桂冠詩人(読み)けいかんしじん(英語表記)Poet Laureate

精選版 日本国語大辞典 「桂冠詩人」の意味・読み・例文・類語

けいかん‐しじん ケイクヮン‥【桂冠詩人】

〘名〙 (poet laureate訳語) ギリシア英雄や詩人の名誉をたたえるのに桂冠月桂樹の冠)を用いたところから、桂冠を与えられるのにふさわしい詩人の意。特に、イギリスで国王から王室詩人に指名され、年金を与えられる栄誉に浴した詩人のこと。ベン=ジョンソンをはじめとし、ドライデンワーズワース、テニスンらがこの称号を得た。桂冠。〔現代日用新語辞典(1920)〕

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デジタル大辞泉 「桂冠詩人」の意味・読み・例文・類語

けいかん‐しじん〔ケイクワン‐〕【×桂冠詩人】

英国で、王室が最高の詩人に与える称号。現在は終身制の名誉職で、年俸を与えられる。古代ギリシャで、すぐれた詩人に月桂冠を授けた故事に基づく。ジョンソンドライデンワーズワースなどが選ばれている。桂冠詩宗しそう欽定きんてい詩宗。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「桂冠詩人」の意味・わかりやすい解説

桂冠詩人
けいかんしじん
Poet Laureate

イギリスの名誉ある詩人の称号。中世以来ヨーロッパにおいて、名声ある詩人は、多く王室もしくは貴族によって保護されてきた伝統をもつ。ルネサンス期イギリスでは、たとえばスケルトンのごとく、当代第一の詩人として諸大学によって選ばれた詩人にこの称号は贈られたが、今日みられるように王室に関係ある詩人職として制定されたのは、実質的に1616年ジェームズ1世によってベン・ジョンソンが選ばれたことに始まる。公式には1668年にドライデンが任命され、年金300ポンドおよびカナリア諸島産ぶどう酒を授かった。その後、サウジー、ワーズワース(ワーズワス)、テニソンらから、20世紀に入っては、R・S・ブリッジズメースフィールドを経てデー・ルイス、さらにベッチマン、テッド・ヒューズらが選ばれている。しかし、桂冠詩人かならずしも大詩人ではなく、以上にあげたもののほかは、その多くがほとんど無名に近い群小詩人として名をとどめるにすぎない。現在は宮内官として一定の年俸を支給され、前任者が死亡したとき、政府によって推薦される終身制をとっている。王室の慶弔あるいは国家的行事重大事に際して、詩をつくることを義務としているが、いまはそれも任意となり、かならずしも義務づけられていない。

[上田和夫]

『小泉博一著『イギリス桂冠詩人』(1998・世界思想社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「桂冠詩人」の意味・わかりやすい解説

桂冠詩人 (けいかんしじん)

本来は詩作における勝利者のしるしとしての,ゲッケイジュの冠を戴いた詩人の意。ギリシア・ローマ時代には詩作も体育競技とならんで公開の競技である場合が多く,その勝利者には詩神アポロンにゆかりのゲッケイジュの枝を編んだ冠が授けられた。中世からルネサンスにかけてのイタリア人もこれを意識しており,ダンテ,ペトラルカ,タッソらが,その時代第一流の詩人として〈月桂樹を戴く者〉に擬せられたりした。

 しかし,これをはっきり制度化したのは近世イギリスであって,17世紀後半以来〈ポエット・ローリイットpoet laureate〉と呼ばれて王室の一つの役職となっている。最初に任命されたのは王政復古期の大詩人J.ドライデンであったが,政治と信仰と文筆活動とが離れがたく結びついていた時代で,ローマ・カトリックに改宗したドライデンには政敵が多く,1688年の名誉革命に続く政変のため,その地位を追われた。代わって任命されたのが政敵T.シャドウェルであり,さらにこのあとはN.テート,N.ローと続いた。その役目は,宮内官として終身の年俸を受けつつ,王室や国家の慶弔にあたってそれにふさわしい公的な詩を詠進することにあった。前任者が死ぬとすぐに,時の首相の推薦によって任命される名誉職的な終身官であったから,選考の基準は必ずしも詩人としての実力や名声によらず,身びいきも加わって,無難な二流詩人が選ばれることが多かった。しかし1843年に推薦されたワーズワースは,公的慶弔の詩作にはたずさわらないとの条件の下にこれを受けた。これ以来この種の詩作は,桂冠詩人の義務ではなく,自発的意志によってのみ行われるならわしである。ほかに著名な桂冠詩人としてはR.サウジー,A.テニソンがいる。
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百科事典マイペディア 「桂冠詩人」の意味・わかりやすい解説

桂冠詩人【けいかんしじん】

名誉の印としてゲッケイジュの冠をいただいた詩人をいう。古代ギリシアに発し,中世ではペトラルカがその一人。英国では国家の名誉職として制度化され,1670年にドライデンが最初に任命された。以後,サウジーテニソンなど。→月桂冠
→関連項目ヒューズブリッジズメースフィールド

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「桂冠詩人」の意味・わかりやすい解説

桂冠詩人
けいかんしじん
poet laureate

イギリス王室の属員として給料を受け,国家王室の大事に際して,慶弔の詩を詠むことを任務とする詩人の称号。元来はすぐれた詩人に対して,オックスフォード,ケンブリッジ両大学から与えられる称号であったが,17世紀に宮廷詩人をさすものに限定された。非公式にはベン・ジョンソンが最初とされているが,公式にはドライデンをもって初代 (1668) とする。ワーズワス,テニソンもこの地位にあった。 20世紀に入ってからは,A.オースティン,ブリッジズ,メースフィールド,デイ=ルイス,ベッチェマンがその任にあたる。現在ではほとんど名誉職で,国事慶弔の詠詩も義務とされていない。なお,14世紀のイタリアでは,古代ギリシアにならって月桂樹の冠を授与して詩人をたたえる行事が行われていた。 1315年パドバのムッサートに与えられたのが最初で,その後ダンテも望んだが果さず,41年にペトラルカがローマのカピトルの丘でその栄に浴した。

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世界大百科事典(旧版)内の桂冠詩人の言及

【ゲッケイジュ(月桂樹)】より

…ローマ時代には見習いの若い医師が万能薬のゲッケイジュを頭に飾る習慣があったといい,中世には大学で修辞学と詩学の修了者が桂冠を授与された。イギリスの桂冠詩人もこの伝統にのっとっている。花言葉は〈栄誉と勝利〉〈幸運と誇り〉。…

※「桂冠詩人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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