守派文人として忘れ去られた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「林紓」の意味・わかりやすい解説

林紓
りんじょ / リンシュー
(1852―1924)

中国、清(しん)末の古文家、翻訳家。原名は群玉、字(あざな)は琴南、号は畏廬(いろ)、冷紅生。福建省閩(びん)県(いまの福州)の人。古文を学んで、フランス語のできる友人王寿昌の訳述により『巴黎茶花女遺事(パリちゃかじょいじ)』(デュマ・フィス『椿姫(つばきひめ)』)を訳し、この成功によって170種もの翻訳書を出して各国文学の紹介に貢献した。のちに京師大学堂(北京(ペキン)大学の前身)で古文の教育にあたり、民国以後、胡適(こてき)らの白話(はくわ)運動に反対して北京大学校長の蔡元培(さいげんばい)に非難の書簡を送ったり、『妖夢(ようむ)』『荊生(けいせい)』などの小説をつくったりして風刺した。晩年は悠々自適の生活を送った。

[尾上兼英]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の林紓の言及

【桐城派】より

…清末には文壇・政界の実力者曾国藩が出て,いっそう折衷学の傾向を強め,経書の文章も文学とみなし,政治・経済の2類を加え《経史百家雑鈔》を編集した。李鴻章もその弟子であり,厳復,林紓も欧米の思想・文学の紹介を桐城派古文の作者として行っている。【佐藤 一郎】。…

※「林紓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android