歴史地図(読み)れきしちず

改訂新版 世界大百科事典 「歴史地図」の意味・わかりやすい解説

歴史地図 (れきしちず)

過去の一時期,またはいくつかの時期における地名や地表景観を描示した地図。歴史を知るためにわざわざ作られる地図であって,いわゆる古地図のことではない。限定された一時期の状況を示す〈断代図〉,複数の時期の状況をまとめて示す〈通史図〉に分かれる。前者はしばしば図帳形式をとり,後者は多く現勢図と一体になる。古くから歴史地図の作成が盛んであった中国における作品に例をとると,宋の税安礼の《歴代地理指掌図》(1100ころ)は,収載図の大部分を〈断代図〉とする図帳であり,西安碑林の《禹跡図(うせきず)》(1136)は,〈古今州郡名・古今山水地名〉を記載する現勢図兼通史図である。歴史地図の表現形式には,現勢地図の図形を利用してそれに古地名を記入する〈地名考証型〉,対象とする時期の景観すらも復原する〈地勢復原型〉がある。都市を対象とする歴史地図においては,当時の街区,土木施設,建造物などの配置を示す必要から,そのほとんどが〈地物復原型〉と呼ぶべきものになっている。西洋における現存最古の歴史地図は13世紀のマシュー・パリスMatthew Paris作のブリタニアのローマ道路図,七頭政治王国図,本格的な歴史地図集の最初は1579年刊のオルテリウスA.Orteliusの地図帳《世界の舞台》の付録とされている。日本では木全雄香(きまたゆうこう)の《大八洲巡国図》(1746)が,現存国史地図帳の最古であり,1790年刊の長久保赤水の《唐土歴代州郡沿革地図》は,山河境域に彩色を施している点が注目される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歴史地図」の意味・わかりやすい解説

歴史地図
れきしちず
historical map

歴史時代の地理的事象を表わした地図。過去のそれぞれの時代の景観や状態を復元したもので,古地図との違いはその時代に作成したものでなく,後世になって資料文献から復元図化したものであること。一般に領有地などの支配状態を示したもの,古地名,古都,古集落を示したもの,街道名や交通ルートを示したもの,征服者の進攻ルートや合戦の対置関係などを示したものなどが多い。

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