民主党(アメリカ合衆国)(読み)みんしゅとう(英語表記)Democratic Party

翻訳|Democratic Party

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

民主党(アメリカ合衆国)
みんしゅとう
Democratic Party

共和党とともにアメリカ合衆国の二大政党の一つ。アメリカでの最初の主要政党であり、建国時の第3代大統領のT・ジェファソンらが中心となり1792年に設立した「民主共和党Democratic-Republican Party」に起源をもつとされるが、公的には1828年の大統領選挙に勝利し、第7代大統領に就任したA・ジャクソン初代民主党のリーダーとされている。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

歴史

当初の民主党は、コモン・マン(普通の人々)を代弁したジャクソンに象徴されるように、アメリカ東部の貴族的な社会に対するアンチテーゼといえる存在であった。これに奴隷を所有する南部のプランター(プランテーション経営者)たちが加わり、南北戦争直前には民主党は南部を中心に勢力を広げていた。

 黒人奴隷制をめぐる国内対立が激しくなるにつれて、民主党は南部を基盤とするため、当然、当時は奴隷制維持を強く主張する政党となる。「決定的選挙」であるとされる1860年の大統領選挙で惜敗し、奴隷制反対の新政党である共和党候補のリンカーンが大統領となった。リンカーンの勝利から南北戦争につながっていくのは必然となる。この戦争での敗北から、民主党は20世紀初めまで共和党優位の時代を許すことになった。1860年から1932年までの間、民主党の大統領は、共和党内に対立があったときに勝利したG・クリーブランド、W・ウィルソンの2人だけだった。

 民主党では、資本家の政党へと変貌(へんぼう)していった共和党が救えない層に手を伸ばそうとする模索も続いた。1896年の大統領選挙でW・J・ブライアンは大規模な産業発展のなかで取り残された農民の救済を訴えた。結局、敗れはしたものの、都市労働者や黒人を中心とする人種マイノリティ、さらには農民など、格差にあえぐ人々を救済する動きは、1930年代に結実していく。大恐慌を乗り越えるために国家資本主義的な政策であるニューディール政策を前面に押し出し、1932年の大統領選挙ではフランクリンルーズベルトが圧倒的な得票で勝利する。当時は2期までという大統領の任期制限がなかったため、ルーズベルトは1944年には4度目の大統領選でも勝利する。都市労働者や人種マイノリティ、農民の支持勢力は「ニューディール連合(ルーズベルト連合)」とよばれ、その後、長期にわたる民主党優位の時代の基盤をつくった。たとえば下院なら4年間を除き、ルーズベルトが勝利した1932年選挙から1994年中間選挙まで、60年ほどの間、多数派を維持した。しかし、ニューディール連合は、南部の保守化の動きなどもあり、しだいに崩壊していった。

 その後は共和党が盛り返し、1995年1月から2021年1月までの26年の間で、下院で共和党が多数派となったのが20年、民主党は6年と攻守が逆転している。上院でもこの間、民主党が多数派だったのは、8年強である。ただ、同じ26年の間で大統領職は民主党(クリントンオバマ)が14年、共和党(G・W・ブッシュ、トランプ)が12年と民主党政権の時代のほうが長く、完全に共和党有利とはいいきれない。さらに、2020年の選挙の結果を受けた2021年1月からは、下院、上院のいずれも民主党が多数派を占めている。さらに大統領職(バイデン)も4年間は民主党となる。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

共和党との対比

2021年の状況で、民主党と共和党は拮抗(きっこう)状態で対立しているとみるほうが正しいだろう。それと同時に1980年代初期くらいまでは政策的にかなり重なる部分があった民主党と共和党は、政治的に乖離(かいり)していく。南北戦争以前からの地盤を維持してきた南部の保守的な民主党議員の「サザン・デモクラットSouthern Democrats」が引退するか、共和党候補がその議席を奪っていくなか、民主党から保守層が減り、所属議員にしろ、支持者にしろ、民主党全体の政治的な立ち位置はいわゆるリベラル層と重なっていく。逆に保守層は熱烈な共和党支持に収斂(しゅうれん)していく。その結果、国民世論が保守とリベラルという二つのイデオロギーで大きく分かれていく政治的分極化political polarizationが顕在化している。

 民主党のコアの支持層であるリベラル派は、「平等主義」を志向する。国民の平等や自由を政府のリーダーシップで達成することを望み、政府規制の強化や所得再分配を重視し、貧困や社会福祉などの社会的問題に対しては政府のなんらかの政策で解決しようとすることに賛同する。環境問題では政府による規制を強化することで公害の除去・防止や環境保全を進めようとする考えを支持している。さらにリベラル派の多くはキリスト教的な伝統にとらわれない価値観をもっている。同性婚を許容し、妊娠中絶を女性の当然の権利として支持している。

 「ニューディール連合」から続く人種マイノリティ、都市居住者に加え、現在は同性愛者、政府関係者、教員にリベラル層が集中している。さらには富裕層の一部にもリベラル的な価値観が浸透している。また、国民の大多数の白人や穏健派のキリスト教徒のなかでは民主党支持者もいまだ数的には多い。「ニューディール連合」時代から労働組合との関係も強いため、白人ブルーカラー層の一部も強い民主党支持である。

 各州の人口動態の傾向から、民主党候補への投票が過半数を上回る州(青い州blue states)と共和党候補への投票が過半数を上回る州(赤い州red states)が事前に予測でき、カリフォルニア州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、ハワイ州が代表的な青い州である。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

民主党の今後

近年アメリカではラテン系移民やアジア系移民の増加が著しい。新しい移民の場合、当面は低賃金労働を担う可能性が高いため、所得再分配的な政策を選ぶ傾向が強い。そのため、所得再分配的な政策を支持するリベラル層の一部になり、積極的な民主党の支持層が増えているという見方がある。これを反映して移民労働者の待遇改善(最低賃金引上げ)や移民2世の選択肢拡大(公立大学の無償化)など、近年、民主党側が打ち出す政策も移民層を強く意識している。また、いうまでもなく、この政策は移民だけでなく、低所得者の全体を救う所得再分配的な政策でもある。2016年、2020年と2回の大統領選挙で民主党の指名候補争いで健闘したサンダースBernard (Bernie) Sanders(1941― )の場合は、「民主社会主義者」と自称してきた無党派議員だが、一連の所得再分配的な政策を強く訴え、「民主党の左派の顔」になっている。

 ただ、過去のアメリカの歴史をみると、有権者の多くは共和・民主の二つの選択肢の間でつねに揺れており、移民も第2、第3世代になると共和党支持に変わっていく可能性もある。共和党側も時代に追いつくために、トランプ政権時代とは異なり、移民に寛容な政策を打ち出してくるかもしれない。民主党優位な状況になるのかどうかはっきりするまでには、まだ、時間がかかるだろう。

[前嶋和弘 2021年9月17日]

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