次第(読み)しだい

精選版 日本国語大辞典 「次第」の意味・読み・例文・類語

し‐だい【次第】

[1] 〘名〙 上・下、前・後などの並びをいう。
① 順序。順。ついで。
※霊異記(810‐824)上「我、兄弟上下の次第无くして理を失ひ」
源氏(1001‐14頃)鈴虫「人々の御車しだいのままにひきなほし」
ヰタ・セクスアリス(1909)〈森鴎外〉「縁日で買って来たやうな植木が四五本次第もなく植ゑてある」
② 正しい順序。正当な手続。
※三代実録‐貞観一四年(872)八月二五日「継々仕奉るべき次第として中納言従三位源多朝臣、従三位藤原常行朝臣をば大納言官に〈略〉任け賜はくと」 〔李紳‐欲到西陵寄王行周詩〕
③ (━する) 順序を追ってすること。順序正しく並ぶようにすること。順序をつけること。→次第に
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「あはれいかにして侍るらん、母宮こそはしだひし給つらめ、いと物器用に心おはせし人ぞかし」
④ はじめから終わりまで。一部始終
※大和(947‐957頃)御巫本附載「物のあるやうありししだいなど諸共にみける人なりければ」
⑤ 物事の事情や由来、理由、成りゆきなど。
※保元(1220頃か)上「外記・官吏等いさめさせ給ふに、あやまたぬ次第を弁へ申せば」
※末枯(1917)〈久保田万太郎〉「次第によっては、柳生よりもうまいと俺はいふかも知れない」
⑥ 能や狂言で用いる語。
(イ) 謡曲組織の一部で、七五・七五・七四の三句からなる部分。第二句は初句の繰り返しのことが多い。多くは、ワキの登場第一声として謡い、その役の意向や感慨などを述べる。また、一曲の中で、曲舞(くせまい)や乱調子の序歌としてうたわれることもある。狂言の次第も同形式である。
※謡曲・山姥(1430頃)「まづこの歌の次第とやらんによしあしびきの山姥が山巡りすると作られたり」
(ロ) 登場人物が舞台へ出て次第を歌うまで、前奏される囃子(はやし)。大小鼓が主で、笛が従う。後に歌舞伎にも取り入れられた。
※三道(1423)「開口人(かいこにん)出でて指声(さしごゑ)より次第・一歌(ひとうたひ)まで一段
[2] 〘接尾〙 名詞や動詞の連用形に付いて、その物や事柄の事情に因る意を表わす。
① 名詞に付いて、その人の意向、またはその物事の事情のいかんによる意を表わす。
※玉塵抄(1563)一五「周の末戦国になって王の威おとろゑて諸侯がわれわれうで次第に人の国をとって大になったぞ」
滑稽本浮世床(1813‐23)初「何事も運次第よ」
② 名詞または動詞の連用形などに付いて、その動作が行なわれるままにする意を表わす。放題。
※米沢本沙石集(1283)九「情(なさけ)ありて命を助けながら、猶僻事に成りて、横さまに損じられん事こそ術無き次第にて侍れ」
浄瑠璃薩摩歌(1711頃)中「おはかの花もかれしだい、持仏のかうもきへしだい」
③ 動詞の連用形に付いて、その動作がすんだら直ちにの意を表わす。
※室町殿日記(1602頃)一「手透次第に実否可糺由被申候条、可其意候」
行人(1912‐13)〈夏目漱石友達大阪へ着き次第(シダイ)、其処へ電話を掛ければ」

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デジタル大辞泉 「次第」の意味・読み・例文・類語

し‐だい【次第】

[名]
物事が行われる際の一定の順序。「式の次第を書き出す」
今まで経過してきた状態。なりゆき。「事の次第を話す」
物事の、そうなるに至った理由。わけ。事情。「そんな次第で明日は伺えない」
狂言の構成部分の一。七・五、返句、七・四の3句からなる拍子に合った謡。シテワキなどの登場第一声として、また曲舞くせまい乱拍子の序歌としても謡われる。
能や狂言で、シテ・ワキなどの登場に用いる囃子事はやしごと。大鼓・小鼓に笛があしらい、続いて4が謡われる。
歌舞伎囃子ばやしの一。5を取り入れたもので、能がかりの登場音楽として用いるほか、「関の」などの幕開きにも奏する。
[接尾]
名詞に付いて、その人の意向、またはその事物の事情のいかんによるという意を表す。「あなた次第でどうともなる」「この世はすべて金次第
動詞の連用形に付いて、その動作が行われるままにという意を表す。「手当たり次第に投げつける」「望み次第に買い与える」
動詞の連用形または動作性の名詞に付いて、その動作がすむと直ちにという意を表す。「満員になり次第締め切る」「本が到着次第送金する」
[類語](1順序序次手順段取り段階手続き筋道ステップ/(2首尾始末過程経緯顛末一部始終プロセスいきさつ子細曲折

