水屋(読み)みずや

精選版 日本国語大辞典 「水屋」の意味・読み・例文・類語

みず‐や みづ‥【水屋】

〘名〙
① 社寺で、参詣人が手や口をすすぎ清めるための水をそなえてある所。
※車屋本謡曲・春日龍神(1465頃)「すめる水屋の御影まで塵にまじはる神慮」
茶の湯で、茶室に付属し、茶事の用意をととのえる場所。茶器を備えておき、使用後に洗浄したりする。炉、棚、物入、簀子流しなどを備えてある。置水屋という移動式のものもある。水やり。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)六「をし入・水や・くさりの間、勝手よくこしらへ、知音がたに茶の湯をいだす」
③ 食器類を入れておく箪笥様の戸棚。茶箪笥
※青い月曜日(1965‐67)〈開高健〉一「ひからびた骨のようになった皿、茶碗、水屋、お釜などにとりかこまれて」
④ 水を扱うところ。台所。
※随筆・西遊記(1795)三「薩州鹿児島城下に麝香鼠といふものあり。多く水屋のもと、床の下などに住て」
飲料水を運んで売り歩くのを業とする者。
※俳諧・文化句帖‐二年(1805)一二月「初雪や淀の水屋も来る時分」
⑥ 夏、冷水に白玉と砂糖を入れて売る者。水売り
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「ヲイ水屋、雪女でも氷坐頭でも入て四文がくだっし」
⑦ よく洪水の害をうける低地の農村で、避難用に建てる高い土盛りをした家。

みんじゃ【水屋】

〘名〙 (「みずや(水屋)」の変化した語) 台所の流しもと。また、水使い場。炊事場。台所。はしり。津軽から山陰までの日本海沿岸でいう。

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デジタル大辞泉 「水屋」の意味・読み・例文・類語

みず‐や〔みづ‐〕【水屋】

社寺で、参詣人が口をすすぎ手を洗い清める所。みたらし。
茶の湯で、茶室の隅に設け、茶事の用意をととのえたり、使用後に茶器を洗ったりする所。水遣みずやり。
水を扱う所。台所。
茶器・食器類を入れておく、たんすのような形の戸棚。茶だんす。
飲み水を売り歩く人。また、夏、砂糖を入れた冷水を売る人。水売り。
洪水などの際に使用される避難用家屋。
[類語]釣り棚飾り棚神棚網棚違い棚陳列棚藤棚ショーケース

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改訂新版 世界大百科事典 「水屋」の意味・わかりやすい解説

水屋 (みずや)

広義には,台所など水を使う場所をいうが,いくつかの意味がある。

(1)茶室に付属する控え室で,茶事の用意を整える亭主側の準備のための場所と施設。室町時代には茶の湯棚が用いられており,そこに必要な道具があらかじめすべて配列されていたから,特に支度をするための場所や設備は必要とされなかった。《草人木》に〈古風にハ仕掛(しかけ)棚とて数寄屋の勝手にをし入をして,それに其日入道具組合置也〉とあり,茶室の勝手の押入れに仕掛棚というものを設けて,当日必要な道具を置くということが行われていたことが記されている。この仕方はやがてすたれたとも記されており,仕掛棚の構成も伝わらないが,勝手からいちいち道具を運び付けて点茶をする運びの茶の形式が行われるようになり,茶室の外に設ける勝手の施設が重要になってきた事情を示している。初期の遺構がないので水屋の発達過程はよくわからないが,《茶道筌蹄》に〈水遣むかしはなし,縁側などにて仕舞し也,不審庵は水遣の始りなり〉とあるように,縁先に流しを設け,器物を並べる棚を置いていたようである。しかし利休屋敷では,釣棚で,棚板には框(かまち)の付いた,現在の水屋棚に近い構成を示していた。江戸時代初期に勝手・水屋の機能が整えられ,一定の形式をもつようになったと考えられる。勝手・水屋のあり方は茶室の構成によってさまざまに工夫されるが,流し,水屋棚のほかに,物入,炭入,丸炉,大炉,長炉などを備えるのを通型とする。水屋棚は間口3尺から4尺5寸,奥行きは2尺ほどを標準とし,通し棚と二重の釣棚をしつらえる。上段の通し棚は杉板の一枚張りで前後に框を付け,下段は寒竹を挟んで杉板を張った簀の子(すのこ)棚とし,流しの三方の壁に腰板を張り,茶筅,茶巾などを掛ける竹釘を打つ。水屋棚の構成は水屋飾と結び付いて定式化されており,流儀の約束による多少の相違はあるが,大きな変化はない。

(2)食器や食品などを入れる戸棚(膳棚ともいう)。間口は3尺くらいから大きいものでは1間,1間半もあり,引違い戸,抽斗(ひきだし),慳貪(けんどん)などがついている。

(3)社寺の前にあって参詣人が手や口をすすぎ清めるための手水(ちようず)鉢を備えた吹放ちの建物。水屋形,手水屋形,水盤舎ともいう。なお飲料水や氷水を売り歩く水売も水屋といった。
執筆者:

