水底遺跡(読み)すいていいせき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水底遺跡」の意味・わかりやすい解説

水底遺跡
すいていいせき

天災地変により過去の人間の生活、文化の証跡が、海湖池沼の水底に沈積したものをいい、集落・都市址(し)、遭難船などがある。水中遺跡ともいう。1853年スイスのチューリヒ湖その他で確認された杭上(こうじょう)住居址、1904年メキシコのユカタン半島で調査されたチチェン・イツァーの聖なる泉(セノーテ)、1928年イタリアのネミ湖で浮揚させた古代ローマの楼船、1900年ギリシアのアンティキテラ沖で探査された古代沈船、1935年突き止められたレバノンの古代港湾都市シドン(現、サイダ)、ティルス(現、ティレ)などが著名である。北欧のノルウェーその他の峡湾にはバイキングの船葬遺跡が多い。地中海は古代船の宝庫といわれる。1960年前後の数年間アメリカ調査団が行った探査により、エーゲ海のトルコ寄りゲリドニア、ヤシ・アダ、キプロス島のキレニア北沖の各海底で青銅器時代、ビザンティン時代などの数隻の沈船が発掘され、船荷によって古代地中海の航路、交易圏が解明された。日本には1908年(明治41)発見の諏訪湖(すわこ)曽根(そね)をはじめ、琵琶(びわ)湖、網走(あばしり)湖、野尻(のじり)湖などの湖底遺跡がある。近年、瀬戸内海小豆島(しょうどしま)近海古備前(こびぜん)陶器満載の中世船、長崎県鷹島(たかしま)近海で元寇(げんこう)の軍船の船荷の一部が発見され、後者は元船探査の手掛りを与えた。

 以上の諸遺跡は水中考古学という新しい研究領域の発達を促進させてきたが、今後さらに高度な科学的技術と方法とによって、探査、解明される水底遺跡が増えることであろう。

[小江慶雄]

『小江慶雄著『海の考古学』(1971・新人物往来社)』

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