氷餅(読み)こおりもち

改訂新版 世界大百科事典 「氷餅」の意味・わかりやすい解説

氷餅 (こおりもち)

冬の寒のうちについた餅を凍らせて,保存しておく餅のこと。凍餅(しみもち)ともいう。保存食一種で寒い地方で行われる。庶民にとって正月は大量の餅をつくなど,一種の浪費をともなう行事であった。そのめでたい餅を春や初夏になっても食べることができるのは,ひとつのぜいたくでもあるが,正月の若やいだ気持ちを思い出させ,労働にはずみをつけることにもなる。また,保存食としての効果もあった。6月1日を氷の朔日(ついたち)といって,氷を食べる風習は古くからあったが,氷餅を食べるのは農耕労働で消耗した体力を補強する意味もあった。佐賀県小城郡(現,小城市)では,正月7日の火祭に正月の神に供えた餅をあぶり,寒水にさらしてつとに入れて干しておき,6月の朔日に氷餅といって食べるという。すると,氷餅でなくとも,寒の水につけておいた餅を,田植のときや,夏の土用に食べるのも同じ意味といえよう。食べ方は,焼いたり油でいためてもどすのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「氷餅」の意味・わかりやすい解説

氷餅
こおりもち

信州(長野県)名物の一つ。凍(し)み餅ともいう。餅を液状にして厳寒のもとで凍らせ、十数日をかけて自然乾燥させる。食するときは熱湯をかけ、砂糖を加える。鎌倉初期からあり、雪餅(ゆきもち)とも称した。武士陣中糧食としてそのまま食べたものらしい。江戸時代になっても、非常時に備えて、諏訪(すわ)藩は氷餅を御糧菓としていた。菓子というより主食近く病人食離乳食にも用いられる。氷餅は岩手県など東北地方でもつくられる。

[沢 史生

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百科事典マイペディア 「氷餅」の意味・わかりやすい解説

氷餅【こおりもち】

冬に凍らせて保存しておく餅。保存食の一種。〈氷の朔日(ついたち)〉といわれた6月1日に氷を食べる風習が古くからあったが,この日に氷餅を食べる地方もあった。正月の鏡餅に代表されるように,餅はもともと儀礼的な食べ物でもあり,田植え時期に氷餅を食べることにもそうした意味合いが読みとれる。焼いたり油でいためてもどして食べる。

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世界大百科事典(旧版)内の氷餅の言及

【歯固め】より

…たとえば,平安時代の貴族社会では押鮎,鹿肉,大根などが用いられ,のちに鏡餅(古くは餅鏡(もちいかがみ)といった)も歯固めの具とされるようになった。現在民間では,餅やかちぐり(搗栗),豆,串柿などで歯固めをする所が多いが,6月1日(氷の朔日)まで正月の鏡餅を保存しておいて歯固めとも氷餅とも称して食べる所もある。年神に供えたものに霊力を認め,体力の消耗する夏にこれに頼ろうとする気持ちがかつてあったのかもしれない。…

※「氷餅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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