水屋 (みずや)

濃尾平野の南西部の木曾三川流域の輪中(わじゆう)地域に分布する特殊な倉。この地域はかつては洪水常襲地域であったので,その対応として人々は,屋敷内に主屋から離れた場所に高く土盛石積みされた倉庫をもった。米,味噌や重要な什器類を収納するとともに,洪水時の避難場所も兼ね,なかには座敷をもつものもある。しかしこれをもつものは地主階級に限られていた。類似のものとして利根川中流の水塚(みつか),淀川の段倉(だんぐら)がある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水屋」の意味・わかりやすい解説

水屋
みずや

茶事の準備を整える場所で、茶室には欠くことのできない施設である。勝手、勝手水屋とも称され、台所または料理所が付属することもある。『茶道筌蹄(ちゃどうせんてい)』(1816)に「水遣むかしはなし、縁側などにて仕舞し也(なり)」とみえるが、山上宗二(やまのうえそうじ)の伝えた紹鴎(じょうおう)四畳半の図には、四畳半の端に竹の簀子縁(すのこえん)があり、その一隅に「水ツカウハシリ」と記入されていた。このように「ハシリ」(流し)だけで、器物は適宜棚を置いて並べるというのが初期の水屋の姿であったと考えられる。

 江戸時代初期の曼殊(まんしゅ)院茶室(八窓軒(はっそうけん))の水屋は、流しのほかに押入れがあるだけで初期の簡素な形式を伝えている。やがて流しの上に棚を造り付け水屋棚が形成される。水屋棚を備えた勝手の古い実例は後水尾(ごみずのお)院の好みと伝える燈心(とうしん)亭のそれで、間口(まぐち)1間(けん)の仮置棚と竹の簀子縁が付加されている。利休聚楽(じゅらく)屋敷の茶室でも造り付けの水屋棚が設けられていた。利休流の水屋の古い実例としては1742年(寛保2)造立の蓑庵(さあん)をあげることができる。

 水屋棚の基本型は、間口3尺(約91センチメートル)~4尺5寸、奥行2尺程度、下は簀子流しで、その周りは板張りとし茶巾(ちゃきん)、茶筅(ちゃせん)などをかける竹釘(くぎ)を打つ。流しの上方に二重棚を造り付け、下段は竹を挟んだ簀子棚とする。上棚の上方の一隅にさらに二重棚を吊(つ)る。柱には手拭(てぬぐい)掛けの竹釘を打つ。流しは銅板張りで排水口に連結し、白竹の簀子を置く。水屋棚の左右いずれかに物入れを設けるか、あるいは天袋をつくる。竹釘の打ち方など流儀の約束がある。勝手の設備とはいえ、水屋飾りは実に整然とした構成美を形づくっている。水屋の呼称は単に水屋棚をさしても使われている。勝手には水屋棚のほか丸炉や長炉、押入れなども設けられる。利休は「一畳半ノ勝手ハ六畳敷吉」「一畳半ノ外勝手ノ広キハ底ノヌケタル様ニテ悪」(『茶道和泉草』)と説いたという。現代の茶室では大寄(おおよせ)の茶の影響もあって広い水屋が歓迎されるようになった。

[中村昌生]

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百科事典マイペディア 「水屋」の意味・わかりやすい解説

水屋【みずや】

(1)茶室に付随し,茶事の準備や片付けをする場所で,一般の台所のようなもの。形式や構造は茶室の茶道口,給仕口のつけ方によって決定されるが,簀の子(すのこ)流しを構えるほか必要な棚や物入れを設ける。移動式の置水屋,洞庫に仕込んだ水屋洞庫などもある。(2)茶器・食器などを入れる箪笥(たんす)様の調度品。(3)社寺で,参詣者に手・口をすすがせるため水を備えてある場所。(4)河川の流域などで洪水避難のため盛土の上に建てられた家屋。
→関連項目燕庵

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「水屋」の解説

みずや【水屋】

➀社寺で、参拝人が手や口を洗い清める所。◇「御手洗(みたらし)」ともいう。
➁茶の湯で、茶室に付属して作った台所。茶道具類を整頓(せいとん)し、使用後に洗ったりする場所。
➂食器などを入れる、箪笥(たんす)のような形の戸棚。
➃洪水のときに避難するために、盛り土をして高くした上に建てる家屋。

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世界大百科事典(旧版)内の水屋の言及

【茶室】より

…蒲(がま)や真菰(まこも),葭(よし),寒竹,萩,木賊(とくさ)などの類を用いることもある。
[水屋]
 茶室には,茶の湯の準備をするための勝手,水屋(みずや)が必要で,流しと,その上に諸道具を並べる水屋棚と物入,丸炉などの装置を備えている。流しの回りの腰板や柱に竹釘を打ち,少しの隙間も無駄にしない水屋棚の整然とした構成と使い方にも,茶の湯の真価が示されている。…

※「水屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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