永代売(読み)えいたいうり

精選版 日本国語大辞典 「永代売」の意味・読み・例文・類語

えいたい‐うり【永代売】

〘名〙 年季をきらないで永久に売り渡すこと。おもに田畑など土地売買についていう。徳川幕府は、これをきびしく禁じたが、質入れ形式によるものは跡を絶たなかった。永代売買。〔地方凡例録(1794)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「永代売」の意味・わかりやすい解説

永代売 (えいたいうり)

日本中世の土地売却形態の一つ。永久に売る売却の意で,中世の土地売買契約書である売券に多くみられ,今日の〈売却〉に近い意味の言葉として使用されている。日本の古代社会の土地売却における〈売る〉という語には,賃租を意味する〈売〉と〈永売〉という2形態が存在した。しかし,代価を支払って1年間借耕する賃租はもちろんのこと,永代売の祖型である〈永売〉も今日のようなその所有権の完全な移転を意味する売却ではなく,売主の請戻し・買戻しが常に前提とされていた。この〈永売〉の〈永〉は現代的観念にみられる抽象的な時間的無限性を意味するのではなく,時間的限定を設定しないことが〈永〉であり,永売は一般的貸借契約のように質地の請戻期限を限定しない売却形態として存在した。このように日本では,その出発点において所有権の完全な移転を意味する売却形態は存在せず,土地を売却してもなお一般的には,売主の〈根〉がその土地に残っていると考えられていたのである。

 中世になって永売が永代売として発展して,今日の売却の意味がしだいに形成されてくるが,なおこの時代においても本銭返し年季売などの土地売却形態が多くみられ,土地の有期的,もしくは取戻し留保つきの売買のほうがむしろ一般的であった。やがて京都を中心とした先進地域において,この永代売の形態が広く行われるようになると,〈売る〉という言葉もそれにつれて,今日の〈売る〉に近い意味の語として使用されるようになるが,なお戦国時代にいたっても関東,東北,四国,九州などの諸地方では,売却と質入の区分が明確に分離されていない〈売る〉の語が一般的であった。さらに中世後期に多く現れる農民の土地売券においては,永代売においてもなお売却地の請戻し,買戻しが可能であるとの意識が強く残っていることが知られる。少なくとも永代売の契約をしても代価を持参することにより買戻し可能という考え方が存続していた。そしてこの農民の土地売却観念は,江戸時代の農民にも継承されていった。

 これらの事実からいえば,日本においては,近代にいたるまで近代的な明確な土地売買は成立しえなかったといえる。その意味で,〈売る〉はもちろん,永代売も今日の土地売却と同義であったということはできない。しかし,この土地売却観念は,けっして日本だけのものではなく,世界諸民族のなかに広くみられる。このような永代売という語を生みだした土地売却観念は,土地とその本来の持主(個人ではなく家)は分離すべきではないという未開社会に広くみられる呪術的土地所有観念に支えられたもので,徳政一揆の土地取戻要求,百姓一揆による質地騒動はいずれもこの観念にもとづいて行われた。室町幕府徳政令は永代売を取戻しの対象から除外したが,徳政一揆がこれをも対象としたのは,土地観念のギャップをよく示している。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「永代売」の解説

永代売
えいたいうり

年季を限らずに売り渡すこと。中世までは,人身についても行われた。江戸時代,幕府は1643年(寛永20)に永代売買による小農民の土地の喪失の防止を目的とした田畑永代売買禁止令をだした。禁止は1872年(明治5)まで続いたが,質入の形態による事実上の永代売が広く行われ,時期が下るにしたがって増加した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「永代売」の解説

永代売
えいたいうり

年期を限らず永久に売り渡すこと
古代から人身の永代売は行われていたが,土地の私有化と,中世に入り商品経済の発達につれて土地の永代売が増加。荘園領主や封建的支配層は年貢確保のためこれに種々の制限を加えた。

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世界大百科事典(旧版)内の永代売の言及

【田畑永代売買禁止令】より

…ただし,この名称による法令があるわけではなく,1643年(寛永20)3月に代官あてに出された全7条の〈書付〉中の第3条と,同年同月に農民あてに出された全17条の〈書付〉中の第13条とを合わせていう。これに同年同月に出された罰則〈田畑永代売御仕置〉(全4条)を含めることも多い。代官あてでは〈豊かな百姓は田畑を買い集めてますます豊かになり,貧乏な百姓は田畑を売却してますます貧乏になるので,今後田畑の売買を禁止する〉といい,農民あてでは理由を述べずに〈田畑の永代売買を禁止する〉といっている。…

【百姓】より

…特に,領主が施工主体になって推進した土木灌漑工事は,農業の生産基盤を飛躍的に強化・拡大させ,小農自立の生産力的基礎を創出し,隷属的小農民の百姓への成長転化に大きく寄与した。これと同時に,五人組制度,田畑永代売買禁止令分地制限令,そのほか農民生活や農業生産を規制する御触書(おふれがき)(たとえば慶安御触書)などによって,百姓は土地に緊縛されて年貢・諸役を負担するものとされた。百姓は高請地の年貢納入義務を完済するかぎり,田畑の耕作と屋敷への居住を末代にいたるまで保障された。…

※「永代売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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