検注帳(読み)ケンチュウチョウ

デジタル大辞泉 「検注帳」の意味・読み・例文・類語

けんちゅう‐ちょう〔‐チヤウ〕【検注帳】

検注結果を記した帳簿。荘園領主が年貢徴収の基礎とした土地台帳馬上帳実検帳取帳丸帳

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精選版 日本国語大辞典 「検注帳」の意味・読み・例文・類語

けんちゅう‐ちょう ‥チャウ【検注帳】

〘名〙 荘園制で、領主が年貢を徴収するための基本台帳検注使による検注に基づいて作成された。検注目録検注取帳。丸帳。〔建久図田帳(1197)大隅国

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改訂新版 世界大百科事典 「検注帳」の意味・わかりやすい解説

検注帳 (けんちゅうちょう)

古代,中世において,領有者が所領を対象として行った検注の結果は,1通の文書に書いて,領有者のもとに送られる。これを一般に検注帳と呼んでいる。古代ではしばしば検田帳と呼び,中世では検注帳と称することが多い。検注取帳,正検取帳実検取帳,検注馬上帳などの名称もある。領有地の支配,租税徴収のための基礎台帳であることに変りない。

 形式は必ずしも一定しないが,耕地の1筆ごとの所在地,所定の租税量,名請人の名前などを注記している。記述の順序は,条里地帯では条,里,坪の順に従ったものが多いが,非条里地域では順序がわからないものもある。最後に検注帳作成の日付を記し,その次に責任者としての検注使および所在地の荘官らが連署することになっていた。ときには在荘の地頭がこれに加わることもある。元徳3年(1331)美濃国小木曾荘検注雑物注文に,検注帳の用紙および執筆の経費が計上されている。以上の事実から,検注帳は現地で製作されたことがうかがえる。多くの検注帳には,随所に朱の合点が施されている。このことは検注帳が正文のほかに写本が作られ,現地において検注使と在荘の荘官らが立ち会って,校合を加えたことを示している。こうして内容の確認を終えた検注帳の正文は,荘務遂行のため荘官のもとにとどめ,写本は領主のもとに届けられた。検注には莫大な経費を必要とし,そのおりには勘料の徴取が行われるなど,荘園側には不利の条件が多かったので,とかくこれを忌避する場合が多かった。貞和3年(1347)の醍醐寺領伊勢国曾禰荘百姓等請文によれば,この荘では建長(1249-56)~文永(1264-75)年間以来,実検が行われないできたが,現在では過去の故実を知る古老は死にたえて検注不可能であると訴えている。以上の例に徴するまでもなく,代替り検注帳はしばらくおき,一般の検注帳の作成の機会は,案外少なかったのではなかろうか。

 検注帳と深い関連を有し,これに対して補助的な役割を果たしたのは,検注目録である。この文書は検注帳作成の過程で作られた例が少なくなく,これも領主のもとに届けられた。内容は検注帳と基本的には変わらないが,まず最初に惣田数と年間可収租税の総額を明らかにし,その次に右から〈除田〉として控除される各種の田地を列記する。すなわちその第1は〈荒田こうでん)〉である。これには永久的な〈常荒〉とその年限りの〈年不〉がある。次が〈仏神田〉であって,荘内の神社・仏寺の経営・行事のための費用を書きあげる。その次が〈人給〉と称する項目で,荘園における諸代官の給分などが含まれる。以上が一般的なものであるが,荘園の事情により〈井料〉などの灌漑費がこれに含まれる場合が多い。以上の除田の合計を,総額から差し引くと,徴税可能の田数が明らかになる。これを〈定田〉と称する。つまり目録は,検注帳ではわからない定田の実態を把握するのが目的であったと考えられる。1463年(寛正4)東寺は所領摂津国垂水荘の検注目録を作成しているが,その理由は,この荘では1386年(至徳3)を最後に80年間も検注を実施していないで,旧検注帳の数字を訂正し,今年作成する検注目録の数字に合わせ,将来の基準とすることにあった。かように目録は,正検注のときにはもちろんであるが,必要に応じて随時調査作成され,検注帳と併せて領主の土地支配,収税の基準として,大きな役割を果たしていたのである。

 検注帳と密接な関連を持つものに名寄帳(なよせちよう)がある。検注帳は地域を基準として記載されていて,名請人単位の集計は行われていない。かような徴税上の不便を補うために,名請人単位に集計整理されたものが名寄帳である。検注帳作成のときに作られたものもあるが,建武5年(1338)の醍醐寺領伊勢国曾禰荘荘官請文には,毎年9月中に名寄帳を領主に送付することを誓った史料があることから,作成は随時行われる場合もあったことがわかる。

 検注帳の一種に内検帳がある。検注帳が領地全域を対象とするのに対し,内検帳は特定地域,すなわち水害,干害,風害などの自然災害の被災地に限られる点にその特色がある。その起源は明らかではないが,平安時代にさかのぼることができ,中世とくに室町時代には,大河川沿岸の荘園では,きわめて多くの例証が発見される。その形式は必ずしも一定しないが,耕地一筆ごとに名請人と名請地の受けた損害の状況を,〈損田〉と〈得田〉とに書き分けて掲げ,最後にその年の災害地の負担可能の租税額を総計しているものが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「検注帳」の意味・わかりやすい解説

検注帳
けんちゅうちょう

中世において、領主階級が行った検注(土地調査)の結果を示す台帳。一筆ごとの耕地について面積、所在地、保有者名を記した「検注取帳(とりちょう)」と、それを集計して惣田(そうでん)数、除田(じょでん)数(税が免除される田畠数)、定田(じょうでん)数(税負担の田畠数)、税額を記す「検注目録(もくろく)」との2種類がある。年々の税収納の台帳となるのは目録であるが、取帳は次の検注の台帳となる。両者相まって、領主支配の台帳の役割を果たす。

[山本隆志]

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旺文社日本史事典 三訂版 「検注帳」の解説

検注帳
けんちゅうちょう

中世の土地台帳
荘園領主は年貢・課役徴収のため所領の調査(検注)を行ったが,その結果を記したものをいう。一般に総面積,除田(年貢・公事免除地)・定田(貢納地)数,年貢額などが記載されている。様式は一定していない。

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