気候示数(読み)きこうしすう(英語表記)climatic index

改訂新版 世界大百科事典 「気候示数」の意味・わかりやすい解説

気候示数 (きこうしすう)
climatic index

気候特性をいくつかの気候要素の多変量関数として表した示数。気候は日射気温湿度降水量蒸発散量風向風速などの気候要素から成っていると考えると,それらの気候値の組合せによって気候を表現することができる。その組合せ方の一つとして考案されたのが,いくつかの気候要素の関数として気候を表現する方法で,土壌学者R.ラングが考えた雨量因子がその最初である。

ラングの雨量因子ともいう。年降水量をPmm)とし,0℃以上の月平均気温のみを年間合計して12で割った平均気温をTとすれば雨量因子RRP/Tで与えられる。土壌型や自然景観は気候の寒暖乾湿の影響を強く受けるので,縦軸に気温,横軸に降水量をとった座標上に世界各地の土壌型を位置づけると,その配列のしかたから両者の比が土壌型と対応していることがわかる。雨量因子と土壌型との関係は,R=0~40では塩類土,R=40~60ではラテライト,赤色土,黄色土,R=60~100では褐色土,R=100~160では黒色土,R=160以上ではポドゾルである。マルトンヌの乾燥示数はこれを改良したものである。

マルトンヌの乾燥示数Iは,年降水量をP,月平均気温を0℃以上の月について合計しそれを12で割った値をTとしたとき,IP/(T+10)で表したものである。自然景観や土地利用とよく対応し,I=5以下が砂漠I=5~10がステップ,I=10以上では乾燥農業が可能であるが,I=20までは人工灌漑が必要である。I=30で樹木が現れ,I=40になると森林が繁茂する。なお気候の乾湿の度合を表現する乾燥示数は他にもいろいろ考えられている。

ある一定値以上の気温を合計した積算温度も一種の気候示数である。植物の生育が活発になる月平均気温5℃を基準として,吉良竜夫はそれ以上のnヵ月について年間合計した値を温量示数と定義した。植生分布との対応がよく,W=180以上が熱帯林および亜熱帯林,W=85~180が暖温帯広葉樹林(冬雨気候では硬葉樹林,夏雨気候では照葉樹林),W=45~85が冷温帯落葉広葉樹林,W=15~45が亜寒帯針葉樹林,W=15以下がツンドラになる。なお植生分布に対応する示数としてKP/(W+20)(W<100の場合),K=2P/(W+140)(W>100の場合)を乾湿示数と名付けている(P(mm)は年降水量)。

月降水量P(インチ)を月蒸発量E(インチ)で割った比(P-E比)を12ヵ月合計してこれを10倍したものを降水効率またはP-E示数といい,C.W.ソーンスウェートが気候分類(旧分類)のために考案したもの。蒸発によって失う水分を考慮した降水の効率を意味する。蒸発量の観測地点数が少ないので,各月のP-E比は気温T(°F)の関数としてで求める(摂氏温度)の場合は,P/E=0.164

P-E示数(降水効率)は,植生分布と対応し,P-E示数=128以上が多雨林,P-E示数=64~127が森林,P-E示数=32~63が草地,P-E示数=16~31がステップ,P-E示数=15以下が砂漠に対応している。なお,A.マイヤーは降水量と蒸発の主要因子である飽差との比をとっている。

水収支の観点からすると,気候の乾湿を示すには降水量と,十分に水を供給したときに地表から蒸発散する最大可能量(蒸発散位,最大可能蒸発散量)との差である水過剰量,水不足量を求めることがより合理的である。つまり降水量が蒸発散位より多ければ水過剰,その逆の場合には水不足となる。ソーンスウェートは地中に100mmの水が貯蔵可能で過不足の調節ができるものとして,水過剰量あるいは水不足量を各月について求めた。こうして求めた水収支から湿潤係数Ih,乾燥係数Id,湿潤示数Imを次のように定義した。水過剰量と水不足量の年間合計値をsおよびdとし蒸発散位の年合計値をnとすると,

で示される。sdには現実的な配慮から比重がつけられている。

 なお蒸発散位は次のように気温の関数として求める。月平均気温をtとして,i=(t/51514を1月から12月まで合計した値をIとおくと,各月の蒸発散位は,e=1.6(10t/Iaである。ただし,a=6750I3×10⁻10-7710I2×10⁻8+17920I×10⁻6+0.49239。図計算で簡単に求めることもできる。

温度効率はソーンスウェートが気候分類(旧分類)のために考案した一種の積算温度のことで,T-E示数で表す。T-E示数は,各月の平均気温をT(°F)としたとき(T-32)/4(摂氏温度tの場合は9t/20)の値を,負値の月の場合は0として年間合計して求める。植生に対する熱的条件を意味し,T-E示数=128以上が熱帯,T-E示数=127~64が温帯,T-E示数=63~32が冷帯,T-E示数=31~16がタイガ,T-E示数=15~1がツンドラ,T-E示数=0が永久凍土地帯に対応する。

 M.I.ブディコは,年間放射収支量(R0kcal/cm2)と年降水量を蒸発させるのに必要な熱量との比を気候示数として重視している。これは気候の乾湿を意味し,世界の植生帯はこれと放射収支量とを両軸とする直交座標上にかなり整然と配列する。

 以上のように,気候示数を求める式は,理論的というよりは植生分布などの自然景観に対応するように求められた実験式という性格が強い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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