江戸川乱歩(読み)エドガワランポ

デジタル大辞泉 「江戸川乱歩」の意味・読み・例文・類語

えどがわ‐らんぽ〔えどがは‐〕【江戸川乱歩】

[1894~1965]小説家。三重の生まれ。本名、平井太郎。筆名は19世紀米国の文学者エドガー=アラン=ポーのもじり。大正12年(1923)雑誌「新青年」に「二銭銅貨」を発表、日本の探偵小説の基礎をつくった。他に「人間椅子」「陰獣」「黄金仮面」、評論集「幻影城」など。

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精選版 日本国語大辞典 「江戸川乱歩」の意味・読み・例文・類語

えどがわ‐らんぽ えどがは‥【江戸川乱歩】

小説家。本名平井太郎。三重県生まれ。日本で初めて本格推理小説を書き、その発展に尽力。代表作「二銭銅貨」「心理試験」「パノラマ島奇譚」「陰獣」「怪人二十面相」、評論「幻影城」など。筆名は、アメリカの詩人・小説家のエドガー=アラン=ポーをもじったもの。明治二七~昭和四〇年(一八九四‐一九六五

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「江戸川乱歩」の意味・わかりやすい解説

江戸川乱歩
えどがわらんぽ
(1894―1965)

推理作家。本名平井太郎。明治27年10月21日、三重県名張市に生まれる。早稲田(わせだ)大学政経学部卒業。中学生のころに黒岩涙香(るいこう)の『幽霊塔』などの作品に熱中して以来、欧米のミステリーを耽読(たんどく)。ペンネームは彼が傾倒したエドガー・アラン・ポーに由来する。大学卒業後は貿易商社員、造船所事務員、古本商、東京市役所吏員、屋台の支那(しな)そば屋など各種の職業を転々とする。『二銭銅貨』を『新青年』に投稿、編集長森下雨村(うそん)の目にとまり、1923年(大正12)同誌の4月号に掲載された。本格的な暗号解読トリックにした本編は、日本に近代的な推理小説を確立した記念碑的な作品である。その後『心理試験』(1925)、『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『人間椅子(いす)』など、独創的なトリックと斬新(ざんしん)な着想による短編と、『湖畔亭(こはんてい)事件』(1926)、『陰獣』(1928)などの長編を執筆するかたわら、『押絵と旅する男』『孤島の鬼』のような幻想的な怪奇趣味の名編を発表した。しかし30年前後から創作力の枯渇を覚え、どぎついサスペンスを売り物にした『蜘蛛男(くもおとこ)』(1929)、『黄金仮面』(1930)などの通俗スリラーへと転じ、また一方では『怪人二十面相』以下の児童読み物を書いて喝采(かっさい)を博した。中期の本格的な作品としてみるべきものは『石榴(ざくろ)』(1934)で、第二次世界大戦中は事実上執筆禁止の状態に置かれた。戦後は『化人幻戯』(1954)のような長編も書いたが、乱歩の情熱は創作よりもむしろ推理小説の普及と後輩育成研究と評論へと向けられ、47年(昭和22)探偵作家クラブの初代会長となり、54年還暦を記念して新人発掘を意図した江戸川乱歩賞を設定、63年には日本推理作家協会の初代理事長に就任した。推理小説の創作のほかに、評論集『幻影城』正・続(1951、54)、自伝的エッセイ集『探偵小説四十年』(1961)がある。昭和40年7月28日死去。

厚木 淳]

『『江戸川乱歩全集』全25巻(1978~79・講談社)』『中島河太郎著『江戸川乱歩――評論と研究』(1980・講談社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「江戸川乱歩」の意味・わかりやすい解説

江戸川乱歩 (えどがわらんぽ)
生没年:1894-1965(明治27-昭和40)

探偵小説作家,評論家。本名平井太郎。筆名はエドガー・アラン・ポーのもじり。三重県生れ。早稲田大学政治経済学部卒業。在学中から英米の探偵小説に関心を抱き,卒業後十数種の職業についた。1923年に《二銭銅貨》を発表し,日本における創作探偵小説の基盤を築き,続いて推理を主軸にした《心理試験》(1925),《陰獣》(1928),《石榴(ざくろ)》,怪奇的な《人間椅子》(1925),《鏡地獄》《パノラマ島奇譚》(1926-27),幻想的な《押絵と旅する男》(1929)などで,探偵小説という新分野を確立した。一方《蜘蛛(くも)男》(1930),《黄金仮面》などのスリラー長編は,強烈なサスペンスにあふれ,一般読者から熱狂的歓迎をうけ,探偵趣味を普及させた。戦後は心理的トリックをねらった《化人(けにん)幻戯》などがあるが,創作よりも海外作家の紹介や研究評論に力を注いだ。46年には探偵作家の親睦,研究を目的とする土曜会を提唱して主催し,戦後の探偵文壇の体制をととのえ,翌年,それを探偵作家クラブに発展させ,初代会長に選ばれた。52年,評論集《幻影城》により第5回探偵作家クラブ賞を受賞。54年,還暦祝賀会の席上,基金を提供して江戸川乱歩賞の制定を発表,新人作家の登竜門の役割を果たしている。57年,探偵雑誌《宝石》が経営難に陥ったさい,陣頭にたって編集,経営に参画した。61年に紫綬褒章を受章。63年,探偵作家クラブを改組して社団法人日本推理作家協会が設立され,初代理事長となった。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「江戸川乱歩」の意味・わかりやすい解説

