死せる魂(読み)シセルタマシイ(英語表記)Мёртвые души/Myortvïe dushi

デジタル大辞泉 「死せる魂」の意味・読み・例文・類語

しせるたましい〔シせるたましひ〕【死せる魂】

《原題、〈ロシアMyortvïe dushiゴーゴリ長編小説。1842年刊。詐欺師チチコフと地主や地方官僚との交渉を通し、ロシア社会の醜悪面を痛烈に描く。

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精選版 日本国語大辞典 「死せる魂」の意味・読み・例文・類語

しせるたましい シせるたましひ【死せる魂】

(原題Mjortvyje duši) 長編小説。ゴーゴリ作。一八四二年発表。一攫千金を夢見て、道徳的人間の魂を失い詐欺師となったチチコフの人間性回復への道程を描く。ダンテの「神曲」の形式にならい、腐敗したロシア農奴制への批判を表わす。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「死せる魂」の意味・わかりやすい解説

死せる魂
しせるたましい
Мёртвые души/Myortvïe dushi

ロシアの作家ゴーゴリの長編小説。作者の代表作であり、19世紀ロシア小説の傑作の一つでもある。三部作になる予定であったが、完全な形で残っているのは第1部(1842刊)のみ。一種ピカレスク小説で、死んだ農奴(当時「魂」とよばれていた)を安値で買い集め、生きた者として登記し、これを抵当に国庫から金を借りて外国へ高飛びしようという目的で、ほうぼうの地主を歴訪するチチコフという山師の遍歴全編の骨子になっている。この簡単な筋は、典型的な性格を造型するためのいわば枠組みにすぎず、この小説の不滅の価値は、主人公をはじめとするさまざまなタイプの地主や地方官僚たちのグロテスクでしかもきわめてリアルな人物形象のみごとさにある。これらの形象を通じて作者は、当時のロシア社会の病弊を余すところなく摘発すると同時に、人生そのものに必然的に付きまとう卑俗さを描き出そうとしたのである。

 作者は第1部刊後、主人公の悔悟更生を描くはずの第2部の執筆にとりかかったが、第1部の末尾にもすでにその徴候のほのみえる、ロシアの「霊的」指導者たらんとする一種の使命観に災いされて成功せず、二度にわたり草稿を破棄(1845、52)したため、不完全な未定稿の断片(1853死後刊)が残るのみである。

[木村彰一]

『平井肇・横田瑞穂訳『死せる魂』(岩波文庫)』『木村彰一訳「死せる魂」(『世界の文学11』所収・1965・中央公論社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「死せる魂」の意味・わかりやすい解説

死せる魂 (しせるたましい)
Myortvye dushi

ロシアの作家ゴーゴリの長編小説。完成(1841)までに7年が費やされた。第2部も書かれたが未完に終わった。当時のロシアでは死んだ農奴も次の戸籍調査(10年ごとに実施)までは有価物件として課税の対象とされたため,山師チチコフが地主たちから二束三文で死んだ農奴を買い集め,それを抵当に銀行から多額の金を借りて大儲けをたくらむ話である。しかし,作品のおもしろさは筋にあるのではなく,チチコフや地主たちひとりひとりの描写にある。無類の空想好き,大ぼら吹きの性格破産者,粗野な大食漢,恐るべき守銭奴,愚鈍ながらも金には抜け目ない女地主といった〈死んだ魂〉の持主たちの肖像が,作者一流の拡大した細部を積み重ねる手法によってみごとに活写されており,ロシア・リアリズムを代表する作品となっている。ロシア語のdushi(魂)は〈農奴〉の意味でも用いられ,標題は《死せる農奴》とも解される。日本への紹介は森田草平の英訳からの重訳(1917)が早いが,原典からの訳は意外に遅く,上田進のもの(1934)が最初である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「死せる魂」の意味・わかりやすい解説

死せる魂
しせるたましい
Mërtvye dushi

ロシアの作家 N.ゴーゴリの長編小説。 1842年第1部発表,第2部は未完。「死せる農奴」を買い集め大地主になろうとする詐欺師チチコフが主人公。彼が死んだ農奴を買う目的で訪れた,何に対しても関心をもてない男マニーロフ,乱暴者で賭博狂のノズドリョフ,少し頭の足りない女地主コロボチカ,意外に口達者で死んだ農奴を一番高く売りつけるサバケービッチら地主たちとチチコフの関係を通して,ロシア社会の現実をグロテスクに描いた傑作。副題「チチコフの遍歴」。

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百科事典マイペディア 「死せる魂」の意味・わかりやすい解説

死せる魂【しせるたましい】

ゴーゴリの小説。1842年第1部刊。原題《Myortvye dushi》には〈死せる農奴〉の意味もある。戸籍面から消えていない死亡農奴を買い集めて大もうけをはかる詐欺師チチコフの遍歴をたどりながら,吝嗇(りんしょく)漢プリューシキン,粗暴なソバケービッチ,夢想家マニーロフなど,道徳的に退廃した奇矯なロシア地主のさまざまなタイプを描き分け,ロシアの運命を象徴させた作品。

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デジタル大辞泉プラス 「死せる魂」の解説

死せる魂

英国スコットランドの作家イアン・ランキンの警察小説(1999)。原題《Dead Souls》。「リーバス警部」シリーズ。

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世界大百科事典(旧版)内の死せる魂の言及

【ゴーゴリ】より

…しかし,官僚社会の悪を徹底的に暴いた戯曲《検察官》(1836初演)が賛否の激しい論争を巻き起こしたため,ゴーゴリは外国旅行に出た。以後1836年から48年に至る12年間を外国,とくにローマで過ごし,1835年から執筆を始めていた生涯の大作《死せる魂》第1部(1841)の完成に没頭するとともに,小説《ローマ》(1841),エッセー《芝居のはね》(1842),戯曲《結婚》(1842),前記の《外套》などを書いた。ところが,悪のいっさいを描いた《死せる魂》の完成ころから,〈悪〉のみを描く自己の存在に疑念を抱くようになり,自分の魂を浄化しなければならぬという考えにとりつかれて宗教的・神秘的世界にのめりこんでいき,ロシアの専制政府を擁護するエッセー《友人との往復書簡選》(1847)を刊行,一方で悪人の更生を目指した《死せる魂》第2部を書いたものの成功せず,原稿を焼却した後に錯乱状態で断食に入り,そのまま10日後に没した。…

※「死せる魂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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