水府煙草(読み)すいふたばこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水府煙草」の意味・わかりやすい解説

水府煙草
すいふたばこ

江戸時代、水戸藩領北部地帯の特産物。水戸領への煙草の伝来は、早くは1608年(慶長13)から1620年代後半(寛永(かんえい)初年)と伝えられる。常陸(ひたち)国久慈(くじ)郡赤土(あかつち)村(茨城県常陸太田(おおた)市赤土)の安養院で僧宥範(ゆうはん)の弟子金田次兵衛が始めたといわれる耕作と、すこし遅れて下野(しもつけ)国大山田郷(栃木県那須(なす)郡那珂川(なかがわ)町)から那珂(なか)郡北西部に伝来したものである。寛永期(1624~44)にはすでに商品化されたが、17世紀末から18世紀初頭(元禄(げんろく)・宝永(ほうえい)期)には特産物の地位を占め、藩主徳川光圀(みつくに)が幕府の儒者林羅山(らざん)に煙草を贈ったことは有名。赤土村を中心とする生産は元禄期(1688~1704)以降いっそう増加し、近世後期には綿(わた)、紅花(べにばな)、和紙に次いで第4位の移出量となる。販売は葉のままもあったが、水戸、那珂湊(なかみなと)、太田などで加工業者により刻み煙草となり、江戸方面に出荷された。天保(てんぽう)期(1830~44)前後従来柳葉(やなぎは)、横葉にかわって薩摩(さつま)種が入ると、加工がいっそう進み、幕末遊女の名から雲井(くもい)と名づけられた製品は、全国市場で名声を博し明治期まで続いた。

[佐久間好雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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