核磁性(読み)かくじせい(英語表記)nuclear magnetism

改訂新版 世界大百科事典 「核磁性」の意味・わかりやすい解説

核磁性 (かくじせい)
nuclear magnetism

原子核の示す磁性。多くの原子核は,核子(陽子中性子総称)のスピンと角運動量から生ずる磁気モーメント核磁気モーメント)をもっており,この核磁気モーメントによって核磁性が生ずる。核磁気モーメントの大きさが電子の磁気モーメントの数千分の1程度と非常に小さく,また核磁気モーメント間の相互作用が小さいため,核磁性はほとんどの物質で10⁻5K程度の極低温まで常磁性を示し,絶対温度に逆比例する磁化率をもつという古典的なキュリーの法則に従う。例外として,低温において核磁性が常磁性からはずれ,核磁気モーメントが規則的に並ぶ磁気的秩序状態に入る現象が,固体ヘリウム3とある種の希土類化合物で観測されているが,これらは核磁気モーメント間の相互作用がきわめて強い特殊な場合である。また,液体ヘリウム3の核磁性も,その量子性のために1K以下でキュリー法則からはずれるふるまいをする。

 物質中の,常磁性状態にある原子核に外部から静磁場とそれに直交する回転磁場とをかけて核磁気共鳴を起こさせると,その共鳴磁場,共鳴幅,緩和時間などの測定から,原子核の置かれている物質中の微視的なようすを知ることができ,この方法は物性物理学化学分野できわめて重要な研究手段となっている(核磁気共鳴)。また,原子核の常磁性を利用して低温を得る核断熱消磁法は究極的な冷却方法であり,現在までに,10T以上の磁場中で補助的な手段で数mKまで予冷した金属銅を用いて10⁻6Kに近い低温が得られている。
極低温 →断熱消磁
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「核磁性」の意味・わかりやすい解説

核磁性
かくじせい

原子核がゼロでないスピンをもつ場合には、それに伴って固有の磁気双極子モーメントをもつ。電子の場合のボーア磁子に対応してeh/4πMc(eは電荷素量、hはプランク定数、Mは陽子質量、cは光速度)を核磁子という。核の磁気モーメントはすべてこの程度の大きさである(陽子の磁気モーメントはこれの2.79倍である)。このようにスピンがゼロでない原子核は磁性をもっているから、これらの核を含む原子分子、あるいはそれらから構成されている物質は電子による磁性のないときにも核に基づく磁性をもつ。これを核磁性という。核の磁気モーメントは電子のそれに比して1000分の1くらいであるから磁性としては非常に小さいが、核磁気共鳴などにおいて大きい意味をもつ。また、これらの物質中の核磁気モーメント間の相互作用も非常に小さいので、電子磁性における強磁性や反強磁性のような現象は超極低温下で特別の物質において、あるいは特殊な状況下でのみ出現する。

[伊藤順吉]

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