母語(読み)ぼご

精選版 日本国語大辞典 「母語」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐ご【母語】

〘名〙
① (mother tongue の訳語) 幼児期最初習得される言語。第一言語。
ルクレチウスと科学(1929)〈寺田寅彦〉一「此の希臘人の発見した真理の教を伝へんとするに当って、自分の母語ラテンが余りに貧しいものであるとこぼして」
② (langue mère Ursprache の訳語) 同じ系統に属する諸言語の源である言語。例えば、フランス語、スペイン語、イタリア語などの母語はラテン語である。祖語

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デジタル大辞泉 「母語」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐ご【母語】

mother tongue の訳語》人が生まれて最初に習い覚えた言語。
同じ系統に属する諸言語が共通の源とする言語。フランス語・イタリア語などに対するラテン語の類。祖語。
[類語]母国語邦語国語

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改訂新版 世界大百科事典 「母語」の意味・わかりやすい解説

母語 (ぼご)

ある個人もしくは集団人生の最初に習得した言語のこと。しかし,その〈言語〉をどう解するかによって,広い意味での母語と狭い意味での母語を概念的に区別することが可能である。

 広い意味での母語とは,たとえば日本人にとっての日本語のようなもので,ある個人が最初に習得した方言をその後なんらかの理由で捨て去るか変質させても,現在話しているものが日本語のいずれかの方言(もしくは,それに近いもの)である限り,彼にとって日本語が母語であるということができる。狭い意味では,最初に習得した方言が母語であり,その後それを捨て去ったり変質させてしまったりすると,母語を(完全に,あるいは部分的に)喪失したというべき状態になる。通常は,広い意味で用いられることが多いが,言語を等質的な記号体系と考える立場からすると,狭い意味で母語をうんぬんするほうがより適当ということになる。なお,上述の〈習得〉とは,十分に習得するということであり,幼年期にある言語(方言)を少し話せるようになってもほとんど忘れてしまい,別の言語を十分に使いこなせるようになったなら,後者のほうを母語と呼ぶべきである。母語は,その話し手たちの意識論理のあり方にある程度の影響を与えると考えられている。

 以上は,話し手の側から見た母語の位置づけであるが,言語の側から見て,それを母語とする集団が存在するか否かという観点も非常に重要である。圧倒的多数の言語は,それを母語とする集団を有するが,その言語がたとえば交易上の共通語として形成されたような場合,その話し手の誰にとってもそれは母語でないということがありうる。そのような言語は,その性格上,人間生活のあらゆる面で,意思伝達の手段として十分に機能するということを必要としないので,言語としてもかなり不完全なものである。しかし,もともと交易上の共通語として出発しても,それを母語とする集団が形成されると,そうした集団はその言語によって日常生活のあらゆる面で意思交換を行わなければならないため,言語自体もその機能を十分果たしうるものに発達させられる。たとえば,東アフリカのスワヒリ語は,初めは交易上の共通語として形成されたが,その後海岸地方その他にそれを母語とする集団が生まれ,それに伴って日常生活の全面にわたって他の言語(部族語)と同等の表現能力を有するものとなり,かつ,少なくともそうした地域においては,人間生活への密着度も部族語と同等のものとなっている。
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百科事典マイペディア 「母語」の意味・わかりやすい解説

母語【ぼご】

一般に個人が最初に習得する言葉。子どもが成長の過程で母親など身近な人々から習得する言葉は,本人にとって最も自由な表現の手段であり,思考や人格と結びついた,代替の不可能な言語という理由で,言語心理学や言語教育などでは重視されている。また近代以降,民族語が民族にとっての母語として象徴的役割を担わされたため,思想史や政治においても重要な概念であった。単なる母国の言葉である母国語とは本来別のものである。
→関連項目言語相対論識字率

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「母語」の意味・わかりやすい解説

母語
ぼご
mother tongue; native language

ある人が幼児期に周囲の人が話すのを聞いて自然に習い覚えた最初の言語。日本人が日本語を母語とする場合などは母語と母国語が一致するが,日本語を母語としながら日本国籍を持たない場合や,政治的・地理的独立国家を持たないイディッシュ語やバスク語を母語とする人々の場合のように母語が母国語と一致しないことも少なくない。特に,多民族・多言語国家では母語のほかに第2,第3の言語を習得し,二 (多) 言語使用者となる人が多い。また,戦争中に中国に残された孤児のように,幼児期に獲得した母語 (日本語) を喪失し,別の言語 (中国語) が第一言語となることもある。

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