歯痛(読み)ハイタ(英語表記)toothache

翻訳|toothache

デジタル大辞泉 「歯痛」の意味・読み・例文・類語

は‐いた【歯痛】

歯が痛むこと。歯の痛み。しつう。

し‐つう【歯痛】

歯や周辺組織の痛み。はいた。

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精選版 日本国語大辞典 「歯痛」の意味・読み・例文・類語

は‐いた【歯痛】

〘名〙 歯が痛むこと。また、その痛み。はいたみ。しつう。
石川五右衛門の生立(1920)〈上司小剣〉五「いいえ、何も落せしません。…其の歯痛の禁厭(まじなひ)だけだんがな」

し‐つう【歯痛】

〘名〙 歯の痛み。はいた。
※七新薬(1862)二「歯牙の潰乱に由て発する歯痛は、塩酸亜鉛の風化せる者を筆毛を以て塗上し」

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改訂新版 世界大百科事典 「歯痛」の意味・わかりやすい解説

歯痛 (しつう)
toothache

 通常は,歯と歯周組織の病変によって生じる痛みを指すが,口腔粘膜,顎骨,咀嚼(そしやく)筋,唾液腺,舌あるいはリンパ節の痛みと混同されたり,他の臓器の疾患によって歯に痛みを感じたり,逆に歯と歯周組織の疾患により他の臓器に痛みを生じることもある。歯痛はその原因により五つに分類されている。(1)原発性歯痛 歯および歯周組織に原因があって生じる痛み,(2)継発性歯痛 全身疾患の一症状として生じる歯の痛み,(3)反射性疼痛 歯および歯周組織には疾患はないが,中枢から歯にいたる神経の途中に疾患があるために歯に痛みを感じるもの,(4)放散性歯痛 目,耳など隣接する臓器の疾患により歯に痛みを感じるもの,(5)三叉(さんさ)神経痛 歯または歯周組織の疾患により,顔面に神経痛様の激しい痛みを生じるもの。(2)(3)および(4)の痛みは,実際にみられることは少なく,原因となっている疾患を治療すれば痛みはまったくなくなる。歯痛は(1)の歯および歯周組織の疾患が原因となっているものが多く,また(5)の三叉神経痛様の痛み,あるいは歯が原因となって手や足にまで痛みを起こす連関痛もある。

虫歯になったり,外傷によって歯の表面のエナメル質がなくなると,食事あるいは談話の際,冷たい水や空気にふれるなど,物理的および化学的刺激が象牙質を通して歯髄に加わり,しみる感じ,ないしごく短時間の痛みを生じる。外傷の程度が強い場合または虫歯がエナメル質から象牙質の深くまで進行すると,歯髄に炎症が起こり(歯髄炎)強い痛みを生じる。歯髄は周囲を硬い象牙質で取り囲まれており,炎症によって充血が起こってもはれることができない。そのため歯髄腔の内圧が高くなり,神経繊維が圧迫されて激しい痛みを生じる。したがって,痛みが強い場合,歯を削って歯髄腔に穴を開け,血液を排出させて歯髄腔の内圧を下げると,痛みはすぐに軽減される。歯髄腔の内圧が高いまま放置されると,歯髄は循環障害を生じ,まもなく壊死に陥る。したがって,激しい痛みがあっても,1日ないし2日くらい我慢すればその痛みが急になくなり,歯の病気が治ったような気がすることがある。しかし,これは歯髄が壊死に陥ったために歯髄の炎症による痛みがなくなっただけで,病変はさらに歯根の先の周囲組織,すなわち歯根膜歯槽骨へと広がっていることを示している。一時痛みは軽減していても,放置しておくと,歯周組織の炎症による激しい痛みと全身の重篤な症状を招くことがある。一方,激しい痛みを生じている歯髄の炎症でも,齲食(うしよく)でやわらかくなった象牙質に穴が開き,歯髄腔が口の中に開放されると,歯髄腔の内圧が急速に下がり,痛みもなくなる。すなわち,歯髄炎は慢性に移行し,飲食物により歯髄が直接刺激されないかぎり,ほとんど痛みを感じることがなくなる。

 歯髄に原因のある痛みは,痛んでいる場所を正確に指摘できないことが多い。実際には下顎の歯に齲食および歯髄炎があるにもかかわらず,上顎の歯,あるいは隣の歯に痛みを感じることがある。この現象は歯痛錯誤と呼ばれており,歯髄の中には触覚や圧覚に感じる神経の受容器がないためであろうといわれている。まちがって健康な歯を治療される原因となることがある。

