楽器製造業(読み)がっきせいぞうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「楽器製造業」の意味・わかりやすい解説

楽器製造業
がっきせいぞうぎょう

鍵盤(けんばん)楽器弦楽器管楽器打楽器、電子楽器などを製造する工業。

 在来の和楽器を除く、西洋楽器の工場生産は、日本では欧米より100年以上も遅れて始まった。第二次世界大戦後、学校教育における音楽教育の普及と大衆化、音楽教室の増加等を背景に、鍵盤楽器、とくにピアノ製造を中心に急成長、1983年(昭和58)にはピアノ生産台数が32.8万台、電子オルガンが26.1万台と世界最大の生産国となり、楽器総合メーカーとして世界的企業であるヤマハ、河合楽器製作所を生み出すに至っている。全国楽器製造協会加盟の168社、高級手工品を作成する個人業者、下請業者を加えると300社近い業界のなかで、ヤマハ、河合楽器製作所の両社は鍵盤部門で国内で大きなシェアを握り、高度の職人的加工技術を蓄積し、多額の設備投資を重ね、寡占体制を確立している。浜松に立地するこの二大メーカーは、原木製材合板・乾燥・鉄骨・部品の一貫生産を行っているが、1990年代以降製造拠点を中国などへ移転する傾向が顕著である。ギターなど手工業的性格の強いものは中小企業が生産の大部分を担い、集中度が低い。電子楽器部門には大手電機メーカーの進出がみられ、競争も激しい。

 ピアノと電子オルガンの販売数量は、1980年前後をピークに急減している。出生率低下等の構造的要因により、ピアノの普及率が国内では飽和水準に達したことから、国内市場には今後ともあまり大きな伸びを期待できない状況にある。今後、市場として成長が期待されるのは、中国を中心とする新興国市場であり、現地生産を含めた海外市場の開拓が成長の鍵(かぎ)となるだろう。「電子キーボード」「シンセサイザー」に代表される電子楽器の需要は、国内でも一定の成長が見込まれる。ピアノやギターをはじめとする楽器需要を、今後も国内で創出してゆくためには、従来の学校教育中心の需要構造に依存することなく、生涯教育や趣味の多様化傾向に対応するかたちで、需要を新規開拓してゆく必要があろう。

[殿村晋一・永江雅和]

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改訂新版 世界大百科事典 「楽器製造業」の意味・わかりやすい解説

楽器製造業 (がっきせいぞうぎょう)

日本における近代的楽器製造は,日本楽器製造(現ヤマハ[株])の創業者山葉寅楠が1887年オルガン製作に成功したことに始まる。日本楽器製造は,ドイツから技術者を招いたり海外に社員を派遣して欧米の技術を吸収,第2次大戦で工場の大半を焼失したが,1960年代に入って,高度成長の波にも乗って急成長し,欧米諸国の楽器産業斜陽化をよそに,世界をリードするまでになっていった。楽器製造業の特徴としては,(1)総じて労働集約的で多品種少量生産の傾向が強い,(2)メーカーは,全国楽器製造業協会加盟の約170社,高級手工品を手がける個人業者,下請業者を加えると300社近く,事業所は1000を超すが,ほとんどが二大メーカーの立地する静岡県にある,(3)その一方で,世界1,2位の楽器総合メーカー,ヤマハ,河合楽器製作所が存在する,ということがあげられる。両者は総売上高の2割前後を輸出している。主要楽器販売額をみると,ピアノと電子オルガンが圧倒的に多く,それぞれ5割強,3割強を占めている。この主要2品目はヤマハ,河合楽器の寡占下にあり,両社のシェア合計は9割を超え,両社の立地する浜松地区で大半が生産されている。ピアノ生産では両社のみが原木から製品まで一貫生産しており,技術蓄積は絶大。

 楽器は総じて国際競争力が強く,輸出比率も3~4割と高い。輸出額では,輸出比率が高い電子オルガンがピアノをおさえて最も多い。一方,内需は,昭和40年代後半に年率20%を超える高い伸びをみせた後,50年代にはいってから低迷している。しかし,電子オルガンや,シンセサイザー,合成楽器などの新しい楽器が内・外需の牽引役となってきている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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