水素爆弾(読み)すいそばくだん

精選版 日本国語大辞典 「水素爆弾」の意味・読み・例文・類語

すいそ‐ばくだん【水素爆弾】

〘名〙 核兵器の一種。起爆剤として原子爆弾を用い、数千万度にもおよぶ超高温を得て水素の熱核融合を起こさせ、そのとき発生するエネルギーを用いた爆弾。水爆。
※自由学校(1950)〈獅子文六〉乱世「不精という性癖は、抜くべからざるものであって、たとえ水素爆弾で脅迫しても、効果はないだろう」

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デジタル大辞泉 「水素爆弾」の意味・読み・例文・類語

すいそ‐ばくだん【水素爆弾】

原子爆弾の一種。水素同位体核融合によって放出されるエネルギーを利用する爆弾。起爆薬には小型の原子爆弾を使う。水爆。

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百科事典マイペディア 「水素爆弾」の意味・わかりやすい解説

水素爆弾【すいそばくだん】

重水素ジュウテリウム2H,トリチウム3H)の原子核融合反応を利用した核兵器。起爆には原子爆弾の高温を利用。英語ではhydrogen bombまたはH-bomb。水素爆弾をさらに天然ウランで包んだのが3F爆弾である。米国は1952年に湿式水爆の実験を行い,1954年にはじめて乾式水爆(3F爆弾)の実験に成功したが,このとき多くの被爆者をだした(ビキニ水爆実験,第五福竜丸事件)。1953年にはソ連がリチウムを利用した乾式水爆を完成。さらに英国も加えた3国が実験を続けた。しかし水爆実験による地球規模の放射能汚染に対する憂慮が国際的に高まり,とくに大気圏中の放射性微粒子が問題とされた。こうした世論は,1957年のパグウォッシュ会議をへて,部分的核実験停止条約につながった。→核戦略包括的核実験禁止条約
→関連項目核融合コバルト爆弾熱核兵器

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改訂新版 世界大百科事典 「水素爆弾」の意味・わかりやすい解説

水素爆弾 (すいそばくだん)
hydrogen bomb
H-bomb

ジューテリウム2H,トリチウム3Hの原子核融合反応を利用した核兵器。水爆とも略称。起爆には原子爆弾の高温を利用する。原子爆弾の場合でも実験のさい大気や地下水の放射能汚染等大きな環境破壊が起こるが,水爆になると,その実験でさえ文字どおり地球的規模の放射能汚染を引き起こす。1954年3月より5月にかけてアメリカが太平洋のビキニ環礁で水爆実験を行ったさい,日本のマグロ漁船第五福竜丸は実験の立入り危険区域の外で操業していたにもかかわらず,多量の放射能降灰を浴びた。乗組員全員が大きな放射能障害を受け,久保山愛吉無線長はそれがもとで約半年後に死亡した(ビキニ水爆実験)。またマグロをはじめとする魚介類に著しい放射能汚染が見られた。広島・長崎の被爆から10年も経過しないで日本人が水爆の直接被害を受けたことに,多くの日本人は強い衝撃を受けた。湯川秀樹は同年3月末《毎日新聞》に〈原子力と人類の転機〉と題する一文を寄せ,その中で〈原子力の脅威から人類が自己を守るという目的は,他のどの目的よりも上位におかれるべきではなかろうか〉,また〈人類の一員としてこの問題を考える〉と書いた。これはそのまま1年後の〈ラッセル=アインシュタイン宣言〉に受けつがれた(〈パグウォッシュ会議〉)。その後もアメリカ,ソ連,イギリスは水爆実験を続け,大気圏上空に舞い上がった大量の放射性微粒子は,ジェット気流にのって,北半球全域を汚染しつつあった。これを憂慮して核実験禁止の世論が世界的に高まったが,交渉は遅々として進まず,ようやく1963年8月〈大気圏,大気圏外空間,および海水における核兵器実験を禁止する条約〉がアメリカ,イギリス,ソ連の間で調印・発効した。しかし,フランスと中国は参加を拒否した。この条約が〈部分的核実験停止条約〉ともいわれるのは,その後の核兵器開発で最も重要とされる〈地下核実験〉を除外しているからである。
核戦略 →核兵器
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水素爆弾」の意味・わかりやすい解説

水素爆弾
すいそばくだん
hydrogen bomb

重水素や三重水素など、水素の同位元素原子核が、核融合反応をおこして発生するエネルギーを利用した核兵器の一種。熱核兵器ともよばれる。現在は原子爆弾が爆発したときに生ずる高温を利用して核融合をおこさせており、原子爆弾よりもずっと爆発威力が大きい。本格的水素爆弾は、アメリカは1954年、ソ連は1955年に完成させた。イギリス、フランス、中国、インドも水素爆弾をもっている。1961年ソ連が約60メガトンの爆発を行ったのが、世界最大である。小型水爆の開発も進められている。