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改訂新版 世界大百科事典 「次第」の意味・わかりやすい解説

次第 (しだい)

能および狂言の用語。(1)能の囃子事で男女,貴賤,僧俗を問わずに幅広い役の登場に用いる。老人,神仏,精,霊,鬼などには用いない。笛,小鼓,大鼓で奏演するが,笛は大鼓,小鼓のリズムに合わせずに所定の部分だけで奏する。出入事(でいりごと)のなかでは最も多くの演目に用いられ,登場する役柄によってテンポの遅速の差が大きく,位(くらい)取リ()にも幅がある。直後には必ず謡事の次第を伴う。(2)能の謡事。7・5,7・5,7・4(または7・5)の3句(第2句は初句のくり返し)から成る韻文の短い楽曲。一定の旋律型をもち,リズムは地拍子の法則に合う。おもに導入歌として用いられ,文章も多くはその後の行動についての意図,感慨などを述べる。登場直後のほか〈クセ〉の前などに用いられる。次第のあとには必ず地謡が同文(第2句を省略して)を低音でくり返す(地取りという)が,このときはリズムは拍子に合わないことが多い。(3)狂言の囃子事で僧,山伏,鬼などの登場に用い,笛,小鼓,大鼓で奏演する。能の次第を簡略化したもので一声(いつせい)とほぼ同じ形態をもつが,全体にやや神妙に奏される。直後には必ず次第謡を伴う。(4)狂言の謡事。能の次第を模したもので,同形式の短い楽曲。導入歌として諸役の登場直後や,曲中のある一段の序歌として用いられる。〈地取り〉は第2句の下半句だけを謡う。
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普及版 字通 「次第」の読み・字形・画数・意味

【次第】しだい

順序。〔南史、梁元帝紀〕讀書左右に置き、番上直せしむ。~常に眠り熟して大鼾(たいかん)す。左右睡るり、讀むこと第を失ひ、或いは卷を偸(ぬす)み紙を度(わた)る(とばし読みする)ときは、必ずき覺め、(あらた)めて讀せしむ。

字通「次」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「次第」の意味・わかりやすい解説

次第
しだい

能楽用語。 (1) 能の小段名。7・5,7・5,7・4の3句から成り,第2句は第1句の繰返し。シテ,ワキなどの登場直後に多く用いられ,ことにワキに多い。また地謡のうたう地次第もあり,クリ・サシ・クセの初めにこれをおき,クセの最後の詞章を同文で結ぶのが完備した形式であるとされる。 (2) 登場直後に次第をうたう役に合せて演奏される囃子の名。大鼓,小鼓に笛が加わる。

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世界大百科事典(旧版)内の次第の言及

【出入事】より

… 出端事は種類が多いが,おもに大鼓(おおつづみ)・小鼓(こつづみ)で奏される大小物と,太鼓が加わる太鼓物,その他のものの三つに大きく分けられる。大小物には,老人を除く男女,貴賤,僧俗などさまざまな役に用いる最も使用例の多い〈次第(しだい)〉,《嵐山》《賀茂》《高砂》など脇能のワキ・ワキヅレがさっそうと登場する〈真ノ次第〉,おもに化身,幽霊,精などの役に用いる〈一声(いつせい)〉(〈次第〉と同様に使用例が多い),老人など脇能の前ジテ・ツレが荘重に登場する〈真ノ一声〉,《砧(きぬた)》《熊野(ゆや)》などでいつのまにかシテが登場していたという趣の〈アシライ出〉などがある。 太鼓物には,《海人(あま)》《殺生石》《野守(のもり)》など,神仏,鬼畜,精などの非人間的な役の登場に用いる〈出端〉,《鞍馬天狗》のように天狗や異相の神などが豪壮に登場する〈大(おお)ベシ〉,《猩々》《西王母》など天仙が風流的に登場する〈下リ端(さがりは)〉,《邯鄲》《鶴亀》など唐人の帝王の登場や着座に用いる〈真ノ来序〉などがある。…

※「次第」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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