 その他の歯髄の痛みとしては,転倒,打撲,衝突など,交通事故やスポーツのときの外傷によるものがある。急激に大きな外力が歯に加わり,歯が折れたり,歯髄に入る神経や血管が歯根の先の所で切れたりすることが多い。歯根膜や歯槽骨にも当然外傷を生じるので,歯に触れても物をかんでも痛みを生じ,歯髄の痛みと歯周組織の痛みとが合併している。顎骨骨折を生じていれば骨折部の整復固定が必要となるが,骨折がなければ,安静を保つだけで歯根膜や歯槽骨の外傷は徐々に治癒し,歯周組織の痛みはなくなる。しかし,歯髄の受ける傷害は大きく,多くの場合歯髄を摘出することが必要となる。歯髄の炎症は,歯(象牙質)を削ってレジンセメントなどの人工材料を充てんした後でも生じることがある。歯を削る物理的刺激,あるいは人工材料の化学的刺激によるもので,刺激の程度によって歯髄の炎症に差を生じ,歯髄の痛みの程度も違ってくる。

 象牙質が露出した場合のしみる感じや一過性の痛みに対しては,露出している象牙質表面を人工材料で覆ってしまうか,あるいは薬剤によって表面を処理し,口の中の刺激が歯髄に加わらないようにすればよい。痛みが強いか,長く続くような場合には,歯髄を摘出しなければならない。しかし,その治療法が不確実であると,根尖歯周組織に炎症を生じ,二次的な傷害を招くことになる。

歯の生え際から生じる辺縁性歯周炎(いわゆる歯槽膿漏)によるものと,歯根の先端付近に生じる根尖性歯周炎によるものとがある。辺縁性歯周炎は,ほとんどが慢性の経過をとり,痛みを生じることは少ないが,炎症が進み歯が著しく動揺するようになると,物がかみにくくなることはもちろん,歯肉の発赤,腫張,化膿などを伴うようになり,痛みを生じることがある。根尖性歯周炎は,前述のように歯髄の炎症あるいは歯髄炎の治療の後で生じることが多い。一般には慢性に経過し,物をかむときに異常感があったり,力が入らなかったりする程度であるが,全身疾患,疲労などで全身状態が悪くなったとき,固いものをガチンとかんで歯根の先に急激な外力が加わったとき,あるいはその歯の治療を始めたときなどに急性化して激しい痛みをみることがある。炎症が急性化し,歯根の先端付近で化膿が進んでいるときには,外にはれることはないが,初めは歯が浮いたような感じがし,まもなく非常に激しい痛みとなり,ちょっと歯に触れただけでも強い痛みを感じるようになる。しかし,膿が歯槽骨の弱い所を突き破って口腔粘膜の下に出てくると,急に歯肉や顔がはれてきて逆に痛みは減退する。辺縁性歯周炎で歯肉が化膿しているようであれば,抗生物質の全身投与,膿瘍の切開などを行うが,動揺している歯に無理な力が加わらないように歯の一部を削り取ることも必要である。急性症状が治まった後,その歯を抜かなければならないことが多い。根尖性歯周炎の痛みは激烈であり,まず抗生物質,鎮痛剤などを投与し,かみしめたときに歯が当たらないようにその歯の一部を削って安静状態を保ち,急性症状を抑える処置がとられる。この場合には,薬剤の効果が現れて初めて痛みが軽減してくる。一方,あまり振動を与えないように歯を削り,歯髄腔を開け,根管を通して歯根の先端部にたまっている膿を排出させると,強い痛みも即座に消退させることができる。急性症状が去り,痛みがなくなってから根管治療を施し,歯を保存してその機能を営ませることが多いが,歯槽骨の吸収が大きく歯の動揺が大きいときには抜歯しなければならないこともある。

特発性あるいは真性三叉神経痛と症候性三叉神経痛とに分けられる。顔面の特定領域に発作的に生じる電撃的な痛みで,前者はその原因が不明のものを,後者は脳底腫瘍,動脈瘤,副鼻腔疾患,虫歯,新陳代謝病,中毒などによるものをいい,ときにはヘルペスを伴うこともある。顔に冷気がかかったとき,談話,電話のとき,食事をしているときなどに急に激しい痛みの発作に襲われる。普段は顔に特別な変化はみられないが,痛みの出ているときには汗,涙,唾液などが多く分泌され,鼻汁も多くなる。真性の場合には,神経の切除あるいはアルコールブロック療法,および薬物療法などが行われるが,最近の研究では,歯髄疾患や歯周疾患によるものが多く,原因不明のものは比較的少ないとされている。

