橋弁慶(読み)はしべんけい

精選版 日本国語大辞典 「橋弁慶」の意味・読み・例文・類語

はしべんけい【橋弁慶】

[一] 謡曲四番目物。各流。作者不詳。「義経記」による。武蔵坊弁慶は従者から京の五条橋で人を斬りまわる少年がいると聞いて討ちとる決意をする。やがてその少年、牛若が橋に姿を現わして弁慶と大激闘になり、ついに弁慶が負けて二人は主従の契りを結ぶ。同題、同材の御伽草子一巻もある。謡曲に扱われている顛末と弁慶の素姓を物語る部分とから成る。
[二] 能「橋弁慶」に取材した三味線音楽
(1)義太夫。「鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)」の五段目などに用いられる。
(2)長唄。七変化舞踊「遅桜手爾葉七字(おそざくらてにはのななもじ)」の一つ。文化八年(一八一一)九世杵屋六左衛門作曲。
(3)長唄。明治元年一八六八)三世杵屋勘五郎作曲。大薩摩(おおざつま)風の勇壮な曲。

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デジタル大辞泉 「橋弁慶」の意味・読み・例文・類語

はしべんけい【橋弁慶】

謡曲。四番目物弁慶が京の五条橋で牛若丸と戦って降参し、主従の契りを結ぶ。
に取材した歌舞伎舞踊義太夫節長唄などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「橋弁慶」の意味・わかりやすい解説

橋弁慶 (はしべんけい)

(1)能の《曲名。四番目物。現在物。作者不明。佐阿弥作ともいう。シテは武蔵坊弁慶。ある日弁慶は従者(ツレ)から,最近五条橋にふしぎな少年が現れて人を斬るといううわさを聞き,退治に出かける。少年というのは牛若(子方)で,母の言いつけで明日は鞍馬寺に入る手はずなので,今夜がなごりだからと五条橋に出かける。すると物々しい姿の弁慶が大薙刀(おおなぎなた)をかついで現れたので,牛若はいたずらっぽく弁慶にからむ。そこで2人の格闘が始まるが,目まぐるしく動く牛若の早業に,弁慶の剛勇も抗しきれず,薙刀を打ち落とされてしまう(〈中ノリ地〉)。降参した弁慶は少年が源牛若と聞いて主従の約束を結ぶ。この曲は荒法師と少年の斬合いを見せ場とする童話風なものだが,男色趣味もうかがわれる。人形浄瑠璃鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりやくのまき)》などの原拠。
執筆者:(2)歌舞伎舞踊の曲名。五条橋における牛若と弁慶の出会いは,江戸期を通じて義太夫節,富本節一中節,河東節,長唄などに節付けされ,舞踊化もされてきた。現在行われているものは,1868年(明治1),3世杵屋(きねや)勘五郎が能の《橋弁慶》の詞章に長唄の節付けをしたもので,1912年4月東京歌舞伎座初演。演者は2世市川段四郎,12世片岡仁左衛門。構成や扮装も能に準じた松羽目物
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「橋弁慶」の意味・わかりやすい解説

橋弁慶
はしべんけい

能の曲目。四番目物。五流現行曲。作者不明、佐阿弥(さあみ)説もある。『義経記(ぎけいき)』によったものか。武蔵坊(むさしぼう)弁慶(前シテ)は五条の天神への丑(うし)の刻詣(もう)でをしていたが、満願の夜、従者(ツレ)から五条の橋で小太刀(こだち)で人を斬(き)る化生(けしょう)のような少年のことを聞き、いったんは神詣でを思いとどまろうとするが、いや聞き逃げは無念と、それを討ち取る決意をする(中入り)。牛若(子方)は、母の言いつけで明日は鞍馬寺(くらまでら)にあがろう、今夜が名残(なごり)と、五条の橋で人を待つ。大薙刀(なぎなた)を担いだ弁慶(後シテ)が現れるが、女装した牛若に油断して通り過ぎる。薙刀を蹴(け)上げた牛若と弁慶は激しく戦うが、さすがの弁慶もさんざんに翻弄(ほんろう)され、ついに降伏して主従の縁を結ぶ。観世(かんぜ)流には「笛之巻」の特殊演出があり、前段がまったく変わり、羽田秋長(はねだあきなが)(ワキ)に伴われた牛若が、母の常盤(ときわ)(前シテ)に人を斬ることをいさめられ、源家に伝わる笛の秘事を聞く。御伽(おとぎ)草子にも『橋弁慶』があり、義太夫(ぎだゆう)節に近松門左衛門の『孕常盤(はらみときわ)』ほか、一中(いっちゅう)節、河東(かとう)節にも流れがあり、長唄(ながうた)『橋弁慶』も名高い。

[増田正造]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「橋弁慶」の解説

橋弁慶
(通称)
はしべんけい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
五条橋
初演
明治25.11(京都・阪井座)

橋弁慶
〔大薩摩〕
はしべんけい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
延享1.1(江戸・中村座)

橋弁慶
〔竹本〕
はしべんけい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
安政6.4(江戸・市村座)

橋弁慶
〔長唄〕
はしべんけい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
文化8.3(江戸・中村座)

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デジタル大辞泉プラス 「橋弁慶」の解説

橋弁慶

古典落語の演目のひとつ。禽語楼小さんが演じた。

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世界大百科事典(旧版)内の橋弁慶の言及

【ワキ】より

夢幻能(むげんのう)の作劇法では冒頭にワキが登場して,時,所,劇的シチュエーションを設定することから話が始まる例が多く,シテ登場後は,シテの演技の引出し役に徹する。一方,現在能ではシテと互角に対立する役も多く,また《羅生門》などのようにワキが一曲の主役である例もあるが,まれに《小袖曾我》《橋弁慶》などワキの登場しない演目もある。なお,映画,演劇などにおける脇役(バイプレーヤー)とはかならずしも同義語ではない。…

※「橋弁慶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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