江戸川乱歩【えどがわらんぽ】

推理小説作家,評論家。本名平井太郎。三重県生れ。早大政経学部卒。十数種の職業に従事。筆名は私淑したエドガー・アラン・ポーに基づく。1923年《二銭銅貨》を書き,日本における創作推理小説発展の道筋を示す。《心理試験》《屋根裏の散歩者》《人間椅子》《赤い部屋》《パノラマ島奇譚》などで本格的推理小説,怪奇幻想小説を開拓。1957年からは雑誌《宝石》の編集にあたり,推理小説の振興をはかった。少年読物や評論《幻影城》などもある。
→関連項目大藪春彦新青年(日本)推理小説高木彬光横溝正史

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知恵蔵 「江戸川乱歩」の解説

江戸川乱歩

日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県の現・名張市出身。本名は平井太郎。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーをもじったもの。
早稲田大学政治経済学部を卒業後、大阪の貿易会社に就職。その後、古本屋開業を経て、蕎麦屋、新聞記者など職業を転々とした後、1923(大正12)年に「二銭銅貨」で作家デビューを果たす。その他の代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』などを始めとした本格推理小説や、『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説など多数。大正時代から昭和時代にかけて、生涯で約130の作品を発表し、日本の近代的な推理小説の礎を築いた。戦後は推理小説の評論集『幻影城』なども出した。
47年に日本推理作家協会の前身である「探偵作家クラブ」を立ち上げ、初代会長にも選ばれた。54年には、乱歩の寄付を基金として「江戸川乱歩賞」が創設された。同賞は、これまでに陳舜臣、西村京太郎、森村誠一、東野圭吾などが受賞するなど、推理小説作家の登竜門となっている。
65年に死亡。終の棲家となった東京の邸宅と、乱歩が「幻影城」と呼んだ土蔵は、内部に残された約4万点の蔵書や資料と共に、隣接する立教大学が2002年に購入した。その邸宅内に「立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター」が創設され、公開もされている。生誕120周年の14年には記念イベントも開かれた。

(松岡理絵 フリーランスライター/2014年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「江戸川乱歩」の意味・わかりやすい解説

江戸川乱歩
えどがわらんぽ

[生]1894.10.21. 三重,名張
[没]1965.7.28. 東京
小説家。本名,平井太郎。 1916年早稲田大学政経学部卒業。十数種の職を転々としながら『二銭銅貨』 (1923) で認められ,近代日本探偵 (推理) 小説の先駆をなした。その筆名はエドガー・アラン・ポーをもじったもの。完全犯罪計画を精神分析の方法で見破る『心理試験』 (25) などでトリックの妙を発揮した本格短編の手法を確立後,『パノラマ島奇譚』 (26~27) などの長編,妖異な雰囲気に満ちた『陰獣』 (28) ,『押絵と旅する男』 (29) ,スリルとサスペンスに富む『蜘蛛 (くも) 男』 (29~30) など推理小説のさまざまなスタイルを開拓。第2次世界大戦後は探偵作家クラブ (のち日本推理作家協会) の設立 (47) ,推理小説雑誌『宝石』 (46~64) の編集にあたる (57) など,推理小説の育成に努めた。評論集『幻影城』 (51) ,『続・幻影城』 (54) がある。 54年江戸川乱歩賞が設けられた。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「江戸川乱歩」の解説

江戸川乱歩 えどがわ-らんぽ

1894-1965 大正-昭和時代の推理作家。
明治27年10月21日生まれ。大正12年「二銭銅貨」でデビュー。本格的トリック,奇抜な着想,幻想怪奇趣味などにより代表作「人間椅子」「陰獣」をかく。ほかに「怪人二十面相」など作品多数。戦後は評論集「幻影城」を刊行,江戸川乱歩賞を創設した。昭和40年7月28日死去。70歳。三重県出身。早大卒。本名は平井太郎。
【格言など】人間に恋はできなくとも,人形には恋ができる。人間はうつし世の影,人形こそ永遠の生きもの(「人形」)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「江戸川乱歩」の解説

江戸川乱歩
えどがわらんぽ

1894.10.21~1965.7.28

大正・昭和期の小説家。本名平井太郎。三重県出身。早大卒。職を転々としたのち,1923年(大正12)「新青年」に「二銭銅貨」が掲載され作家としてデビュー。怪奇趣味と合理的推理をあわせもつ探偵小説をつぎつぎに発表,斯界を主導した。「怪人二十面相」などの少年物も執筆。第2次大戦後は推理小説をめぐる研究・評論に活躍するとともに,後進の育成につとめた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

事典・日本の観光資源 「江戸川乱歩」の解説

江戸川乱歩

(三重県名張市)
伊賀のたからもの100選」指定の観光名所。

出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報

世界大百科事典(旧版)内の江戸川乱歩の言及

【推理小説】より

…林髞)の提唱があった。戦前の〈探偵小説〉があまりにも〈本格〉のなぞ解きに偏しすぎたと批判し,あくまで〈文学的小説〉でなければならぬと主張(そのためになぞ解きを強調する江戸川乱歩と論争をした)する木々は,より広い内容をもつものとして新たに〈推理小説〉という語を持ち出した。木々の定義によると,これは〈推理と思索を基調とした小説〉で,〈探偵小説,怪奇小説,スリラー,考証小説,心理小説,思想小説などすべてを〉含むものであった。…

※「江戸川乱歩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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