デジタル大辞泉
「欺」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
あざむ・く【欺】
[1] 〘他カ五(四)〙
①
(イ) 相手にあれこれと誘いかけ自分の思うとおりにさせる。相手に本当のことだと思わせてだます。
※
万葉(8C後)五・九〇六「布施おきてわれは乞ひ祷
(の)む阿射無加
(アザムカ)ず直
(ただ)に率
(ゐ)ゆきて天路
(あまぢ)知らしめ」
※
源氏(1001‐14頃)蛍「女こそものうるさがらず、人にあざむかれむと生まれたるものなれ」
※書陵部本名義抄(1081頃)「紿 イツハル アザムク」
(ロ) (「期待・
推測などが人をあざむく」という翻訳調の表現で) 結果としてだます、の意。期待や推測のとおりにならないことを表わす。
※すみだ川(1909)〈永井荷風〉九「伯父さんはきっと自分を助けてくれるに違ひないと予期してゐたが、その希望は全く自分を欺(アザム)いた」
※雁(1911‐13)〈
森鴎外〉二四「果して僕の想像は僕を欺
(アザム)かなかった」
② 思うことをそのまま口に出してあれこれと言う。悪く言う。そしる。
※
書紀(720)天智六年三月(北野本訓)「是の時、天下の
百姓、都遷することを願はずして
諷諫(そへアザムク)者多し」
③ 相手を軽く見る。見くびる。ばかにする。
※
平家(13C前)一二「逆櫓
(さかろ)立てう立てじの論をして、大きにあざむかれたりしを、梶原遺恨におもひて」
※
太平記(14C後)八「六波羅勢は昨日の軍に敵の
勇鋭を見るに、小勢也といへども、欺
(アザム)き難しと思ければ」
④ (③の意から。「…を(も)あざむく」の形で) 比較する対象を見くだしてもよいほどである。その状態の度合が高いとされるものと比べても、それよりまさる、という意に用いる。…とまぎれるほどである。…に劣らない。…をしのぐ。
※御伽草子・猿の草子(室町末)「此姫君は世に隠れなき姿にて、李夫人、
楊貴妃、
褒姒(ほうじ)、西施をもあざむき」
※
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「常さへ艷やかな緑の黒髪は、
水気を含んで
天鵞絨(びろうど)をも欺むくばかり」
[2] 〘自カ四〙
※八代集抄本後拾遺(1086)序「月にあざけり風にあざむくことたえず」
② ばかにして笑う。あざ笑う。嘲笑する。
※太平記(14C後)
三一「『あはれ運強き足利殿や』と高らかに欺
(アザムイ)て、閑々
(しづしづ)と
本陣へぞ帰りける」
[
語誌]「地蔵十輪経元慶七年点‐二」などの
訓点資料や、「
新撰字鏡」「書陵部本名義抄」などの
辞書に、「いつはる」「へつらふ」といった訓と並び用いられているところから、
平安時代には、これらと似た
語感を持つものとして意識されていたと思われる。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報