(読み)ほしい

精選版 日本国語大辞典 「欲」の意味・読み・例文・類語

ほし・い【欲】

〘形口〙 ほし 〘形シク〙
自分のものにしたい。手に入れたい。所有したい。
万葉(8C後)一一・二三六二「山城久世若子が欲(ほし)といふわれあふさわに吾れを欲(ほし)といふ山城の久世」
② そうありたいと思うさま。望ましい。願わしい。
古事記(712)下・歌謡「あをによし 奈良を過ぎ 小楯 大和を過ぎ 我が 見が本斯(ホシ)国は 葛城高宮 我家(わぎへ)のあたり」
③ (「…てほしい」の形で用いて) 他に自分の望むことを求める気持を表わす。そうしてもらいたい。
浮世草子好色五人女(1686)一「生つきたる鼻を高ふしてほしひ」
ほし‐が・る
〘他ラ五(四)〙
ほし‐げ
〘形動〙
ほし‐さ
〘名〙

ほっ‐・する【欲】

〘他サ変〙 ほっ・す 〘他サ変〙 (「ほりす」の変化した語)
① ほしいと思う。得たいと思う。また、望む。願う。ほりす。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉五「吾輩目下の状態は只休養を欲するのみである」
② (補助用言として、用言の未然形を受けた「…むとほっす」などの形で) …しようとする。しようと思う。また、物事が起こりそうになる。
殿暦‐長治元年(1104)一〇月一〇日「日入程事了、欲退出向仰云、兄今還御候御共
※大唐西域記長寛元年点(1163)一「震怒して厳刑に置かむと欲(ホッ)す」
[語誌]②の用法は訓読文には「…マクホッス」「…ムコトヲホッス」「…ムトホッス」の形がある。このうち、「ムトホッス」は、「ムトス」と読まれていたものが、「マクホッス」「ムコトヲホッス」の影響をうけて「ムトホッス」となったとされる。

ほし‐・む【欲】

[1] 〘自マ四〙 欲しいと思う。欲しがる。
書紀(720)神功摂政前(北野本訓)「財(たから)を貪(むさぼ)りて多欲(ものホシム)して私(わたくし)を懐(いた)き内顧(うちにかへりみ)せば
[2] 〘他マ下二〙 欲しいと思わせる。欲しがらせる。
※書紀(720)斉明六年三月(北野本訓)「阿倍臣乃ち綵の帛(きぬ)兵と鉄(ねりかね)等を海の畔に積みて貪(ホシメ)(つの)ま令む」

ほ・る【欲】

〘他ラ四〙 願い望む。ほしがる。欲する。
※書紀(720)武烈即位前・歌謡「あが裒屡(ホル)玉の あはび白珠」
[語誌]形容詞「ほし(欲)」と同一語根。挙例の「書紀」は連体形であるが、「万葉集」では用例が連用形に限られ、状態性の名詞になったと考えられる。以後、動詞となるときは、下にサ変動詞を伴って「ほりす」の形をとるようになる。

ほっ‐・す【欲】

[1] 〘他サ変〙 ⇒ほっする(欲)
[2] 〘他サ四〙 ((一)が四段活用化したもの) =ほっする(欲)
※成簣堂本論語抄(1475頃)雍也第六「わがよくほっすことをばまづ他人にほっせさしめて」

ほり‐・す【欲】

〘他サ変〙 (動詞「ほる(欲)」の連用形にサ変動詞「す」の付いてできた語) 望む。願う。ほる。ほっする。
※書紀(720)雄略九年七月(前田本訓)「就(ちかつ)き視(み)て心に欲(ホリス)

し【欲】

〘形シク〙 ⇒ほしい(欲)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「欲」の意味・読み・例文・類語

よく【欲】[漢字項目]

[音]ヨク(呉)(漢) [訓]ほっする ほしい
学習漢字]6年
不足、不満を満たしたいと願う。ほしがる。「欲求欲情欲心欲念欲望
(「」と通用)ほしがる気持ち。「欲火欲界愛欲意欲禁欲五欲強欲ごうよく私欲嗜欲しょく情欲食欲性欲大欲貪欲どんよく肉欲物欲無欲利欲

よく【欲/×慾】

ほしがること。自分のものにしようと熱心に願い求めること。また、その気持ち。「―が深い」「仕事に―が出る」「独占―」「名誉―」
[類語]欲望欲求欲情欲念欲心欲気よくけ欲得利欲私欲我欲執着煩悩ぼんのう意欲色気野心野望向上心娑婆気

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「欲」の意味・わかりやすい解説


よく

中国では古代から政治や生き方の問題と関連して取り上げられた。ある程度抑制すべきだとする節欲説、極端に抑制すべきだとする禁欲説、自然におこさせないようにすべきだとする無欲説、放任して充足さすべきだとする縦欲(しょうよく)説、本来欲は寡少なものだとする宋(そうけい)の寡欲説などが戦国時代に唱えられた。実用主義で万事に倹約を尊ぶ墨家(ぼくか)は禁欲説を、無為自然を尊び人々が無知無欲であることを理想とする道家(どうか)は無欲説を、人間の感覚的欲を充足することを尊重する魏牟(ぎぼう)、它囂(だごう)らは縦欲説を主張した。節欲説は儒家の立場で、人に内在する道徳性を尊重する孟子(孟軻(もうか))が、欲を自主的に節制すべきだとする寡欲説を唱えたのに対して、外的規制の礼を重視する荀子(じゅんし)は、欲の多寡は問題ではなく礼によって外から上手に規制すればよいと考えた。宋(そう)代以後は自然的欲を天理として肯定するとともに、それを超えた過度の欲を人欲として抑制すべきだとする去欲存理説として節欲説は存続した。

[澤田多喜男]

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【情】より

…中国思想の用語。狭義には感情,情欲のことで,七情(喜,怒,哀,懼(おそれ),愛,悪(にくしみ),欲)として類型化されるが,広義には静かな〈性〉(本性)が動いた状態をすべて情と呼ぶ。したがって四端(惻隠(あわれむ),羞悪(はじる),辞譲(ゆずる),是非)や思慮なども情の範疇(はんちゆう)に入る。…

※「欲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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