[服部 学]

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知恵蔵 「水素爆弾」の解説

水素爆弾

ウラン(U)またはプルトニウム(PU)を短時間で核分裂させ、その時の高温・高圧を利用して重水素(D)と三重水素(T)を核融合させることで、より大きな爆発力を生み出す核兵器。言い換えれば、原子爆弾で数十万〜数百万℃の状態を作り出す起爆装置をもつ核融合爆弾。米国は1952年11月にマーシャル諸島エニウェトク環礁において、重水素と三重水素を実験装置内で核融合させる水爆予備実験をした。53年8月、今度はソ連が重水素化リチウムを用い、世界初の実戦用水爆の爆発実験を成功させた。米国はこれに対抗し、54年3月にマーシャル諸島のビキニ環礁で、やはり重水素化リチウムを使った水爆の爆発実験をした。当時、焼津漁港所属のマグロ漁船・第五福竜丸がビキニ環礁東方海上に出漁していたため被曝(ひばく)した。焼津港に帰港して診察を受けたが、乗組員23人全員が急性放射線症と診断された。

(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水素爆弾」の意味・わかりやすい解説

水素爆弾
すいそばくだん
hydrogen bomb

水爆と略称される。熱核反応によって放出されるエネルギーを使う爆弾。リチウムと重水素の化合物をつくり,これで原子爆弾を包んでおく。原子爆弾によって生じる高温で熱核反応を連鎖的に行わせ,巨大な爆発のエネルギーを得る。 1952年アメリカが初めて実験に成功した水爆は,重水素と三重水素を液化した,いわゆる「湿式水爆」であった。その後小型化する目的で重水素化リチウムを素材とする「乾式水爆」の開発が進み,53年のソ連に続いて,アメリカ,イギリス,中国,フランスなどが実験に成功している。この水爆の周囲を天然ウラン (99.3%は非分裂性のウラン 238) で包み,融合反応から生じる高エネルギー中性子によって分裂反応を生じさせるのが3F爆弾である。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「水素爆弾」の解説

水素爆弾
すいそばくだん

核兵器の一種。水爆と略称。起爆には原子爆弾を用い,その高温によりジュウテリウムとトリチウムの原子核融合反応をひきおこし,膨大なエネルギーが放出される。その際深刻な放射能汚染をもたらし,水爆実験による後遺症は今なお問題となっている。日本では1954年(昭和29)の第5福竜丸事件を契機として原水爆禁止運動が盛り上がるとともに,世界的にも核実験禁止の世論が高まり,63年には部分的核実験停止条約(地下核実験を除く)が締結された。96年には包括的核実験停止条約が締結され,2013年3月現在183カ国が署名しているが,発効の目途はたっていない。

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旺文社世界史事典 三訂版 「水素爆弾」の解説

水素爆弾
すいそばくだん
hydrogen bomb

水素などの熱核融合反応を利用した核兵器。水爆とも略称される
起爆には原子爆弾の高温が利用され,原爆よりはるかに深刻な放射能汚染を起こした。1954年アメリカが行ったビキニ水爆実験は第五福竜丸の日本人漁船員を巻きこみ,反核平和運動が広がるきっかけとなった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「水素爆弾」の解説

水素爆弾(すいそばくだん)

核兵器

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世界大百科事典(旧版)内の水素爆弾の言及

【核兵器】より

…核兵器は,エネルギーを放出するおもな核反応が核分裂であるか核融合であるかによって,核分裂兵器と核融合兵器とに二大別される。前者は原子爆弾(原爆),後者は水素爆弾(水爆)とも呼ばれる。
【開発の歴史】
 1938年ドイツのO.ハーン,F.シュトラスマンらはウランの核分裂を発見した。…

【核融合】より

…(化学式)この反応に基づき,トリチウムの製造を原子炉(分裂炉)を用いて行うことができるが,核融合炉ではDT反応自身によって生ずる中性子を用いて自己増殖させることも可能であり,その目的にリチウムを装荷したブランケット部を炉心プラズマの周囲に設けることが必要となる。 このようにDT反応,DD反応などを用いると,地上で巨大なエネルギーを取り出すことができるが,その実用はすでに水素爆弾(水爆)という型で達成されている。これらの核融合兵器において,点火に必要とされる超高温は核分裂爆弾(原爆)によって発生される(核兵器)。…

※「水素爆弾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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