核熱利用(読み)かくねつりよう

改訂新版 世界大百科事典 「核熱利用」の意味・わかりやすい解説

核熱利用 (かくねつりよう)

社会で必要とされるエネルギーのうち,熱が約3分の2を占め,残り約3分の1が電力である。熱は燃料から100%の効率で得られるのに対し,電力の場合は熱力学的な限界などのため,燃料のエネルギーの一部しか利用できず,したがっていったん電力の形にしたエネルギーをふたたび熱に戻して使うことはエネルギー的に不経済である。原子力からの熱をそのまま熱として利用する核熱利用は,このようなエネルギー有効利用上からも,また化石燃料節約の上からも意義が大きい。

 各産業別あるいは民生用として,どのような温度範囲の熱が実際に要求されているかを調べてみると図のようである。熱源として対応できる主要な原子炉型式も同図に示してある。

 高温ガス炉では高温のヘリウムガスで炉心から熱を取り出す。この熱は高温熱交換器を介して利用側に伝えられ,必要に応じて蒸気発生器に導かれ,プロセス用蒸気や発電用の蒸気がつくられる。高温ガス炉の熱は高温から中低温までの多段階の用途に対して,カスケード的に利用でき,高い総合エネルギー利用効率が達成できる。ドイツ(旧,西ドイツ)では出口ガス温度約750℃の発電・石炭ガス化両用の高温ガス原型炉が稼働しており,アメリカでも同様の温度レベルの発電用高温ガス炉の運転経験をもとに,多目的高温ガス炉の検討を進めている。日本では原子力製鉄や高温化学への利用を目的として,出口温度約950℃の多目的超高温ガス実験炉の開発を進めている。

 軽水炉の核熱利用では,(1)発電用大型軽水炉の蒸気の一部用,(2)電力・蒸気併給の中小型軽水炉,(3)温水供給専用の低温低圧小型軽水炉の3方式が検討されている。いずれの場合も,原子炉側と利用側との間には熱交換器を置いて,放射性物質の漏れによる問題の生じないよう設計される。大型軽水炉による工場への蒸気供給は西ドイツなどですでに開始されている。旧ソ連では軽水炉ではなく高速炉による海水淡水化の歴史があり,また地域暖房用として熱供給専用軽水炉の建設や発電用軽水炉からの蒸気取出しのための改造などが行われている。軽水炉発電所の蒸気発生器あるいは復水器からの廃熱を利用した植物栽培や魚貝類の養殖も,日本などで試験規模で行われている。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android