求塚(読み)モトメヅカ

デジタル大辞泉 「求塚」の意味・読み・例文・類語

もとめづか【求塚】

謡曲四番目物金春を除く各流。観阿弥作。万葉集などに取材。菟名日処女うないおとめの霊が、二人の男に愛されたために入水じゅすいした故事と、死後の苦しみを語る。

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日本歴史地名大系 「求塚」の解説

求塚
もとめづか

「源平盛衰記」「太平記」にみえる地名。「万葉集」には血沼壮士と菟原壮士の二人から求愛され命を捨てた葦屋処女を詠んだものがあり、その墓を巻九の田辺福麿の歌では葦屋処女墓あしやおとめのつか、高橋虫麿の歌では菟原処女墓うないおとめのつか、巻一九の大伴家持の歌では処女墓おとめのつかとしている。「大和物語」でもこの説話が語られ、女の墓の左右に男たちの塚が築かれたとする。「源平盛衰記」巻一七では求塚と名称が変わり、「求塚と云へるは、恋故命を失ひし、二人の夫の墓とかや」と記される。もとめ塚・をとめ塚を詠じた歌は堀河百首・五社百首にも載る。

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改訂新版 世界大百科事典 「求塚」の意味・わかりやすい解説

求塚 (もとめづか)

能の曲名。四番目物。観阿弥作か。シテは菟名日処女(菟原処女(うないおとめ))の霊。旅の僧(ワキ)が摂津の生田に赴くと,若菜摘みの若い女たち(前ジテツレ)が来かかる。僧は求塚のありかを尋ねるが,女たちは知らないと答え,残雪をかき分けて一心に若菜を摘み,また帰って行く(〈下歌(さげうた)・ロンギ等〉)。ところがただ1人居残った女がいて,僧を求塚に案内し,塚にまつわる伝説を話して聞かせる。昔,小竹田男(ささだおとこ)/(ささだおのこ)と血沼丈夫(ちんのますらお)/(ちぬのますらお)という2人の青年が菟名日処女という女に恋をして,同時に恋文を送った。女はどちらへもなびかず,生田川オシドリを射当てた人に従うと言ったが,2人の矢は同時に鳥を射留めた。女が悩みぬいて川に身を投げたため,その遺体を築きこめたのがこの塚で,その後男たちも刺し違えて死んだが,それさえ女の身の咎(とが)となってしまったのだと言って,女は塚の中に姿を消す(〈語り・上歌(あげうた)〉)。僧が弔うと夜半に菟名日処女の霊(後ジテ)が塚の中から現れる。やせ衰えた面ざしの霊は,2人の男の亡霊や化け鳥となったオシドリに,死後も悩まされているのだと訴え,地獄の苦しみの数々を見せてまた塚の中に消えて行く(〈中ノリ地〉)。この能の主題は異性の求愛に対する不決断が,ついに死に結びつき,さらに死後永遠の苦しみをもたらすというもの。主人公自身に恋の執念があったわけではなく,その点で類曲とは趣が違う。前場のさわやかな若菜摘みの場面が,後半の暗い苦悩の場面とあざやかな対比をなす。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「求塚」の意味・わかりやすい解説

求塚
もとめづか

能の曲目。四番目物。観世(かんぜ)、宝生(ほうしょう)、金剛喜多(きた)四流現行曲。ただし観世流は観世華雪(かせつ)による1952年(昭和27)の復曲。観阿弥(かんあみ)作曲の能、作詞も観阿弥らしい。『万葉集』『大和(やまと)物語』を出典とする生田川(いくたがわ)伝説による。2人の男からの求婚を選びかねて自殺した美女の物語だが、男たちが後を追って死んだ罪で、地獄における女の凄惨(せいさん)な責め苦に重点を置くのが能の主張である。旅僧たち(ワキ、ワキツレ)が津国(つのくに)(兵庫県)生田の里を通りかかり、若菜摘みの乙女たち(前シテ、ツレ数人)に求塚のありかを尋ねるが、教えようとしない。皆が去り、ひとり残った女が求塚へと案内し、菟名日処女(うないおとめ)の入水(じゅすい)と、刺し違えて死んだ男たちのことを語り、それさえ私の科(とが)になってしまったと、救いを求めつつ塚に消える。僧の弔いに、美貌(びぼう)も無残にやせ衰えた菟名日処女の亡魂が現れて読経を喜ぶが、たちまち地獄の苦患(くげん)が襲いかかり、やがてその姿は闇(やみ)の世界へと消えていく。後半の凄惨さと、前半の若菜摘みの春浅い風情とがみごとに映り合う、能の名作。なお、同じ生田川伝説を扱った森鴎外(おうがい)の戯曲に『生田川』があり、現代語で書かれた最初の史劇として名高い。

[増田正造]

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世界大百科事典(旧版)内の求塚の言及

【生田川説話】より

…《大和物語》147段では,さらに詳しく具体的になり,村上帝の後宮において中宮をはじめ女房たちが障子歌をよむ場や,処女塚(おとめづか)の後日譚がつく。処女塚は,《散木奇歌集》第五羇旅や《堀河百首》雑に収められた源俊頼の〈海路の心をよめる〉という詞書(ことばがき)をもつ和歌では,求塚となっており,《太平記》巻十六の湊河の合戦の場面にもみえている。今川貞世《道ゆきぶり》には〈この川に鳥射しますらをの塚〉と見える。…

※「求塚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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