精神的ストレスや歯のかみ合せの異常によって顎関節付近に痛みを生じることがある。ときには痛みだけでなく,口が開きにくい,口の開閉運動のときに顎関節部に雑音がある等の症状の合併することもあり,顎関節症と呼ばれている。ストレスの解消,かみ合せの改善によって症状がなくなるが,歯髄疾患や歯周疾患によるものもあり,歯の治療を必要とすることもある。また,歯髄疾患や歯周疾患により,頭痛,肩こりなど頭部,顔面,頸部の痛みにとどまらず,胸,背中,手,足にまで痛みを生じることがある。
(あご) → →虫歯
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯痛」の意味・わかりやすい解説

歯痛
しつう

歯の中の歯髄と歯を保持している歯周組織の疾患が原因となっておこる痛みを総括して歯痛という。

 歯髄に由来する痛みとして、まず、う蝕(しょく)(むし歯)がある。むし歯を放置すると、歯の崩壊が徐々に進み、歯髄組織に炎症がおこって痛んだり、むし歯の欠損部に食物がかみ込まれて歯髄が刺激され、しみたり痛んだりする。また、むし歯によってエナメル質がなくなり象牙(ぞうげ)質が露出すると、象牙質を介してさまざまな刺激が歯髄に加えられ、歯髄の痛みが生じてくる。象牙質に加わる刺激としては、冷水あるいは温水等を口に入れたときの温度差、歯を削るときの刺激、チョコレートその他の甘いものによる刺激などがある。なお、歯肉が退縮して、歯根が露出した場合にも、同じような刺激によって痛みを生じることがある。歯髄に炎症(歯髄炎)が生じると、歯根の先端付近にある小孔からのみ循環を受けている歯髄は、充血→うっ血→血行停止という循環障害をおこしやすく、やがては歯髄壊死(えし)に至ることも多い。このような段階になると正常な状態に回復する可能性は非常に少なくなる。したがって、歯髄炎を生じた歯髄は摘出手術によって早く痛みを取り除き、かつ炎症が歯周組織に広がるのを防ぐ必要がある。

 歯周組織に由来する痛みは、歯髄炎に継発して生じる根尖(こんせん)性のものと、歯周病(歯槽膿漏(のうろう))による辺縁性のものとがある。その発現頻度、および痛みの強さは、いずれも後者よりも前者のほうが大きい。歯槽膿漏は、炎症面が口の中に開放された状態となっており、慢性に経過することが多いため、急性症状を呈し、強い痛みを生じることは少ない。

 歯髄に原因のある痛みは、口の中に冷水、温水、甘味料等を入れたときに発現または増強することが多いが、歯周組織に原因のある痛みは、口の中に入れる飲食物の温度変化、あるいは化学的な酸、甘味等で発現することはない。歯周組織による痛みは、歯に触れる、咬合(こうごう)力が加わる等の外力が働いたときに発現あるいは増強がみられる。したがって、歯髄による痛みと歯周組織による痛みとを鑑別することはむずかしいことではない。歯髄炎では歯髄を除去する抜髄法を、根尖性歯周炎では歯の中にある根管を清掃・消毒する根管治療法を、歯槽膿漏では歯のかみ合せの調整、動揺している歯の固定などというように、それぞれに対応した適切な処置を施せば、歯の痛みを消退させるのにさほどの時間はかからない。

[吉野英明]

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普及版 字通 「歯痛」の読み・字形・画数・意味

【歯痛】しつう

歯いた。

字通「歯」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の歯痛の言及

【歯】より

…一方,新約聖書のイエスは〈山上の垂訓〉の中でこの考えを退け,右のほおを打たれたら左のほおも向けるよう説いた(《マタイによる福音書》5:39)。馬の心臓の中にある大きな犬歯のような骨で虫歯をこすれば歯痛は治ると大プリニウスはいう(《博物誌》第28巻)。彼はまた,痛む歯と同じ位置にある歯を死んだ馬から取ってこすっても治ると述べているが,日本にもまぐさおけに抜け落ちた馬の歯を拾って,かみしめれば歯痛が治るとする俗信がある。…

【歯】より

…一方,新約聖書のイエスは〈山上の垂訓〉の中でこの考えを退け,右のほおを打たれたら左のほおも向けるよう説いた(《マタイによる福音書》5:39)。馬の心臓の中にある大きな犬歯のような骨で虫歯をこすれば歯痛は治ると大プリニウスはいう(《博物誌》第28巻)。彼はまた,痛む歯と同じ位置にある歯を死んだ馬から取ってこすっても治ると述べているが,日本にもまぐさおけに抜け落ちた馬の歯を拾って,かみしめれば歯痛が治るとする俗信がある。…

※「歯痛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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