櫓太鼓(読み)ヤグラダイコ

デジタル大辞泉 「櫓太鼓」の意味・読み・例文・類語

やぐら‐だいこ【×櫓太鼓】

相撲場または昔の劇場で、開場閉場を知らせるためにの上で打つ太鼓

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改訂新版 世界大百科事典 「櫓太鼓」の意味・わかりやすい解説

櫓太鼓 (やぐらだいこ)

相撲興行などがあるとき,客寄せのために櫓をたて,その上で打つ太鼓のこと。慶長期(1596-1615)の絵画に,相撲,能,歌舞伎興行のとき,興行場木戸口の上に櫓をたてているのが見えるが,江戸時代初期には,櫓は公許興行のあかしとして設けられ,興行することを〈やぐらをあげる〉ともいった。寛文~元禄期(1661-1704)のころには櫓にやり,突棒(つくぼう),刺股(さすまた),袖搦(そでがらみ)などの武器を外に向けて飾りたてた。当時は浪人者や俠客の争いがしばしばあったので,興行主が自衛のためにこれらの武器を誇示した意味もあったと考えられる。櫓に太鼓をおき早朝などにこれを打って興行のあることを人々に知らせたのであるが,歌舞伎,相撲などの開始と進行状況を知らせるためにも太鼓を打った。歌舞伎興行などの櫓太鼓は京坂を除き文化期(1804-18)以後ほとんど廃止された。

 相撲では宝暦・明和期(1751-72)のころから,櫓を興行場である小屋近くに別に高くたてるようになり,高櫓から打ち出す太鼓の音は江戸市中に聞こえたという。江戸時代には火の見櫓以外の高い建物の建造は禁止されていたため,相撲興行の際には,そのつど幕府に願い出て,興行の許可と同時に櫓建造の許可を得た。興行許可を得た祝を〈御免祝〉とも〈櫓祝〉ともいったが,この慣習は現在でも残っており,日本相撲協会は本場所の約3週間前に報道関係者などを招いて〈御免祝〉を行っている。これは大安の酉(とり)の日,または午(うま)の日などの縁起のよい日を選んで行われる。櫓の高さは幕末のころ5丈3尺(約16m),根もとの4辺は各8尺(約2.4m),太鼓をおく櫓上(ろじよう)は6尺(約1.82m)四方と規定され,2日間でたて終わることになっている。櫓上に2本の竹ざおを空に向かって出し,先端に麻の御幣をつるす。これは昔の小屋掛けの晴天興行のなごりで,天の神に興行中晴天が続くよう祈る意味であって,これを出幣(だしつぺい)という。
相撲 →触太鼓
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「櫓太鼓」の意味・わかりやすい解説

櫓太鼓
やぐらだいこ

相撲(すもう)場に建てられる高さ約16メートルの櫓の上に置かれる太鼓。江戸時代は報道機関がないため、太鼓をたたき相撲興行を市中に知らせた。また、力士の場所入りの時間を報知するため、早朝から一番太鼓・二番太鼓と階級別に知らせたが、いまは客をよぶ「寄せ太鼓」、その日の興行が終わった「はね太鼓」など、違った太鼓の打ち方をする。

[池田雅雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「櫓太鼓」の意味・わかりやすい解説

櫓太鼓
やぐらだいこ

相撲や芝居の興行場に櫓を建て,その上で開場,閉場などを知らせるために打つ太鼓のこと。江戸時代の末期には相撲の櫓の高さは約 16mと規定され,高櫓から打出す太鼓の音は江戸市中に伝わり,興行の盛況をつくりだす重要な宣伝手段であった。櫓太鼓の打ち方には,伝達の内容によって寄せ太鼓,はね太鼓などさまざまの変化があった。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「櫓太鼓」の解説

櫓太鼓
(通称)
やぐらだいこ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
敵討櫓太鼓
初演
文政4.5(江戸・河原崎座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の櫓太鼓の言及

【太鼓】より

…その中でも中心となるものは,本来は,神社・寺院で用いられる大きな長胴の鋲打ち太鼓で,神社では〈宮太鼓〉,寺院では,宗派によっては〈法鼓(ほつく)〉などともいうが,歌舞伎では〈大太鼓(おおだいこ)〉といい,単に〈太鼓〉ともいう。なお,同種の小型のものを,櫓の上で用いるものは〈櫓太鼓〉というが,その音色の特殊なものを,とくに〈カンカラ太鼓〉ともいい,これを町中に触れて歩くときは〈触れ太鼓〉ともいう。こうした〈触れ太鼓〉は,相撲などでも用いられる。…

【櫓】より

…梵天をたてることは,櫓が元来神を勧請するために天へ向けて高く構築されたものであったことを示しているといえる。櫓の中では〈櫓太鼓〉を打って,興行のあることを知らせた。そのことから〈太鼓櫓〉ともいった。…

※「櫓太鼓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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